蔡廓6  劉義隆即位   

劉義隆りゅうぎりゅう荊州けいしゅうから皇帝即位のため

建康けんこうに出発する決意を固めると、

傅亮ふりょうは百官を引き連れ、送迎に出る。


そこには蔡廓さいかくも同行した。

しかし出発して間もなく、尋陽じんようの辺りで

病を得てしまい、進めなくなった。


先に進もうとする傅亮、

しばしの別れと言う事で、

蔡廓のもとに赴く。


やってきた傅亮に対し、蔡廓は言う。


劉義符りゅうぎふ様は、このまま

 お過ごしいただくように。


 間違って殺しでもしようものなら、

 そなたらには主殺しの

 汚名がまとわりつく。


 そうなれば、誰がそなたらに

 ついて行くと思う?」


とは言え傅亮、出発前にはすでに、

徐羨之じょせんしと共に

劉義符殺害を決めていた。

なので、慌てて徐羨之に手紙を書く。


が、手紙が届いたころには、

劉義符は殺されていた。


この手紙を読み、徐羨之は激怒する。


「あれだけ共に相談しておきながら、

 今更決定を翻したい、だと?


 罪を私一人に押し付けよう、

 とでもいうのか!」


劉義隆が建康に到着し、即位。

それに伴い、謝晦しゃかいが荊州に

出向することとなった。


謝晦、蔡廓に別れを告げるにあたって、

人払いの上、たずねる。


「私は許されるだろうか?」


蔡廓は言う。


「武帝陛下の顧命を受け、

 社稷を思い、昏君を廃し、

 明君をお招きした。


 そこまでならば、大義も立った。


 だが、いくら愚かなる者とは言え、

 皇帝と、その弟を手掛けたのだ。


 そのような者が、どの面を提げて

 忠臣として向き合うおつもりか?


 陛下の中で、そなたらは

 いざとなったらこちらを殺してでも

 言うことを聞かせようとして来る

 脅迫者のように映ろう。


 いくらそなたが荊州と言う

 要地を抑えたとて、

 故事より推し測れば、

 もとより逃れられなどすまいよ」




太祖入奉大統,尚書令傅亮率百僚奉迎,廓亦俱行。至尋陽,遇疾,不堪前。亮將進路,詣廓別,廓謂曰:「營陽在吳,宜厚加供奉。營陽不幸,卿諸人有弒主之名,欲立於世,將可得邪。」亮已與羨之議害少帝,乃馳信止之,信至,已不及。羨之大怒曰:「與人共計議,云何裁轉背,便賣惡於人。」及太祖即位,謝晦將之荊州,與廓別,屏人問曰:「吾其免乎?」廓曰:「卿受先帝顧命,任以社稷,廢昏立明,義無不可。但殺人二昆,而以之北面,挾震主之威,據上流之重,以古推今,自免為難也。」


太祖の入りて大統を奉ぜるに、尚書令の傅亮は百僚を率い奉迎し、廓は亦た俱に行く。尋陽に至り、疾に遇い、前むに堪えず。亮の將に路を進まんとせるに、廓を詣で別れんとせなば、廓は謂いて曰く:「營陽の吳に在りたるに、宜しく厚く供奉を加うべし。營陽の幸せざらば、卿ら諸人は弒主の名を有し、世に立つるを欲したりとて、將に得べけんや」と。亮は已にして羨之と少帝の害せるを議したらば、乃ち信を馳せ之を止めしめんとす,信は至るれど、已にして及ばず。羨之は大いに怒りて曰く:「人と共に議を計るに、云何んぞ裁かるに轉背せんか! 便ち惡を人に賣りたり!」と。太祖の即位せるに及び、謝晦の將に荊州に之かんとせば、廓と別るるに、人を屏いて問うて曰く:「吾れ其れ免ぜんか?」と。廓は曰く:「卿は先帝の顧命を受け、以て社稷を任じ、昏を廢し明を立つらば、義に可ならざる無し。但だし人二昆を殺し之を以て北面せるは、震主の威を挾ざば、上流の重に據せど、古きを以て今を推るに、自ら免ざるは難き為るなり」と。


(宋書57-7_尤悔)




蔡廓さんのこの歯に衣着せぬぶった切りっぷり、最高じゃない……最高じゃない? こんなん謝晦どんな顔してききゃいいんだよ。じじ上にも負けないぶった切りっぷりですなぁ。


かん氏一門をどうしても根絶できずにいた劉裕りゅうゆう政権がそれよりも圧倒的に声望のあった司馬しばし氏政権の首魁を殺さずにおれなかったのは仕方ないし、そう言う文脈の上から考えれば自由に動き回れる劉義符劉義真りゅうぎしんなんていつこっちの寝首かいてくるかわからないから怖い。なので殺さずにおれない。そう、徐羨之と傅亮が恐怖するのもわかる。


もちろん、そこは「奴らの復讐なんざ跳ね返してやる!」って言い切れるくらいの度胸が二人にあればよかったんだけど、残念ながら二人とも根っからの文官ですからね……どこまで荒事に備えができるのかなんて怪しいところ。


排除せざるを得なかっただろうし、殺さざるを得なかったんでしょうね。なんつーか、あの地位に上がっちゃったことで詰んでたんだな。

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