秋の祭りはただ、ただ艶やかだ。
中田祐三
第1話
夏の祭りはノスタルジックだが、秋の祭りはただ、ただ艶やかだ。
山間の神社。 そこから石段の頂点に立って見下ろすと、村々の家は変わらないが周囲の山の色は鮮やかに色づいていた。
夏にはやかましく鳴りたてる蝉の声も、消えてしまえば少しだけ寂しい気持ちがよみがえってくる。
ああ、それでも季節は巡る。
かつては単調に緑一色に染められた山の木々は各々に秋を迎えたことで多種多様の色となって私を楽しめてくれる。
世界は動く。 時間も全ても。 私自身さえも。
あの気だるくも暑い夏の残滓が今はほのかにノスタルジックという感情となって残っているだけなのだ。
山間の神社には蝉の変わりに笛の呼子が鳴り響き、太鼓の音がそれにアクセントを咥える。
蝉の大合唱とは違う、何か心を穏やかにしてくれる音色である。
そして吹く風にはヒンヤリとした心地よさと僅かに乾燥した空気が私の心を静かに癒してくれる。
石段を昇る人々の顔は一様に笑顔で、中には挨拶をする人もいる。
私の住む都会ならば挨拶などは仕事上の義務でしか機能していないが、それでもここの人々は義務感でもなく、ただ自然と挨拶をしてくれる。
平素ならば煩わしいとさえ思えるその行為を私も返す。
鍛錬された顔の筋肉を自意識で動かさず、自然に、あるがままに。
それはこの季節だからなのだろうか? それとも目の前に広がる都会のギラギラとした光景と反比例するような穏やかな光景のおかげだろうか?
そう逡巡する間にさえ、私の横を決して少なくはない人間が通り過ぎていく。
年齢的には老人、次に壮年、子供は文字通り数えられる程度なのだが、それでも子供のはしゃぎ様は都会もここも変わらない。
そう考えれば、生活環境の違いが人間に作用していくのは子供が大人へと成長していく過程にしかないのだろう。
時刻は見るまでも無く夕方から夜へと進んでいる。
都会のように煌びやかに照らされていないこの場所では時間を確認するまでもなく夜は夜として当たり前に移行していく。
ふと自分の生活している場所。 ここからせいぜい車で数時間を走らせれば到着する街の光景が自然ではないことに気づく。
とはいえ、ここは私の住む場所ではない。
かつては境内で騒ぐ子供のようであった私もすでに大人になって、生活を紡ぎ、そしてあの場所での人生があるのだ。
それでも視界に広がる世界は懐かしくて、派手とは程遠い質素な灯りはただ艶やかに思える。
ふと人々の喝采が聞こえる。 祭囃子も幾分か騒がしくなる。
ああ、祭りが始まるのだ。
生活に疲れた大人が一人、ぽつんと外れたところで祭りの始まりに遠慮がちに手を挙げた。
山に吹く風は土と葉っぱと木々の香りを存分に含んで生活に疲れた男の心と身体を優しく癒してくれる。
そしてボンヤリと光る雪洞の灯りは懐かしくも優しく人々をうつしだす。
ああ、やはり秋の祭りはただ、ただ艶やかなのだ。
秋の祭りはただ、ただ艶やかだ。 中田祐三 @syousetugaki123456
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