謝密1  親族を継ぐ   

謝密しゃみつ、字は弘微こうび陳郡ちんぐん陽夏ようか県の人。

謝安しゃあんの弟である、謝万しゃまんのひ孫だ。

祖父は謝韶しゃしょう、車騎司馬。

父は謝思しゃし、武昌太守。


謝安の孫に当たる、謝峻しゃしゅん

かれは謝琰しゃえんの次男だったのだが、

跡継ぎなく死亡したため、

謝密に爵位を継がせることとした。


宋書上で謝密は、謝弘微と呼ばれる。

これは謝峻の妻、あるいは母親の名が

密、だったためである。


幼い頃から細やかなところに

気のつく質であったが、

それをあまりおおっぴらに

指摘するようなことはなかった。


養子縁組により近しい親戚となった、

謝琰の息子、謝混しゃこん

謝密を見るなりその器を見抜く。

謝密の父、謝思に言う。


「この子は実に深い境地を見抜く

 聡明さがある。

 成長すれば、ひとかたの人士となろう。


 これならば、我が兄の家門を

 引き継ぐに足るだろう」


謝峻家に入ったのは、

10 歲の頃のこと。

親等で言えば七親等の遠縁、

しかもろくに面識もない者への

養子入りであったが、葬儀に際しては

実の息子としての喪装で臨んだ。


405 年になり、あらためて謝峻の爵位、

建昌けんしょう県侯を継承した。


もともと謝密の家は貧乏で

謝峻の家は金持ちだった。

爵位継承ともなれば、その財産が

一通り自分のものになる。


が、謝密。受け取ったのは書物数千巻と、

建昌県の事務に携わる官吏数人のみ。

財産、秩禄には一切手を付けなかった。


この話を聞き、謝混は驚嘆。

建昌県事務の責任者である

漆凱之しつがいしに対し、言った。


「建昌県の秩禄は、県侯殿が

 受け取るべき、正当なもの。

 通例に基づき、

 お持ちいただかねばならん」


しかし謝密、何度も謝混の

この申し入れを辞退。

最終的には、少しだけ受け取ったのだが。




謝弘微,陳郡陽夏人也。祖韶,車騎司馬。父思,武昌太守。從叔峻,司空琰第二子也,無後,以弘微為嗣。弘微本名密,犯所繼內諱,故以字行。童幼時,精神端審,時然後言。所繼叔父混名知人,見而異之,謂思曰:「此兒深中夙敏,方成佳器。有子如此,足矣。」年十歲出繼。所繼父於弘微本緦麻,親戚中表,素不相識,率意承接,皆合禮衷。義熙初,襲峻爵建昌縣侯。弘微家素貧儉,而所繼豐泰,唯受書數千卷,國吏數人而已,遺財祿秩,一不關豫。混聞而驚歎,謂國郎中令漆凱之曰:「建昌國祿,本應與北舍共之,國侯既不措意,今可依常分送。」弘微重違混言,乃少有所受。


謝弘微は陳郡陽夏の人なり。祖は韶、車騎司馬。父は思、武昌太守。從叔の峻は司空の琰の第二子なれど後無かれば、弘微を以て嗣と為す。弘微が本の名は密なれど、繼ぎたる所の內諱を犯したれば、故に字を以て行ぜらる。童幼なる時、精神端審にして時の然れる後に言す。繼ぎたる所の叔父の混は名を人に知られたるに、見ゆらば之を異とし、思に謂いて曰く:「此の兒は深中に夙に敏にして、方に佳器と成らん。子の此くの如き有らば、足りたらん」と。年十歲にして出で繼ぐ。繼ぎたる所の弘微の父は本は緦麻なれど、親戚の中表に素より相い識らざれど、率意承接し、皆な禮衷に合す。義熙の初、峻が爵の建昌縣侯を襲ぐ。弘微が家は素より貧儉にして、繼ぎたる所は豐泰なれど、唯だ書數千卷、國吏數人を受けたる已にして、遺財祿秩には一にも關豫せず。混は聞きて驚歎し、國郎中令の漆凱之に謂いて曰く:「建昌の國祿は本は應に北舍と之を共にせど、國侯は既にして意を措かざれば、今、常に依りて分送すべし」と。弘微は重ね混が言に違え、乃ち少しきを受けたる所とし有す。


(宋書58-4_徳行)




武昌郡太守って言うと、相当な顕官のはずなんですけどねえ。なにせ建康と江陵のほぼ中間、ちょくちょく西府軍の基地として大きな働きをしています。そんなところの太守が貧乏? これ追贈だったんでしょうかね。けど太守位の追贈なんてあり得なさそうだし。


あるいは、ようやく太守にまで登りついた辺りで死亡、という感じでしょうか。謝密の養子縁組あたりだと、もっと低い官位でいたのかも。息子が良い爵位を得たから、そこから父親の官位も引き上げられた、みたいな。


しかし王氏は結構官僚系にいるのに、謝氏は地方官にいることが多い印象です。そうでもないのかな。宋書内での両家の任官傾向とか見ておけると良さそうかも知れませんね。

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