劉道規2 桓玄追撃戦   

更に進撃すると、桓玄かんげん崢嶸洲されきしゅうで遭遇。

このとき劉道規りゅうどうき軍は一万以下、

対する桓玄軍は数万だった。

追討軍はこの戦力差に怯え、

いちど尋陽じんように引き返して

体勢を立て直したほうがいいのでは、

と主張するものが現れる。


劉道規は答える。


「あり得んことだ。

 見かけの戦力差がどうであれ、

 その軍の強さは勢いこそが物を言う。


 いまここで奴らを討たねば、

 それこそ体勢を整えられてしまうぞ。

 そうなれば、むしろ我々が

 尋陽に戻った所を付け込まれる。

 我々にどれほど守りきれるだろうか。


 桓玄は一世の雄として

 名を挙げたとは言え、

 その本性は臆病者に過ぎん。

 増して、既に散々な敗北も喫している。

 この状態で、付き従う兵士たちが

 どこまで桓玄を信奉していると思う?


 ともに向かい合い、ぶつかれば、

 より強き者が勝つものだ。


 光武帝こうぶていが制した昆陽こんよう

 曹操そうそうが制した官渡かんと

 どちらも小勢で大勢に勝っている。


 我らの才覚を古人に比べるなぞ、

 恐れ多きこと、としか言えん。

 だが、それを理由として

 怖気づいてなぞおれようか!」


そう言って、劉道規は進軍。

劉毅りゅうきらもその勢いに飲まれ、追従した。

その結果は、快勝。


こうなれば、もはや桓玄に打つ手もない。

郭銓かくせんと共に敗走すれば、

もはや江陵こうりょうも守ることができなかった。

そしてしょくに落ち延びようとしたところで、

馮遷ふうせんに斬り殺された。




因復馳進,遇玄於崢嶸洲。道規等兵不滿萬人,而玄戰士數萬,眾並憚之,欲退還尋陽。道規曰:「不可。彼眾我寡,強弱異勢。今若畏懦不進,必為所乘,雖至尋陽,豈能自固。玄雖竊名雄豪,內實恇怯,加已經奔敗,眾無固心。決機兩陳,將雄者克。昔光武昆陽之戰,曹操官渡之師,皆以少制多,共所聞也。今雖才謝古人,豈可先為之弱。」因麾眾而進,毅等從之,大破玄軍。郭銓與玄單舸走,江陵不復能守,欲入蜀,為馮遷所斬。


因りて復た馳せ進み、玄に崢嶸洲にて遇う。道規らが兵は萬人に滿たず、而して玄が戰士は數萬なれば、眾は並べて之を憚り、退きて尋陽に還らんことを欲す。道規は曰く:「不可なり。彼は眾く我は寡かれど、強弱は勢を異とす。今、若し畏懦し進まざらば、必ずや乘ぜらる所と為り、尋陽に至りたりと雖ど、豈に能く自固せんか。玄は雄豪を竊名したりと雖ど、內實は恇怯にして、加えて已に奔敗せるを經たらば、眾に固心無し。兩に陳びて機を決さば、將に雄なる者が克たん。昔の光武の昆陽の戰、曹操の官渡の師、皆な少を以て多を制せんと共に聞きたる所なり。今、才は古人に謝すと雖ど、豈に先為の弱なるべからんや!」と。因りて眾を麾し進み、毅らは之に從い、玄が軍を大破す。郭銓と玄は單舸にて走り、江陵も復た守る能わず、入蜀せんと欲せど、馮遷に斬らる所と為る。


(宋書51-9_暁壮)




ずいぶん「雖」が好きな子ね。「まぁ」を多用しちゃう身としては親近感がわきますね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る