劉敬宣4 板挟みの劉牢之
402年。
この戦いにおける
最高責任者は
日夜酒におぼれるようなありさまで、
劉牢之がしばしば会見を申し出ても、
まったく応じる気を示さない。
ようやくちらりと顔を見た、
その程度だった。
ここで劉牢之に宛てて
投降を誘う手紙を送ってくる。
それを読んだ劉牢之、考える。
仮にここで桓玄を倒してみたところで、
待ち受けているのは、
脅威を失って緩み切る
クソどもの乱政の日々だろう。
ならば今ここでは仮に桓玄と手を取り、
クソを取り除いたのち、桓玄を追い払い
朝廷を浄化するのがいいのではないか。
だが、この考えに対し、
「朝廷が大いに揺らぎ、
国内には争乱の種ばかり。
このような情勢の中、今、勢力は
桓玄と父上に集まっております。
しかも桓玄は
やつに望むべくもありませんが、
それでも天下の形成のうち、
三分の二は、
やつのもとに収まっています。
そんなやつを、
朝廷に乗り込ませてごらんなさい。
すぐさま朝廷の第一人者となり、
打ち倒すのは至難となりましょう。
父上、かの
再び引き起こしたいのですか?」
この諫言に対し、劉牢之、激怒。
うん、まるで余裕がない。
「わしがこの所業、手のひら返しの如き
ゲスな真似であると、
自覚しておらんとでも思うのか!?
ならば敬宣、貴様に問うが、
桓玄を討ち果たした後、
返す刀で司馬元顕を討ち果たすなど、
天下の世論が認めようか?!」
これ以上の議論は終わりだ、とばかりに、
劉牢之、劉敬宣を降伏の使者として派遣。
桓玄は劉敬宣を、諮議參軍とした。
元興元年,牢之南討桓玄,元顯為征討大都督,日夜昏酣,牢之驟詣門,不得相見;帝出餞行,方遇公坐而已。桓玄既至溧州,遣信說牢之;牢之以道子昏闇,元顯淫凶,慮平玄之日,亂政方始,假手於玄,誅除執政,然後乘玄之隙,可以得志於天下,將許玄降。敬宣諫曰:「方今國家亂擾,四海鼎沸,天下之重,在大人與玄。玄藉先父之基,據荊南之勢,雖無姬文之德,實為參分之形。一朝縱之,使陵朝廷,威望既成,則難圖也。董卓之變,將生於今。」牢之怒曰:「吾豈不知今日取玄如反覆手,但平玄之後,令我那驃騎何?」遺敬宣為任,玄板為其府諮議參軍。
元興元年、牢之の桓玄を南討せんとせるに、元顯は征討大都督と為れど、日夜昏酣し、牢之の驟しば門に詣ぜど、相い見えたるを得ず。帝の餞行に出でたるに、方に公坐にて遇したるのみ。桓玄は既に溧州に至り、信を遣わせ牢之を說かしむ。牢之は道子の昏闇にして元顯の淫凶なるを以て、玄を平げたる日、亂政の方に始まらんとせるを慮れ、假に玄と手し、執政を誅除し、然る後に玄の隙に乘じ、以て天下に志を得るべしとし、將に玄が許に降らんとす。敬宣は諫めて曰く:「方に今、國家は亂擾し、四海は鼎沸せんとせるに、天下の重は大人と玄に在り。玄は先父の基に藉し、荊南の勢に據し、姬文の德無かりたりと雖も、實に參分の形を為さん。一朝にして之を縱とせば、朝廷を陵ぜしめ、威望は既に成りて、則ち圖りたるは難ぜらるなり。董卓の變は、將に今生ぜんとす」と。牢之は怒りて曰く:「吾、豈に今日にて玄を取りたること、手を反覆せるが如きなるを知らざらんや? 但だ玄を平したる後、我をして那んぞ驃騎を何ぞとせしめんとせんか?」と。敬宣を遺わせ任を為さしめ、玄は板じ其の府の諮議參軍と為す。
(宋書47-13_規箴)
晋書劉牢之伝ではここに「走狗煮らる」の故事も持ち出してきている。こうして読んでみると、劉牢之の怒りの言葉が割と重そうな気がした。というのも、「わしはあえてクソな行いをしているのだ」と解釈できる言葉は、言い換えれば、「劉牢之では桓玄は倒せるが司馬元顕は倒せない」という事実があり、また桓玄が中央に入ってしまえば「倒せようがない存在」と化す恐れがある、ということだ。そしてこれは、おそらく劉牢之、劉敬宣にとって共通の認識。宮廷の力学って複雑だろうしなぁ。
この点については、もう少し掘り込めそうかなー。もう小説版では通り過ぎたところだけど、そいつができれば、リライトの時により精緻なディテールの掘り込みができそうだ。
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