第6話 魔物の驚異


 ここ数日程で魔物に襲われた者が急増している。


 それはベリナリス国と、その北側にある小国アーテノワ国が主で、この二国から報告が上がって来ている。


 空間移動の装置、転送陣が出来てからというもの、広く速くに国の情勢が分かるようになった。ここらの国一帯の宗主国となっているオルギアン帝国へ寄せられた被害報告。言うなればSOSを出してきたって訳だ。


 まずは調査に乗り込む。まぁ、俺以外でも向かってる奴はいてるから、急がなくても良いんだけどな。



「エリアス!おはよう!今日もいい天気だよ!」


「あぁ、ルーナ、よく晴れてるな。」


「ねぇ、今日も遅くなるの?ずっと仕事ばっかりだね。」


「そうか?まぁ、色々やることがあんだよ。」


「休んでもないじゃん。少しはゆっくりすれば良いのに。」


「俺が働いて、ここの奴ら食わさないといけねぇからな。」


「そんなに働かなくても大丈夫だよ!たまには遊んだらいいじゃん!」


「遊ぶ?何して?……そうか、子供達どっか連れてってやったりした方が良いのかな。けど、大所帯だからなぁ……」


「そうじゃなくて!その、ほら、そろそろ他も見た方が良いんじゃない?もうアシュリーがいなくなって一年は経つんだしさ……他の女の子と、その、遊ぶ……とか……?」


「他を見るって、んなことできる訳ねぇだろ?まだ一年しか経ってねぇし、俺は生涯アシュリーだけだ。」


「全く……本当に融通きかないよねー……何年待てばいいんだよ……」


「え?なんだ?」


「何でもない!ほら、先に食べちゃって!」


「え?あぁ。いただきます!」



 ここはインタラス国の王都コブラルにある、俺が作った孤児院だ。今話してたルーナは、ここに住込みで働いてもらってる子だ。ある程度大きくなってから親がいなくなって国の孤児院に入れない子や、病気の親をかかえてる子なんかも、親と一緒にうちで預かっている。それに、俺が他国で見つけた、身寄りがなくて孤児院にも入れて貰えない子なんかも連れてきたりしてて、今子供だけで30人近くいる。


 アシュリーは一年前に天国へと旅立った。惚れて惚れて、やっと掴んだ女だから、簡単に忘れるなんてできる訳がねぇ。


 一人考える時間があると、すぐにアシュリーを思い出して悲しくなっちまうから、俺はとにかく仕事をしまくる!それに探さなきゃならねぇしな。


 朝飯を食って、空間移動でまずはオルギアン帝国へ行く。今俺はインタラス国の王都に住んではいるが、そこから北の方にある国、オルギアン帝国のSランク冒険者だ。インタラス国は、まぁ言うなれば、俺にとっちゃあ故郷みたいなもんだな。


 Sランクとは、冒険者の一番上のランクで、国お抱えの冒険者って事になっちまう。まぁ、国に雇われたくなけりゃ、Aランクにとどまっておくのが無難だな。冒険者ランクは、Gが一番下で、Sが最高ランクとされている。特にオルギアン帝国のSランクは他国に比べてレベルが高いらしい。俺はよく知らねぇけどな。そこで俺はSランク冒険者のリーダーをしている。


 アシュリーの双子の兄、リドディルクがオルギアン帝国の前皇帝だった。アイツには借りがあったしアシュリーも望んでいたから、俺はこの先もずっとオルギアン帝国のSランク冒険者でいるつもりだ。



「よう!ゾラン!今日も元気か?!」


「エリアスさん、おはようございます!エリアスさんは今日も元気ですね!」


「まあな。」



 ここはオルギアン帝国にある俺専用の部屋だ。メイドがお茶を入れてくれてる所に、ゾランがやって来た。ゾランは今は現皇帝のヴェンツェルの右腕として働いてはいるが、実質今オルギアン帝国を動かしているのはゾランだと言っても過言ではないくらいにやり手の男だ。



「で、どうよ?被害報告は。」


「そうですね。特にアーテノワ国の報告が多いです。あの国は今まで魔物に脅かされる事はありませんでしたからね。」


「あぁ、黒龍の加護ってやつでか?」


「ええ。眉唾物だと思っていたんですが、本当だったみたいです。その加護だかのお陰で、魔物に怯える事もなく、村や街の外壁には何の対策もとられていなかったんです。もちろん冒険者も他の国に比べて極端に少ないですし、自国には兵も少ないようで、対応が遅れているみたいなんですよ。」


「そっか。それは難儀だなぁ。」


「えぇ。もちろん、既に調査隊を送り込んでます。冒険者も派遣してますし、救援物資も送っています。まぁ、もっとキチンとした情報が分からないと万全な対策は取れませんけどね。」


「だな。じゃあ、俺も行ってくるか。」


「いつもありがとうございます!エリアスさんが行ってくれるなら百人力です!」


「あんまり持ち上げんな?俺はすぐに調子に乗るぜ?」


「知ってます!だから言ってます!」


「くっそ!腹立つなぁ!」


「でも、本心ですから!ではお願い致します!」


「分かったよ。っとに、ゾランには負けるよ。」



 入れて貰ったお茶をぐいっと一気に飲んで、それからすぐに空間移動でアーテノワ国にやって来た。国には一定量の転送陣があって、国同士や街同士を繋いでいる。これを使うのには許可が必要で、誰が何の目的でいつ行って帰って来るのか等を詳しく申請しないといけない。なんの用もなく勝手に転送陣を使うことはできないんだ。


 まぁ、俺自身が空間移動を使えるから、転送陣が無くても知ってる場所や人を思い浮かべれば、即座にそこまで飛んでいけるんだけどな。


 まずはアーテノワ国の王都ルミニアにある王城を訪ねる。ゾランが書状を送ってくれているから、止められることなくすんなり入る事ができた。それからすぐにアーテノワ国王に取り次いで貰う。すぐに国王と面会する事ができた。


 城の一角にある応接室で、現国王イオニアスと会う。イオニアスは嬉しそうに、俺を見ると微笑んで握手を求めてきた。しっかりと握手をしてから、ソファーにドカッと座る。



「エリアス殿が出向いてくださるとは……頼もしい限りです!」


「俺で出来る事はするつもりでいる。現状を教えて貰えるか。」


「はい。ここ王都はまだ外壁も高く、厳重にしている事と、森からは遠いということで被害は然程ありませんが、中心部から離れていけばいく程魔物の驚異に侵されております。森や山が近い場所での被害報告が多いのが現状です。」


「なるほどな。そんなに黒龍の加護ってのは大きかったのか?」


「そうですね。他国の人には信じられなかったかも知れませんが、この国に生まれた者達は、まずおとぎ話の様に、黒龍の加護の話を赤子の頃から聞かされます。それはもう、何百年と続いているのです。」


「黒龍の加護とかじゃなくて、単にここら辺に魔物がいなかっただけとかじゃねぇのか?」


「いえ!それはありえません!であれば、急にこうやって魔物に襲われる事はありませんから!」


「……まぁ、そうかもな……で、どのレベルの魔物が確認されている?」


「現在分かっているのは、DやCランク相当の魔物が多いです。まだ確認は出来ていませんが、Aランクが現れた、との報告もあります。」


「マジか……やべぇな……」


「はい……今まで何の対策もとっていなかったのがいけないんですが、こんなに急にこうなるとは……」


「ま、仕方ねぇよな。とりあえず被害の大きかった場所と、そのAランクが出たって所に行ってくるか。それと、他に高ランクの魔物が出たって報告があるなら、その場所を教えてくれ。それから……もし身寄りがなくなった子供がいたら、この国はどう対応できる?」


「えっ……と、それは、もちろん孤児として受け入れます。」


「家を失った者、仕事を失った者の保護は出来るか?怪我人はどうする?」


「ある程度は……対応はできるかと……」


「じゃあまずは、受け入れ体制を整えておいてくれねぇか。オルギアン帝国からもなるべく救援するが、自国で出来る事はなるべくした方が良い。国王の威厳にも繋がるしな。」


「それは勿論です!」


「今が正念場かも知んねぇぞ?小国だろうが関係ねぇ。アンタはここの国王なんだ。胸を張って国民を守ってやってくれ!」


「はい!必ず!」


「それと、冒険者とか兵じゃなくても、動けそうな人員を集めておいた方がいいな。無償じゃねぇ、ちゃんと金を出すんだ。それはこっちからも支援すっから。」


「はい!分かりました!」


「よし、じゃあ行ってくる。また報告に来るからな。」


「よろしくお願い致します!」



 イオニアス国王は深々と頭を下げた。俺みてぇな貴族でもなんでもねぇ、ただの冒険者にこんなふうにできるとは、マジで見上げた野郎だな。だが、そうでないと国民は守れねぇ。なんかあった時の責任を取る為に、上に立つ者ってのはいるんだろうからな。


 すぐに空間移動で、魔物の被害が多かった場所まで飛んでいく。前にここら一帯を調査で来ていたから、すぐに来ることが出来て良かった。


 魔物の被害が多かった村は、それはもう悲惨だった。


 家や畑は無茶苦茶に壊され踏み荒らされ、酪農で飼われていた動物なんかは食い散らかされていた。そこには動物だけじゃなくて人間と思われる死骸も含まれている。至るところに体の一部だと思われるモノがあって、それを見ると心が痛んでくる。


 村人達は一ヶ所の建物に集まっていて、泣いて震えている人達ばかりだった。奥には怪我人が多く寝かされていたが、村人は心身膠着状態で看病も儘ならないのが現状だった。


 まずは部屋の中心まで行って、部屋全体に行き届くように回復魔法を放つ。すると、動けなかった怪我人が、みるみるうちに回復していき、皆が不思議そうに起き上がって驚く。部屋中を回復させたから、かすり傷程度の人達にもその効果は表れて、皆が俺に感謝の言葉を投げ掛けてくる。


 それから外に出て、村全体を覆うように回復魔法を施していく。すると、崩壊していた家や建物が復元されていく。俺の回復魔法は物にも有効なんだ。それには村人が驚いて、皆が嬉しそうにして俺に礼を言ってくる。


 それでも亡くなった人も多かったから、この村が元通りになることはない。なるべく早くに復興して、皆の気持ちも元気になれば良いんだけどな。


 親が襲われて亡くなった子供達も、この村で面倒見てもらえるようだ。良かった。


 空間収納に入れていた食料と水を取り出してそれを渡し、国からの救援が来るまで村から出ないように伝え、街全体に結界を張っておく。これで当分は問題ないだろう。救援が来るまでの間に村の外壁を作るように伝え、その場を後にした。


 他に被害が多い場所にも行って同じようにしてから、高ランクの魔物が出たと言う場所に行く。そこで魔物の気配を察知して、率先して討伐していく。


 けど、流石に多いな。


 一つの場所にこんなに多いってのは、今まであまり無かった事だ。これが加護の無くなった状態ってのか?今まで潜んでたのが、一気に暴れだしたって感じだな。


 今回で高ランクとされる魔物は10~15体は討伐した。どんだけいるんだ?!って話だ。このままじゃ、この国が滅びちまうぞ?!


 その状況を王城へ行き報告してから帰ることにする。


 もう夜だ。流石に疲れた。魔力をも枯渇してきてる。補充でもしにいくか……


 そう思って、アーテノワ国に隣接してる国、ベリナリス国にあるニレの木まで行くことにした。この木は魔力を帯びていて、そこにいるだけで魔力が体に満ちてくるんだ。だから、魔力が無くなりそうな時は決まってここにやって来る。


 それに……ここはアシュリーとの思い出の場所でもある。


 普通の人達は、このニレの木には近づくことも出来ないらしい。大量の魔力にあてられるそうだ。けど、俺とアシュリーは普通じゃなかった。精霊と人間の混血であった部族を母親に持ち、その部族以外の者との間に生まれた俺達は、人より異常な能力を持っている。魔力も普通の人よりは比べもんにならねぇ程多かったみてぇだ。


 だから、このニレの木の元に来たときは、いつも二人きりだった。俺達には、この木の放つ魔力が凄く心地よかったんだ。仕事終わりによく二人でここに来て、魔力を補充しながら夜空を眺めて語りあったもんだ。


 けれど、今日は先客がいた。


 空間移動でやって来たら、そこには龍がいた。驚いて剣を抜いたけれど、その龍は怯えて震えていた。まだ子供の龍だった。黒く輝く鱗に身を包むその龍は、もしかしたら黒龍の子供かも知んねぇ。


 怯える姿を見ていると、なんか俺が悪モンみてぇな気になった。優しく頭を撫でると、龍の子は泣いた。なんだこれ、胸がキュンってなっちまう!


 けど、その龍は喋ったんだ!すっげぇビックリした!龍って喋んのか?!いや、あんまり聞いたことはねぇ。けど、俺の言葉の真似をするんだ!


 可愛い……


 やべぇ、この龍、すっげぇ可愛いじゃねぇか!


 それから、その龍の子に言葉を教えることにした。それがすっげぇ楽しかった。異文化交流っつぅのかな?言葉から教えるってのは、なかなか経験が無かったからな。


 その龍の子は「ユア」と言った。けれど、りゅうって言えるようになってから、名前は「リュカ」だと伝えてきた。


 その名前に俺が驚いた。


 「リュカ」は俺が探している、俺の子の名前だ。訳あって生ませてあげることが出来なかった、アシュリーと俺の子供の名前だ。


 これはなんか運命を感じる……


 アシュリーに出会えた事も運命だったと俺は思っている。だからこの事にも意味があるような気がしてならねぇ!


 けど、龍ってもっとデカくなるよな……どうやって育てたら良いんだ?龍って、何食うんだ?つい連れて帰って来たけど、ここは俺の家とは言え皆で一緒に暮らしてる場所だから、勝手に連れて帰って来てここで一緒に暮らすとか、それは無理があるかも知んねぇ。


 どうすっかなぁ……


 俺、リュカを離したくねぇんだよなぁ。


 なんでか俺になついてくれたリュカが、可愛くて可愛くて手放したくなくなっちまったんだ。


 けど、これからどうしようか……







 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る