謝密2  烏衣の遊    

謝密しゃみつが幼かった頃の謝氏のトップは謝混しゃこん

かれはとにかくプライドが高く、

みだりな交流はしなかった。

その中にあって族門の有望株の少年、

つまり謝霊運しゃれいうん謝瞻しゃせん謝曜しゃよう、謝密とは

勉強会などを開催して面倒を見ていた。


またともに居住するエリア、烏衣巷ういこう

宴会を開いたりもしていた。

その宴会は「烏衣の遊」と呼ばれる。


これは謝混が五言詩に残している


 昔為烏衣遊 戚戚皆親姪

  あぁ、昔になした烏衣の遊びよ。

  集まった宗門の皆々の顔が

  ふと思い起こされることよ。


の語句に現れている。

謝混の言う、この集まりには、

他家の者で、どれだけ名声が高かろうとも、

参加は許されなかったのだ、と言う。



この集まりにおいては、

謝瞻をはじめとした能弁の者たちが

華麗な論を展開していく中、

謝密はほぼ発言をしなかったが、

その一言二言で、場を感嘆させていた。


その様子を見ていた謝混は、唸る。

うむむ、かれは、すごいな。

そして、謝密を微子びし、と言う号で

呼ぶようになった。

「微先生」と呼ぶ感じだ。



謝混、謝瞻らに言っている。


「お前たちの弁論の才能は素晴らしい。

 だが、多くの人を感動させられるか、

 と聞かれたら、どうであろうな。


 人々の心を掴むにあたっては、

 単刀直入、が求められる。

 その意味では、もっとも人の心を

 掴みうるのは、微子だろう」


また、ちょくちょく言っていた。


阿遠あおん(謝瞻)の言葉は、強い。

 強すぎるために、

 カチンとくる人も多いだろう。


 阿客あかく(謝霊運)、博識なのはいい。

 が、お前はもうちょい推敲しろ。

(ちなみに客児が謝霊運の幼名である)


 謝曜、お前は才能に振り回され過ぎだ。

 もう少し自らを制御しろ。


 謝晦しゃかいは自らを弁えているのは良いが、

 他人のアドバイスに対しては

 もう少し素直になれ。

 お前の才能は、決して三人に

 劣るものではない。

 が、今のままでは水を開けられ、

 それを怨むことになるぞ。


 そして、微子。お前に対しては、

 特に指摘が思いつかん」


また、こんなことも言っている。


「微子は

 異なる意見を攻撃することもなく、

 同じ意見に余計な付け足しもしない。


 こんな若さで、

 もう六十歳かと思うほどの

 貫録を身につけている。


 お前のようなものが、

 国の屋台骨を支えるのだろう」



また謝混は、とある宴会において、

余興として謝霊運や謝瞻を評価する

韻文を披露している。



康樂誕通度 實有名家韻

若加繩染功 剖瑩乃瓊瑾

 霊運はフリーダム、

 とは言えその発する詞は一級品。

 節度さえ覚えれば、

 その韻律は宝玉のごとき

 輝きを見せるようになるだろう。

 

宣明體遠識 穎達且沈儁

若能去方執 穆穆三才順

 謝晦の知識は深く、遠い。

 優秀であり、また鋭い。

 悪い意味での執念が除かれれば、

 謝霊運らにも決して引けを取るまい。


阿多標獨解 弱冠纂華胤

質勝誡無文 其尚又能峻

 謝曜の理解力の鋭さと来たら。

 若くして風雅を継承するだろう。

 が、もう少し思いを

 表に出した方がよい。

 自らを、より

 追い込んでゆくべきだ。

 

通遠懷清悟 采采摽蘭訊

直轡鮮不躓 抑用解偏吝

 謝瞻の言葉には清々しさがある。

 そして、いい意味で華美ではない。

 ただ、少し、堅苦しいかな。

 もう少し緩くてもいいかもしれん。

  

微子基微尚 無勌由慕藺

勿輕一簣少 進往將千仞

 微子の言葉はもとより簡にして要。

 その言葉には敬慕しかない。

 片言隻句とて疎かにせず、

 文の頂に至らんとしている。

 

數子勉之哉 風流由爾振

如不犯所知 此外無所慎

 皆々、努められよ。

 謝氏の風流は、更に奮おう。

 それぞれが己の改善点を

 しっかりと心がければ、

 それ以外に気を受けることなどない。

 


謝霊運たちには戒めの言葉が

多く含まれていたが、

謝密に対しては、ただひたすら

激賞、であった。




混風格高峻,少所交納,唯與族子靈運、瞻、曜、弘微並以文義賞會。嘗共宴處,居在烏衣巷,故謂之烏衣之遊,混五言詩所云「昔為烏衣遊,戚戚皆親姪」者也。其外雖復高流時譽,莫敢造門。瞻等才辭辯富,弘微每以約言服之,混特所敬貴,號曰微子。謂瞻等曰:「汝諸人雖才義豐辯,未必皆愜眾心,至於領會機賞,言約理要,故當與我共推微子。」常云:「阿遠剛躁負氣,阿客博而無檢;曜恃才而持操不篤;晦自知而納善不周,設復功濟三才,終亦以此為恨;至如微子,吾無間然。」又云:「微子異不傷物,同不害正,若年迨六十,必至公輔。」嘗因酣宴之餘,為韻語以奬勸靈運、瞻等曰:「康樂誕通度,實有名家韻,若加繩染功,剖瑩乃瓊瑾。宣明體遠識,穎達且沈儁,若能去方執,穆穆三才順。阿多標獨解,弱冠纂華胤,質勝誡無文,其尚又能峻。通遠懷清悟,采采摽蘭訊,直轡鮮不躓,抑用解偏吝。微子基微尚,無勌由慕藺,勿輕一簣少,進往將千仞。數子勉之哉,風流由爾振,如不犯所知,此外無所慎。」靈運等並有誡厲之言,唯弘微獨盡褒美。曜,弘微兄,多,其小字也。遠即瞻字。靈運小名客兒。


混が風格は高峻にして、交納せる所少なく、唯だ族子の靈運、瞻、曜、弘微は並べて文義を以て賞會す。嘗て宴處を共とし、烏衣巷に居在せば、故に之を烏衣の遊と謂い、混が五言詩に云わる所の「昔に烏衣遊を為し,戚戚たるは皆な親姪なり」なり。其の外は復た高流時譽なると雖も、敢えて門に造る莫し。瞻らは才辭辯富にして、弘微は每に約言を以て之に服し、混の特に敬貴したる所、號して微子と曰う。瞻らに謂いて曰く:「汝ら諸人は才義豐辯なりと雖ど、未だ必ずしも皆な眾心を愜ならざれば、機賞を領會せるに至り、言を約し理を要とし、故に當に與我と共に微子を推さん」と。常に云えらく:「阿遠は剛躁にして氣を負い、阿客は博かれど檢無し。曜は才に恃めど操を持すこと篤からず。晦は自ら知れるも善を納むに周ねからず、復た功を三才に濟しきも、終には亦た此を以て恨みを為したるを設けん。微子が如きに至り、吾れ間然無し」と。又た云えらく:「微子は物を傷めざるに異にして、正を害せざるに同。若年にして六十に迨り、必ずや公輔に至らん」と。嘗て酣宴の餘に因りて、韻語を為し以て靈運、瞻らを奬勸して曰く:「康樂は通度に誕じ、實に名家の韻有り、若し繩染の功を加え、瑩を剖くらば乃ち瓊瑾ならん。宣明は遠識を體し、穎達にして且つ沈儁、若し能く方執を去らば、穆穆として三才は順わん。阿多が獨り解せること標く、弱冠にして華胤を纂ぎ、質勝りて文無きを誡む、其れ尚お又た能く峻し。通遠は清悟なるを懷き、采采なるを蘭訊を摽し、轡を直くせば躓かざるは鮮なく、抑うるを用い偏吝を解かん。微子は基より微尚にして、勌みたる無く由にて藺を慕い、輕に一なる簣の少なきも勿く、進み往きて將に千仞たらんとせん。數子は之を勉みたるかな、風流は由にて爾いよ振い、如し知る所を犯さざらば、此の外に慎みたる所無し」と。靈運らは並べて誡厲の言有れど、唯だ弘微は獨り褒美を盡くさる。曜は弘微が兄にして、多は其の小字なり。遠は即ち瞻が字なり。靈運が小名は客兒なり。


(宋書58-5_賞誉)




謝氏マニア的にはこの謝混の評価は是非とも文意を明らかにしておきたいところです。自分の漢文力では、どうにも明確にしきれません。国会図書館デジタルコレクション、謝裕までやってくれるんなら謝方明以降もお願いしますよぉ……こんなエピソード群、ご褒美&ご褒美じゃないですかぁ……


書き下し文については、森野繁夫氏が残してくださってるんですけどねぇ。

https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/10504645?tocOpened=1

ただ問題があって、現代人、書き下し文だと結局意味を理解しきれない……しきれないのですよ……!


と言うわけで、かなりのトバシ訳です。将来もうちょい厳密に訳したいと思うんですが、いまは無理。とりあえず橋頭堡は築かねばね! ってゆうか室町江戸期の漢学者この辺訳してんだろうがよ間違いなく! よこせ! ジャパン古文苦手マンだけど、それなら頑張って戦うから! どうせ語彙は原文依拠だろうからまだ戦えると思うし!

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