王恵3  徐羨之はクソ2 

劉義符りゅうぎふが即位すると、蔡廓さいかく

吏部尚書にしたい、と言う動きが出た。

前述の通り、それは徐羨之じょせんしの側で

働くことになる。


アレの隣でなぞ、働けるものかよ。


そうして吏部尚書の地位を蹴った蔡廓。

蔡廓がダメなら、と

徐羨之が選んだのは、王恵おうけいだった。


王恵、この役目を二つ返事。


が、就任してからこっち、

仕官希望の者に、

まるで会おうとする気が無い。


また仕官を希望する手紙が来ても、

結局王恵が吏部尚書を離れるまで、

一回も開封される気配はなく、

吏部省に保管されたままであった。


「蔡廓の就任拒否も、王恵の即時着任も、

 振る舞いこそ違え、思いは一緒なのだな」


人々はそう話し合ったそうである。


それは寒流の風下につくことを

善しとしなかったのか、

あるいは徐羨之執政の危うさを

見て取ってのものであったのか。


ただし、その辺りについては、

語られていない。



ところで王恵の兄、王鑒おうかん

貨殖に邁進していた。

特に田の運営に熱心だったという。

王恵として見れば、勘弁してくれ、

と言う感じの振る舞いであった。


なので王恵、兄に言う。


「そうまで田を広げて、

 何をなさろうというのです?」


この言葉に兄上、激怒である。


「なんだと! 米無しで

 どうやって我々は

 生きていけるというのだ!」


王恵、更に聞く。


「すでに米には

 困っておりませんでしょう。

 これ以上増やして、むしろ

 どうやって食べきるのです?」


その折につけての筋目正しさは、

大体がこのような感じであった。


426 年に死去、42 歳。

太常たいじょうを追贈された。子はいなかった。




少帝即位,以蔡廓為吏部尚書,不肯拜,乃以惠代焉。惠被召即拜,未嘗接客,人有與書求官者,得輒聚置閣上,及去職,印封如初時。談者以廓之不拜,惠之即拜,雖事異而意同也。兄鑒,頗好聚斂,廣營田業,惠意甚不同,謂鑒曰:「何用田為?」鑒怒曰:「無田何由得食!」惠又曰:「亦復何用食為。」其標寄如此。元嘉三年,卒,時年四十二。追贈太常。無子。


少帝の即位せるに、蔡廓を以て吏部尚書と為すも拜さるを肯んぜず、乃ち惠を以て代りとなす。惠は召を被るに即ち拜し、未だ嘗て客に接せず、人に書を與え官を求む者有らば、得たるに輒ち聚め閣上に置き、職を去るに及び、印封せること初時なるが如し。談ぜる者は以わく「廓の拜さざるも、惠の即ち拜したるも、事を異にせると雖ど意は同じきなり」と。兄の鑒は頗る聚斂を好み、廣く田業を營めど、惠が意は甚だ同じからざれば、鑒に謂いて曰く:「何ぞ田を用い為さんか?」と。鑒は怒りて曰く:「田無かりて何ぞの由にて食を得んか!」と。惠は又た曰く:「亦た復た何ぞを用うて食を為さんか?」と。其の標寄なるは此くの如し。元嘉三年に卒す、時に年四十二。太常を追贈さる。子は無し。


(宋書58-3_直剛)




なんか全編世説新語っぽくてニヤニヤしちゃいます。と思ったら世説新語補&何氏語林では、ラストの兄貴とのやり取りがそのまんま採用されているようでした。


有朋堂文庫から出ている「世説新語」は、どうやら世説新語補が翻訳されているもよう。気になる。けど以前調べた時、世説新語補って基本的に史書抜粋だったんだよなあ。それでもまぁ、どう訳すればわかんないときのヒントにはなるのかしら。

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