蔡廓5  徐羨之はクソ1 

司徒左長史となったあと、

いちど豫章よしょう太守となったが、

すぐ召喚を受け、吏部尚書に推薦された。


は? 吏部尚書? なめてんのか?


蔡廓さいかく傅隆ふりゅうづてで

親族の傅亮ふりょうに伝言してもらう。


「何ですか、この人事? 問題外です。

 引き受ける気になりません」


いやいやいやいや!

何言ってんのよ蔡廓さん!

傅亮、蔡廓のこのリアクションに慌て、

徐羨之じょせんしに相談する。


徐羨之は言う。


黃門郎こうもんろう以下の選定については、

 みな蔡廓殿にお任せする。


 お約束申し上げる、私は関与しない。

 そして、これより上の官位については、

 私と相談させてくれ。

 これでいかがだろうか?」


ある程度官位の低い者は蔡廓にまかせる、

つまり宋の人事権を、ほぼ蔡廓に委ねる、

と申し出てきたのだ。

これは破格の権限である。


だが、蔡廓の返答はつれない。


干木かんぼくくんの名前の横に

 自分の名前を並ばせたくねえ、

 って言ってるんですよ」


そう言って、結局引き受けない。


干木は徐羨之の幼名である。

錄尚書は、徐羨之。

では蔡廓が、この人事を引き受けたら?

と言う話である。


こりゃだめだ、有能だけど使い道がねえ。

諦めた徐羨之、蔡廓を祠部尚書とした。




遷司徒左長史,出為豫章太守,徵為吏部尚書。廓因北地傅隆問亮:「選事若悉以見付,不論;不然,不能拜也。」亮以語錄尚書徐羨之,羨之曰:「黃門郎以下,悉以委蔡,吾徒不復厝懷;自此以上,故宜共參同異。」廓曰:「我不能為徐干木署紙尾也。」遂不拜。干木,羨之小字也。選案黃紙,錄尚書與吏部尚書連名,故廓云「署紙尾」也。羨之亦以廓正直,不欲使居權要,徙為祠部尚書。


司徒左長史に遷り、出でて豫章太守と為るも、徵され吏部尚書と為る。廓は北地の傅隆に因りて亮に問うらく:「選事の若し悉く以て付さるを見らば論ぜず。然らずば、拜す能わざるなり」と。亮は以て錄尚書の徐羨之に語らば、羨之は曰く:「黃門郎以下、悉くは以て蔡に委ねん。吾れ、徒らに復た懷を厝めず。此れより以上、故より宜しく共に同異を參ずべし」と。廓は曰く:「我れ、徐干木が署したる紙の尾に為る能わらざるなり」と。遂には拜さず。干木は羨之が小字なり。選案の黃紙は錄尚書と吏部尚書の名を連なば、故に廓は云えらく「署紙尾」たるなり。羨之は亦た廓の正直なるを以て、權要に居せしむるを欲さず、徙りて祠部尚書と為る。


(宋書57-6_軽詆)




突然あんまり接点のない親戚のクッション役になってる傅隆さんかわいそうです……このひとエグい官歴だし、ほんとに苦労してるんだろうなあ。


なお吏部尚書は人事に絡むもので、祠部尚書は典礼などの行事に絡むもの。どちらがより国政に影響力をもたらすかなど、あまりにもわかり切ったことである。


ところでこの辺に年代書かないの卑怯だよね。これたぶん劉裕りゅうゆう死後、劉義符りゅうぎふ時代の話じゃない? だとしたら徐羨之らが劉義符劉義真りゅうぎしんと対立してることは蔡廓も見てたはずで、「こんなやつらとなんて一緒にいられるか、あやうくて仕方ねえ」って感じの気持ちになってたんだろうなぁ。

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