第3話 はじめての街
森の中で目覚めた。
朝日が木々の隙間から降り注ぎ、周りは明るくなっていた。
レオンといた場所からは離れるようにひとり走って、疲れてその場に座り込んで、それからそのまま眠ってしまったんだった。気づくと、また龍ではなくなっていた。
お腹が空いたから、昨日倒した魔物を焼いて食べることにする。お父さんはいつも私がお肉を焼くと、とても喜んで食べてくれた。そのお父さんはもういない。一緒に食べようと思って狩った魔物なのに、レオンと食べることも出来なくなった。
考えると涙が出てしまう。
人間は怖かった。けど、レオンは優しかった。魔物はお父さんとレオンをやっつけた。だから凄く嫌いになった。
どうしよう。これからどこに行ったら良いのかな。
お父さんが、私の姿はまるで人間のようだ、と言っていた。どうして龍の子なのに人間の姿なのか、それはお父さんもお母さんも分からなかったんだって。
けど、人間達が黒龍を崇拝しているから、何らかの力が働いたのかも知れない、そうお父さんは言っていた。でも、私は紛れもなく黒龍の、お父さんとお母さんの子なんだ。お父さんが、お母さんから生まれ出る私を見たから、それは間違いない、と言っていた。けれど、卵じゃなかったって。私はその姿のまま生まれたんだって。それは、普通の龍ではあり得ない事だから、お前はすごく特別なんだって、お父さんは自慢気に言ってくれた。
けれどお母さんもお父さんも、もういなくなった。
私はひとりになったんだ。
これからどうしたら良いんだろう?人間は私をやっつけようとしてきた。それは龍だったから?
私が人間の姿だったら捕まった。どこかに連れて行こうとしてたのかな?
どうしたら良いんだろう?
私に行く場所なんて、どこもないんだ。
そんな事をひとりで考えながら、肉を火で炙って、それを食べていた。
食べ終わってから、ゆっくりと森の中を歩く。ここはアーテノワって国なんだって。よくお父さんが背中に私を乗せて、空を飛びながら教えてくれたんだ。お父さんの加護があるから、ここの魔物は人間の街や村を襲わないんだって。だから、黒龍は人間に崇められてるんだって。
でも、昨日私は人間に攻撃された。それはお父さんがいなくなって、加護が無くなったからなのかな?
悲しかった。仲良しになりたいって思ってたのに。
仲良くなれたのはレオンだけで、そのレオンも、もういない。
寂しいよ……
そう思うと涙が溢れてくる。
ひとり涙を拭いながら歩くと、何やら戦っているような音が聞こえてきた。
思わずその場所まで駆けて行く。少し開けた場所で人間が四人、魔物と戦っていた。
「ヤバい!魔力切れだ!俺はもう無理だ!」
「じゃあ剣で援護しろよ!」
「喧嘩はやめて!そんな事をしてる暇なんかないでしょ!」
「グダグダ言ってねぇで手ぇ動かせや!けど、こんな所にバジリスクがいるなんて聞いてねぇよ!」
蛇みたいな魔物はバジリスクというみたいだ。それが人間達と戦っている。けど人間達は傷だらけで、このままだと魔物に人間達が殺られてしまう。
どうしよう……
私だったら、アイツをやっつけられる。けれど、また人間達に見つかったら捕まるかも知れない。
どうしよう……
あの人間達が優しい人だったらいいのにな。
恐る恐る近寄ってみることにする。もしかしたら、レオンみたいに良い人かも知れない。優しくしてくれるかも知れない。そう思って、ゆっくり歩みだしてみた。
バジリスクは鋭い牙で襲いかかる。それに対抗するべく、四人で切りつけたり魔法で攻撃している。それを遠目で見ていて、ふとバジリスクと目があった。
その目をしっかり見続ける。
すると、バジリスクは動かなくなった。
人間達は、突然動かなくなったバジリスクに戸惑いつつ、これ幸いと言わんばかりに僅かに残る体力と魔力で攻撃をしていく。
程なくして、バジリスクは討伐された。
「ハァ……良かった……マジで死ぬかと思った……」
「俺も……」
「けど、いきなり動かなくなってどうしたのしら?」
「何でもいい、とりあえずちょっと休もうぜ!」
良かった、人間達は皆助かったみたいだ。ドキドキしながら、私は人間達に近づいて行った。
「え?うそ、なんでこんな所に子供がいるの?!」
「危なかったところだ!俺達がバジリスクを倒したから良かったものの!」
「おい、お前、この近くの村の子か?こんな所にいてたら魔物に襲われるぞ?早く帰れ!」
「そんな言い方!……ねぇ、どうしたの?もしかして迷子になったの?」
「まい、ごに、なった、の」
「そうなのね、それは大変だわ。」
「たいへん、だ、ぁ」
「あ、今ね、私たち疲れてるからちょっとここで休もうと思ってるの。それからまた移動するから、その時に家まで送ってあげるわ。」
「なんだよ、面倒くせぇな!」
「じゃあ、こんな小さな子を放っておけとでも言うの?!」
「そうだぞ!そんな事を言うもんじゃない!……君、名前はなんて言うんだい?」
「なまえ……ユア」
「ユアちゃんね。凄く可愛い子だわ!じゃあ、しばらく一緒にいましょう!」
「いましょう」
優しく話しかけてくれた人間は、私に微笑んでくれた。良かった、近づいていって!人間は悪い人ばっかりじゃなかった!
しばらくそこに座って人間達は飲み物を飲んだりして休憩していて、それからバジリスクを解体する、と言って皆で解体してたけど、髪の長い人が何やら他の人達に話しをして、それから私の手を繋いでバジリスクが見えない場所まで連れていってくれた。
切り株があったから二人でそこに座って、人間は私に何か手渡してきた。
「子供に魔物を解体するのを見せる訳にはいかないからね。はい、どうぞ。」
「どうぞ?」
「お腹はすいてない?パンだよ?」
「ぱん、だよ」
「ふふ……可愛いね」
「ユア、かぁいい」
「そうそう、可愛い」
人間に貰ったパンと言うのは、すごく美味しそうなにおいがした。それを一口食べてみた。今まで食べたことがない味で、フワフワしてて柔らかくて、すごく美味しいと感じた。それから二口、三口と口に含む。私が一生懸命食べてるのを見て、人間は優しく微笑んだ。
「美味しい?」
「おいしい」
「良かった。」
「よかった」
「んー!可愛い!ねぇ、ぎゅってしていい?」
「していい」
「ふふ……ありがとう。」
人間が私を抱きしめてきた。お父さんと違って、凄く柔らかくって、温かくって、良いにおいがして、何だか幸せな気分になった。しばらくして人間は私を離した。離さなくても良かったのに……
「ありがとう!あー癒されたー!けど……なんか疲れてきたなぁ……何だろう?やっぱりさっきのバジリスクで魔力いっぱい使ったからかなぁー?」
「かなぁー?」
「ふふ……ごめんね、お姉さんちょっと寝るね。疲れちゃって……おやすみ……」
「おやすみ」
切り株に座ったまま、人間は下を向いて寝てしまった。パンを食べながらしばらく様子を見ていると、頭が横によろめいた感じになって、そのまま地面に倒れる込むようになって眠った。人間はこんな寝方をするのかな?と思って、そのままじっと見ていた。
「おい、解体終わったぞ!そろそろ休憩終わって……って、おい!どうしたんだ?!ブランカ!しっかりしろっ!」
「なんだ?!何かあったのか?!」
「ブランカが……っ!」
ブランカと呼ばれた人間はグッタリしていて、それから起きなくなった。ちょっと寝るって言ってたのに、起こされても起きないんだな。そんなふうに思って見てたんだけど、他の人間達は驚いた顔をして、それから涙を流した。
どうしたのかな?なんで泣いてるんだろう?疲れたから寝るって言って、だから眠ってるだけなのに。
「なんでだよっ!やっとあんなすげぇ魔物倒せたのにっ!」
「頭でも打っていたのか?!それともバジリスクの呪いとか……」
「くそっ!じゃあ、俺達ももしかしたら呪いをかけられてるかも知んねぇって事か?!」
「まだどうか分かんねぇだろ!まずはブランカだ!このままにはしておけないっ!」
「とにかく、転送陣まで戻ろう!一端帰らないと……」
慌ただしく人間達は話しをしていて、不意に私を見てきた。困ったような、複雑な表情をして、それから意を決したように聞いてきた。
「俺達はこれから街へ帰る。君を家まで送って行くことは出来ない。けれどここに放っても行けない。……俺達と一緒に来るか?」
「いっしょ、に……」
「分かった!じゃあこっちへおいで!大丈夫だ!落ち着いたら、また送り届けるからね!」
「だいじょうぶ」
二人でブランカと呼んでた人を抱えて、一人はブランカの荷物を持った。私はその後をトテトテついて行った。しばらく歩いて、森から少し出た所にある広場みたいなところに行った。そこの地面にある、円になって淡く光っている場所まで人間達は進んでいく。
「ここから一旦ベリナリス国の街へ行く。離れないようにね。」
人間はニッコリ笑って私を見た。私も同じようにニッコリ笑った。それから皆で光る円の方へ進んで行った。すると、淡かった光が強く光はじめて、それはすっごく眩しくて目がチカチカして、思わず私は目をぎゅって閉じた。
眩しさが少しずつ無くなってきてゆっくりと目を開けると、そこはさっきいた場所とは全然違った。驚いて周りをキョロキョロ見ていると、「こっちだよ」と言って人間は私を見た。その人間の後を追って行く。
ここは少し開けた場所で、石を積み立てた壁で周りは囲まれていた。けれどその壁は高くなく、周りには木がいっぱい生い茂っていて、前には少し離れた所に大きな建物がいっぱいあるのが見えた。後ろを見ると光る円はまた淡く光っていた。その広場の出口に人が立っていて、その人と人間達は話しをしてからその場から出て行く。私も置いていかれないように、その後をついて行った。
両横に木々があって、その道を進んで行くとまた門みたいなのがあって、そこにも人が立っていて、その人とまた話をして何かを見せていた。そうしたらゆっくりと門は開けられて、その門の向こうへと人間達は進んで行った。私も同じように歩いて行く。
進んで行くと、段々いっぱいの人間の姿が見えた。ドキドキしてきた。また攻撃してきたりしないかな?あ、でも、今は龍じゃないから大丈夫かな?
ドキドキしながら歩いていると、すごく良いにおいがしてきた。何だろうって思って、そのにおいのする場所まで歩いて行く。すると、そこには焼いた肉がいっぱい並べてあった。さっきパンを食べたのに、そのにおいを嗅いだらまたお腹が空いてきた。
「お嬢ちゃん、金はもってるのかい?」
「のかい?」
「……お母さんとかお父さんは?」
「おとうさんは?」
「なんだよ、迷子かよ……」
「どうしたんだ?」
「あ、いらっしゃい!」
「いらっしゃい」
「なんだこの子、可愛い子だな。」
「ユア、かぁいい」
「ユアってのか。アンタとこの子か?」
「違いますよ!迷子じゃねえですかね?」
「そうか。なぁ、ユア、肉食べたいのか?」
「にく、たべたい、のか」
「じゃあ買ってやろう。二本くれ。」
「良いんですか?」
「ですか」
「ハハハ、こんな可愛い子に肉奢るくらい、どうって事ないよ!」
「そうですね!毎度あり!」
「まいど、あり」
突然やってきた人間に、お肉を貰った。ここは優しい人ばっかりだ。嬉しい!貰ったお肉はすごく美味しくて、肉になんか味が付けられてあって、それは初めて食べた味だった。
「ありがとうございました!」
「ありあとう、ました!」
「ハハハ、本当に可愛いなぁ。この辺りじゃ珍しい黒髪、黒目の女の子、これは高く売れる。」
「うれ、る」
「あ、いや、何でもないぞ!もう食べたのか?おじさんのも食べるか?」
「たべる、か」
差し出された肉を貰って、口にする。すごく美味しくて、気持ちが温かくなってきた。人間は私の手を握ってきた。美味しいのをくれたこの人間は良い人だ。
私は嬉しくなって、ニッコリ微笑んだんだ。
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