謝方明5 故郷を立て直す 

劉裕りゅうゆうが即位すると、侍中となった。

また 422 年には丹陽尹たんよういんとなり、

建康けんこうの統治に大いに業績を上げた。


その後会稽かいけい太守となる。

この頃会稽郡は栄えてこそいたのだが、

一方で苛烈な取り立ても行われていた。


中央からの命令が下ると、

郡の行政官らが自分に都合よく

文書の内容を捻じ曲げる。


だれかが罪を犯せば、

それは近所五世帯での監視が

行き届いていなかったせいだ、

という事にして連帯責任を負わせる。


一人の行政官への失態があれば、

それで村ひとつが廃業に追い込まれる、

そのような事態になっており、

村々では主を失った犬が

ずっと吠えている、

などと言ったことも多くなった。


そこに配置された謝方明しゃほうめい

文書主義での統治にこだわり過ぎず、

苛烈なる取り立てをやめさせ、

本来守るべきルール、を立て直す。


一方で中央からの指令が届くと、

謝方明自身が直接発布する形をとり、

中間での命令内容捻じ曲げを

できないようにした。


これによって統治下の執政官らは

みだりに自分勝手な動きを取れなくなり、

貴族豪族も敢えてルールを

破ろうと思わなくなり、

また連座制も解除、

多くの無実の者が解放された。


永初えいしょ景平けいへい年間に起こった軍務において

会稽郡からの兵力充当は

あまり多くなかったのだが、

謝方明が来てからは多くの兵士らが

派兵されるようになる。

ただし彼らは、ことが済めば

またもとの暮らしに戻れたのだが。


ただ、それでも会稽郡では

執政官とその代理人による

苛烈な行為が続いていた。


そこで謝方明、道理の通らない

振る舞いを為す者に対しては

権限をはく奪するなどの措置を取り、

その行為を抑え込んだ。


謝方明の簡潔にして精密な裁きによって、

会稽郡の風紀は一気に改善。

このことは斉代、梁代に至ってなお

讃えられているところである。


とは言え、それ以外のことに関しては

前任者の方向性を変えることはなかった。

万が一変更する必要があれば、

徐々に修正する形をとり、

下々に変化を感じさせないようにした。


そのような形で会稽を取りまとめる中、

426 年に死亡。47 歳だった。




高祖受命,遷侍中。永初三年,出為丹陽尹,有能名。轉會稽太守。江東民戶殷盛,風俗峻刻,強弱相陵,姦吏蜂起,符書一下,文攝相續。又罪及比伍,動相連坐,一人犯吏,則一村廢業,邑里驚擾,狗吠達旦。方明深達治體,不拘文法,闊略苛細,務存綱領。州臺符攝,即時宣下,緩民期會,展其辦舉;郡縣監司,不得妄出,貴族豪士,莫敢犯禁,除比伍之坐,判久繫之獄。前後征伐,每兵運不充,悉發倩士庶,事既寧息,皆使還本。而屬所刻害,或即以補吏。守宰不明,與奪乖舛,人事不至,必被抑塞。方明簡汰精當,各慎所宜,雖服役十載,亦一朝從理,東土至今稱詠之。性尤愛惜,未嘗有所是非,承代前人,不易其政。有必宜改者,則以漸移變,使無迹可尋。元嘉三年,卒官,年四十七。


高祖の受命せるに、侍中に遷る。永初三年、出でて丹陽尹と為り、能名を有す。會稽太守に轉ず。江東の民戶は殷盛にして、風俗は峻刻、強弱は相い陵し、姦吏は蜂起し、符書の一に下れるに、文攝は相い續す。又た罪は比伍に及び、動き相い連坐し、一人の吏を犯したるに、則ち一村は廢業され、邑里は驚擾し、狗の吠ゆること旦に達す。方明は深達治體し、文法に拘らず、苛細なるを闊略し、綱領を存ぜるに務む。州臺が符の攝ぜらるに、即時にして宣下し、民の期會を緩め、其の辦舉を展ず。郡縣の監司は妄りに出でるを得ず、貴族豪士に敢えて禁を犯したる莫く、比伍の坐は除かれ、久繫の獄を判ず。前後の征伐にて、每に兵運は充たさざれど、悉く士庶を發倩し、事の既に寧息せるに、皆なをして本に還らしむ。而して刻害さる所の屬さるに、或るものは即ち補吏を以てす。守宰の不明なるに、與に乖舛を奪い、人事至らざれば、必ずや抑塞を被る。方明は簡汰精當にして各おの宜しき所を慎しみ、服役十載なると雖ど、亦た一朝に理に從わば、東土は今に至りても之を稱詠す。性に愛惜せる尤く、未だ嘗て是非の有りたる所、前人より代を承け、其の政を易えず。必ず宜しく改むべき者有らば、則ち漸を以て移變し、尋ぬべき迹無からしむ。元嘉三年に卒官す、年は四十七なり。


(宋書53-11_政事)




辣腕行政官としてキャリアを積み、そのラストが故郷会稽郡に戻っての治安回復。五斗米道ごとべいどうによって荒らされた会稽郡は様々な不正のはびこるちまたと化していたんでしょうね。それを、これまでのキャリアにおける経験をフルに生かして改善し、死んでいった。


ちょっとこの人、あまりにもカッコよすぎませんかね……そしてかっこよすぎるからこそもうちょっとほかの列伝みたくわかりやすい表現で書いていただきたかったですよ沈約しんやくさん……。

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