蒯恩4  傷まみれの戦士

蒯恩かいおんと言えば、自らの意志で

率先して劉裕りゅうゆうの出征に従軍し、

軍にピンチがあれば、真っ先に参戦した。

そして敵の守りを、陣地を破る。


その戦績、およそ百戦余り。

全身には多く、深くの戦傷を刻んでいた。


救われたピンチも数知れない。

劉裕、蒯恩には改めてその戦功に応じた

褒賞を下し、新寧しんねい縣の男爵に封爵した。


劉義符りゅうぎふ征虜せいりょ將軍として官途につくと、

蒯恩はその直属軍の指揮官に。


後秦こうしん征伐の際には、

劉義符の護衛として建康けんこうに留まった。

ここで劉裕、蒯恩に足りないのが

人脈である、と悟ったのだろう。

劉義符の傍らで、多くの人士と

接してゆくよう命じた。


宮中での蒯恩。

全身古傷の偉丈夫でこそあったが、

その謙譲ぶりはすさまじく、

接する人はみな官位呼び、

一人称は常に「鄙人へんじん」であった。


この取るに足らぬ田舎者、

くらいの意味合いだ。


部下の兵士たちをよく慰撫し、

とは言え上官として規律を保つ。

そんな蒯恩に、誰もが親しんでいた。


やがて劉義符の相談役に移り、

更に劉義符の将軍府が開かれると、

遂に蒯恩はその副官となる。


だが、ずっとついているわけにも

いかなかった。


関中にて、王鎮悪おうちんあく沈田子しんでんし王脩おうしゅう

次々に死亡。

赫連勃勃かくれんぼつぼつの侵攻は、時間の問題だ。


そこで劉裕、朱齢石しゅれいせきらとともに

蒯恩も長安に派遣した。


劉義真と合流した蒯恩、

なんとか青泥せいでいの地に。

だが、そこで赫連勃勃の軍に捕まる。


かくなる上は。

蒯恩、劉義真らを先に逃がし、

傅弘之ふこうし、朱齢石らとともに幾日も力戦。

最終的には手勢も失い、敗れて捕まり、

そして、殺された。


その後は、蒯國才かいこくさいが継いだ。





恩自從征討,每有危急,輒率先諸將,常陷堅破陣,不避艱嶮。凡百餘戰,身被重創。高祖錄其前後功勞,封新寧縣男,食邑五百戶。高祖世子為征虜將軍,恩以大府佐領中兵參軍,隨府轉中兵參軍。高祖北伐,留恩侍衞世子,命朝士與之交。恩益自謙損,與人語常呼官位,而自稱為鄙人。撫待士卒,甚有紀綱,眾咸親附之。遷諮議參軍,轉輔國將軍、淮陵太守。世子開府,又為從事中郎,轉司馬,將軍、太守如故。入關迎桂陽公義真。義真還至青埿,為佛佛虜所追,恩斷後,力戰連日。義真前軍奔散,恩軍人亦盡,為虜所執,死於虜中。子國才嗣。


恩は自ら征討に從い、危急の有りたるが每、輒ち諸將に率先し、常に堅きを陷し陣を破り、艱嶮を避けず。凡そ百餘戰にして、身に重創を被る。高祖は其の前後の功勞を錄し、新寧縣男、食邑五百戶に封ず。高祖の世子の征虜將軍に為りたるに、恩は以て大府佐領中兵參軍となり、府に隨い中兵參軍に轉ず。高祖の北伐せるに、恩を留め世子を侍衞せしめ、朝士に命じ之と交ぜしむ。恩は益ます自ら謙損し、人と語りたるに常に官位にて呼び、自稱を鄙人と為す。士卒を撫待し、甚だ紀綱有らば、眾は咸な親しみて之に附す。諮議參軍に遷り、輔國將軍、淮陵太守に轉ず。世子の開府せるに、又た從事中郎と為り、司馬に轉じ、將軍、太守は故の如し。關に入りて桂陽公の義真を迎う。義真の還じ青埿に至れるに、佛佛虜に追わる所と為り、恩は後を斷ち、連日力戰す。義真が前軍の奔散し、恩が軍の人も亦た盡かば、虜に執らわる所と為り、虜中にて死す。子の國才が嗣ぐ。


(宋書49-6_衰亡)




交流力、折衝力が弱かったっぽいのは間違いがなさそうですね。指揮力及び武力は抜群だったんでしょうけれども。なので、いわゆる社交の場においてはどうしても低く低くなってしまい、これ親しまれたというよりは馴れ馴れしくされた、だった気もしないではないです。


朱齢石と言い、いわゆる育成枠と言う感じだったのかもしれないですね。動きからすると絶大な信頼は得ている人物ではあるので、これで彼に統率力がついてくれたら相当だったんでしょうが、最終的にはいち武人以上にはなり得なかった。しかも、関中で失ってしまった。


一方で例によって敢えて沈約しんやくフィルタを被せると、朱齢石と共に「関中で死ぬことになるからいろいろ盛った」みたいなことも考えずにおれず。いやそう考えたところで何のメリットもないし面白くもないんですけど。


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