劉敬宣2 王恭を切る   

398年、王恭おうきょう

司馬尚之しばしょうしら兄弟を排除せんと、京口けいこうで挙兵。

この時劉牢之りゅうろうしは王恭の副官であった。


一方で、王恭には配下将たちを

慰撫しようという気がまるでない。

この男について行っていいものか、

劉牢之は大いに不安を抱いていた。


そんな劉牢之の内心にも気付かず、

王恭は劉牢之を前鋒につける。


対する、司馬道子しばどうし

劉牢之の内心を察していたかれは

手紙をよこした。


誰に従うのが得策なのか、

を滔々と説き、離反を誘ったのだ。


手紙を読んだ劉牢之、

劉敬宣りゅうけいせんを呼ぶ。


「王恭は先帝の寵愛を受け、

 今や外戚の身ではあるが、

 やつの挙兵には、

 国を思う気持ちが感じられん。


 ただただ兵権を振りかざしたい

 だけではなかろうか?


 どうも奴のことがわからんのだ。

 ことが済んだ時に、果たして奴は

 陛下を奉戴し、忠貞なる臣下として

 振る舞うのだろうか?


 ともなれば、わしがお国のことを思えば、

 司馬道子の力を借り、

 王恭を討伐するのが良いように思う。


 敬宣よ、貴様はどう思う?」


劉敬宣は答える。


「いま、朝廷に成帝せいてい陛下、康帝こうてい陛下の頃の

 威徳の盛んさはありませんが、

 かと言って漢の桓帝かんてい霊帝れいていの頃の

 ひどい状態である、とまでは言えません。


 だというのに王恭はみだりに兵を動かし、

 建康けんこうを乱に陥れん、としております。


 このような者を討つのに、

 躊躇をする必要がありましょうか?」


決意した劉牢之、竹里ちくりという地で

王恭の配下将であった顔延がんえんを斬り、

また劉敬宣に高雅之こうがしらを率いさせ、

京口に戻って王恭を襲撃させた。


この時王恭、きらびやかな甲冑で

将兵に身を固めさせ、いざ出陣、

というタイミングだった。


そこに劉敬宣たちが突入し、

王恭軍をズタズタに引き裂く。


王恭を逆賊として討ち果たしたのち、

司馬元顯しばげんけんは後將軍に昇進。


また劉敬宣を参謀として登用、

寧朔さくねい將軍につけた。




隆安二年,王恭起兵於京口,以誅司馬尚之兄弟為名。牢之時為恭前軍司馬、輔國將軍、晉陵太守,置佐領兵。而恭以豪戚自居,甚相陵忽,牢之心不能平。及恭此舉,使牢之為前鋒。太傅會稽王道子與牢之書,備言禍福,使以兵反恭。牢之呼敬宣謂曰:「王恭昔蒙先帝殊恩,今居伯舅之重,義心未彰,唯兵是縱。吾不能審恭。事捷之日,必能奉戴天子,緝穆宰相與不。今欲奉國威靈,以明逆順,汝以為何如?」敬宣曰:「朝廷雖無成、康之隆,未有桓、靈之亂,而恭怙亂阻兵,志陵京邑。大人與恭親無骨肉,分非君臣,雖共事少時,意好不協。今日討之,於情何有?」牢之至竹里,斬恭大將顏延,遣敬宣率高雅之等還京襲恭。恭方出城耀軍,馳騎橫擊之,一時散潰。元顯進號後將軍,以敬宣為諮議參軍,加寧朔將軍。


隆安二年、王恭の京口にて起兵せるに、以て司馬尚之兄弟を誅せんと名を為す。牢之は時にして恭が前軍司馬、輔國將軍、晉陵太守と為り、佐を置き兵を領す。而して恭の豪戚自居にして甚だ相い陵忽せるを以て、牢之が心は平らか能わざる。恭の此の舉に及び、牢之をして前鋒と為す。太傅の會稽王の道子は牢之に書を與え、禍福を備言し、兵を以て恭を反ぜしめんとす。牢之は敬宣を呼びて謂いて曰く:「王恭は昔に先帝の殊恩を蒙り、今や伯舅の重に居せど、義心は未だ彰らかならず、唯だ兵を是れ縱とす。吾れ、恭を審ぜる能わず。事の捷ちたる日、必ずや能く天子を奉戴し、宰相を緝穆せるを與うるや不や? 今、國の威靈を奉じ、明を以て順を逆せんと欲す、汝は以て何如と為したらんか?」と。敬宣は曰く:「朝廷に成、康の隆無しと雖ど、未だ桓、靈の亂有らず。而るに恭は亂を怙みて阻兵し、京邑を陵せんとしたり。大人と恭の親しきは骨肉に無く、分は君臣に非ずば、事を共とせるを少時なり雖ど、意好は協さず。今日に之を討ちたるに、情にて何ぞ有らんか?」と。牢之は竹里に至り、恭の大將の顏延を斬り、敬宣を遣わせ高雅之らを率い京に還じ恭を襲う。恭の方に耀軍にて城を出でんとせるに、馳騎は之を橫擊し、一時にして散潰す。元顯は後將軍に進號し、敬宣を以て諮議參軍と為し、寧朔將軍を加う。


(宋書47-11_規箴)



劉牢之と劉敬宣の会話、さっぱりわかんないので資治通鑑しじつがんえもんに頼る。若干言葉は違うけど、まぁこんな感じでしょう。


http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1239942/33


しかしなんなんですかね、この登場人物の散漫さ。初めから司馬道子元顕をターゲットに立てればいいだろうところに、なぜ司馬尚之恢之休之兄弟を持ってくるのか。まぁ、そんだけこの兄弟が侮れない存在だった、ってことでいいのかな。

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