范泰2  喪の礼に違う  

王忱おうしん、実は北伐したいとかも考えてた。

なので范泰はんたいに言っている。


「今、荊州けいしゅうの防備は万全。

 兵力も充実している。

 いよいよ北伐の声を上げるべきだ。


 殷覬いんがい殿の覇気は十分。

 彼に矛を持たせて前鋒に据えたい。

 そして范泰殿、あなた様には

 私が出陣したあとの留守を

 お願いしたいのだが、いかがだろう」


 范泰は答える。


「これまでの百年、多くの先賢が

 北伐に失敗してこられた。

 仮に北伐がなれば、

 確かに功績は尊かろう。


 しかしながら、私はそこに

 参与すべきでないと考える」


そうこうしている内に、王忱が病死。

話は立ち消えとなった。


その後司馬道子しばどうしより招聘を受け、

その相談役となった。

また中書侍郎に移る。


この頃司馬元顕しばげんけんが宮中で好き放題をし、

それに付き合いきれないと

宮廷内外の官吏たちは退職を申し出た。

これによって皇帝に上げるための

報告文作成をするものがいなくなり、

皇帝のもとに届くのは、

ただ司馬元顕からの報告のみとなる。


范泰、この状態を危ぶみ、司馬元顕に

「状況を改善すべきだ」と訴える。

しかし司馬元顕、聞く耳を持たない。


折しも父、范寧はんねいが死亡。

喪に服すため辞職、

合わせて父の陽遂ようすい鄉侯を継いだ。


桓玄かんげんが司馬元顕らを倒し、実権を握ると、

御史中丞、官僚の監視役である

祖台之そだいしに命じ、以下の三者が

喪中の振る舞いにしては

派手な暮らしをしている、と糾弾させた。

対象は范泰、王準之おうじゅんし司馬珣之しばしゅんし


そうして范泰、おそらく爵位を廢され、

京口けいこうに移されるのだった。




忱常有意立功,謂泰曰:「今城池既立,軍甲亦充,將欲掃除中原,以申宿昔之志。伯通意銳,當令擁戈前驅。以君持重,欲相委留事,何如?」泰曰:「百年逋寇,前賢挫屈者多矣。功名雖貴,鄙生所不敢謀。」會忱病卒。召泰為驃騎諮議參軍,遷中書侍郎。時會稽王世子元顯專權,內外百官請假,不復表聞,唯籤元顯而已。泰建言以為非宜,元顯不納。父憂去職,襲爵陽遂鄉侯。桓玄輔晉,使御史中丞祖台之奏泰及前司徒左長史王準之、輔國將軍司馬珣之並居喪無禮,泰坐廢徙丹徒。


忱は常に立功の意を有し、泰に謂いて曰く:「今、城池は既に立ち、軍甲も亦た充ち、將に中原を掃除し、以て宿昔の志を申ぜるを欲す。伯通が意は銳く、當に令し戈を擁し前驅せしむるべし。君が重きを持ちたるを以て、相い留事を委ねんと欲したるは何如?」と。泰は曰く:「百年の逋寇、前賢に挫屈せる者は多し。功名は貴なると雖ど、鄙生には敢えて謀らざる所ならん」と。忱の病卒に會う。泰を召し驃騎諮議參軍と為し、中書侍郎に遷ず。時の會稽王の世子の元顯は權を專とし、內外の百官は假を請い、表聞を復びとせず、唯だ元顯が籤じたるのみ。泰は建言し「宜しきに非ざらん」と以為いたるも、元顯は納めず。父の憂にて職を去り、陽遂鄉侯を襲爵す。桓玄の晉を輔せるに、御史中丞の祖台之をして泰、及び前の司徒左長史の王準之、輔國將軍の司馬珣之の並べて喪に居せど禮無きを奏ぜしめ、泰は坐して廢され丹徒に徙る。


(宋書60-2_仇隟)




王忱がなんか面白いこと言ってますね。范泰、よく止めた。


司馬元顕にも、桓玄にも疎まれていたっぽい印象はあります。太原王氏と姻戚になれるくらいの家柄なので、謝氏あたりとも姻戚にはなってたりするんですよね(范泰の娘が謝述しゃじゅつの妻)。あと、こういうタイミングで京口に飛ばされたってことは、ここで劉裕りゅうゆうらとも繋がったのかもしれないですね。

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