そして本日も良好です

@musubi_txt

死後の世界というものを割と信じている。

明確な信仰などがあるわけではない。単純に、無いと死ぬのが怖いし、さみしいから。

眠るように死んで、起きたら別の場所にいるといい。


10代の頃実家で飼っていて上京したせいで看取ることができなかった兎や、母命でわたしのことを出来の悪い子分扱いしていた犬、小学生の頃母がうっかり排水溝に流してしまったメダカや、池に逃げた亀と会えるといい。


今はまだ両親は健在だけれども、私が死ぬ頃にはとっくに彼らもあの世の先輩になっているだろうから、おすすめのご飯屋さんや見晴らしのよい場所を教えてもらいたい。


そこで2人が亡くなったあとのあれやこれやを話して、「見てたから知ってるよ」などと言われて、「やだ勝手に見てないでよ、はずかしいな」って言いたい。


そんな私には今夫と乳児がいる。


今は死ねない。しかし、仮に死んだらどうしようか。


働き盛りの夫が、男手一つで子供を育てていくのは大変だろう。

私を失った悲しみはいつか癒えるかもしれないが、ずっと孤独で生きていてほしくはない。子供はいずれ独立する。


だから、いつか良い人が現れるといい。

その人と新しい家庭を築くといい。それは割と本気でそう思う。


けれど1つだけ譲れないことがある。

死後の世界ではもう一度私の夫に戻ってほしい。おすすめのご飯屋さんや見晴らしのよい場所に案内して、私が死んでからのあれやこれやを話したい。

ただ「見てたよ」とは言わない。絶対に。

新しい家族との幸せな日々は、私は見ていない。知らない。


夫と子供と過ごした、短いけれど濃密だった時間だけを抱きしめてこの世界に来たのだ。

その時の私のまま夫に会いたい。

あの時の夫のままで会いに来てほしい。


これはもう絶対の約束なのでどうしたらいいんだろう。それでもいいよ、と新しい恋人に必ず了解を得てからお嫁さんに来てもらってほしい。何か契約書とか残しておけばいいのかな…


そんなことを思いながら今お風呂に入っています。季節の変わり目で少し風邪気味だけど基本的に体が丈夫な私は、およそ早世する気配がありません。


2019年 初秋

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