第3話地獄の修行開始


「オレは反対するぜ」

「ケチじゃな」

「寧ろ心配してやってんだ」

「先っちょだけ!先っちょだけじゃ!」

「その言い方色々止めろッ!それに近づくなッ!」

「ぶぅ~、懐が狭いのじゃー!」

「ったく、うるせぇな」


 深々とソファに座る二mを越える巨体の男が葉巻を握り潰した。


 眼帯にオールバック。筋骨隆々の身体には夥しい数の古傷。


 視線だけで人を殺せそうな男が幼女を睨んだ。


 しかしその視線を幼女に臆しなかった。


「小便漏らし小僧が偉くなったの……」


 やれやれと肩を竦めるヒメキ。


 男の顔に青筋が浮かんだ。


「この妾があの神獣娘との仲を取り持ってやったというのに恩を仇で返されるとは……妾悲しいのじゃ」

「アマ姉、小便の話は余計だ!それとヒメキ!少しは師を敬え!」


 うェッ……唾飛んだ。


 何か拭くものが無いか探していると……


「ほい、これ使うっす」


 隣から差し出された布で顔を拭った。


「お前、さっきまで居なかったよな?」


 すると━━


 雷が落ちたような轟音が響いた。


「アルカ様のお世話係っすから!」


 そう言って笑ったアスモの目の前では赤黒い槍を地面から生えた白い腕が受け止めていた。


「オレの不壊のグングニルを受け止めるとはやるじゃねぇか。悪魔」


 男が好戦的な笑みを浮かべた。


「ほれ、止めんかオーディン。嫁に言いつけて良いなら続けて構わんがな」

「チッ……」


 オーディンと呼ばれた男が舌打ちをすると槍が消えた。


 俺は内心ビビっていた。


 自分に槍が飛んできても平気なアスモに突然槍を投げる男。


 そして思い浮かべるのは歩く危険物の白衣に毒を吐く優男、そして発情ゴリラ。


「(この世界、ロクな奴がいないな)」


 自分の先行きが不安になる。


「それにそこの坊主は人神じゃないだろ?」

「う"ッ……バレたのじゃ」

「はぁ……ただの人間を武闘祭に参加させるとか坊主を殺す気か?」

「じゃが新入りは祝福持ちじゃよ」

「ほぉ……それは珍しい」

「それもあの堕天使のじゃ!」

「おいおい……それは穏やかじゃねぇな」


 オーディンがガシガシと頭を掻いた。


 俺は後ろで立ったまま器用に寝ているアスモの頭をひっぱたいた。


「うみゃッ!?」

「なぁ、アスモ。祝福って何の事だ?」

「叩いたのはスルー!?ま、いいっすけど。神や悪魔が気に入った相手に授ける能力の事っすね」

「何であの男は頭を抱えてるんだ?」

「アルカ様は終末戦争の話をスサノオの宿主に聞いたっすよね?」

「ああ」

「その終末戦争の堕天使ってシア様なんすよ」

「……」

「そんなシア様の祝福を授かったアルカ様は超ラッキーボーイ……って訳でも無いっす」

「どういう事だ?」

「終末戦争での敗北が原因で今もシア様を恨んでる神や悪魔は山程いるっす。祝福は与えた側の能力と同じになんすよ」

「俺の祝福を見てシアの祝福持ちってバレるって訳か」

「正解っす。だからシア様を恨んでいる神や悪魔がアルカ様に危害を加える可能性があるっす」

「シアの祝福はどんな能力何だ?」

「あの堕天使なら倒した数だけ強くなる能力だろうな」


 オーディンが会話に入ってきた。


「やっぱり知ってるっすか」

「当たり前だ。オレはあの場にいた純神の一柱だからな。成る程……武闘祭の出場者を坊主の経験値にするって魂胆か」

「うむ、その通りじゃ!今年は強者揃いと聞いておる!」

「反則な気がするんだが……どのみちあの堕天使の祝福持ちを放置するより清掃員になって貰うほうがマシだな。だが条件を出す。三ヶ月後までにムシュフシュを単独討伐出来るようになってこい。それなら武闘祭の参加を特別に許可しよう」














「癒されるな……」


 やたら柔らかいベッドに身を沈める。


『何であんたみたいな男の教育係なのよッ!信じられないッ!』


 俺の教育係になったらしい白衣に罵倒されながら連行された屋敷。


『今日からここは貴方の部屋よ。許可無しにその部屋から出るんじゃないわよ!』


 そう言って案内されたのがこの部屋だ。


「屋敷を探検したっすけど、この部屋が一番立派っすよ」


 屋敷を探検すると言って飛び出したアスモが戻ってきた。


「だろうな。あの白衣いい奴だな」


 白衣への好感度が上がった。


 俺はしぶしぶ起き上がった。


「さて、アスモに色々聞きたいことがある」

「何でも答えるっすよー」

「あのオーディンがデウス魔法学院の学院長なのか?」

「そうっすよ」

「武闘祭って何だ?」

「デウス魔法学院の生徒達の力自慢大会っす」

「何故、俺はそんなのに参加しないといけないんだ?」

「優勝者は清掃員のメンバーになれるっす」

「それでか……ムシュフシュって奴を倒せる程強くなれば優勝は可能なのか?」

「かなり厳しいっすね」

「駄目じゃねぇか!」

「だからあのクソ雑魚神の条件は無視するっす。それにアルカ様の修行に日本神達は合わないっす。という事で失礼」


 突然アスモが俺を担いだ。


「おい、離せ!いきなりどうしたんだよ!」

「アルカ様の特訓っすよー。名付けて『ドキッ!地獄のアバンチュール~ポロリもあるよ~』スタートっす!」


 バリィンと窓を突き破ってアスモが飛び降りた。


「ヒャッフゥゥゥゥゥゥ!」

「意味分からねぇよォォォォォォ!」




 こうして俺はアスモに拉致された。
















 翌朝━━


 白衣邸の廊下をスキップする幼女の姿があった。


 そしてある部屋の前に立ち止まり勢い良く開けた。


「それではムシュフシュ討伐に向けて修行するのじゃ!妾の修行は厳しいだろうが頑張るのじゃぞ!」


 ヒメキを迎えたのは静寂。


「む?」


 床に一枚の紙が落ちていた。


「何々、『クソ雑魚無能日本神に大切なアルカ様は任せられないっす。アルカ様の修行はアスモちゃんがするっす』だとッ……!?」


 書かれていたのはアスモ直筆の手紙。文章の終わりに描かれたデファルメ化されたアスモの顔がヒメキの怒りを誘う。


 そして読み終えた途端、紙が光を放ち……


「魔法紙じゃと!?」


 弾けた。


 部屋が吹き飛び、屋敷が揺れた。


 煙が晴れると……




 見るも無惨な部屋に、ぶち抜かれた天井。


 そして瓦礫の山をかき分けてヒメキが現れた。


「けほっ……けほっ……許さん。妾をコケにしおって……この悪魔ァァァァァァァ!」


 アフロ幼女の叫びが木霊した。



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魔法学院と最強の清掃員~裏ではヒロイン大戦が行われていました~ 斑鳩アルカナ @mattius

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