張邵3  宋帝国建立に向け

劉裕りゅうゆうが北伐に出ているとき、

長江ちょうこうの北の町、広陵こうりょうで反乱があった。

当時広陵を守っていたのは、

檀道済だんどうさいの兄、檀祗だんき

かれは配下を率い、反乱軍を包囲する。


この展開に危機感を覚えた者がいた。

劉穆之りゅうぼくしだ。

反乱軍鎮圧のための兵力を頼みに、

彼も反乱するのでは、と恐れたのだ。


その心配はつのり、ついには本当に

軍を動かそうか、というくらいにまで至る。


それを、張邵ちょうしょうが止めに入った。


「兄の檀韶だんしょうが長江のやや上流におり、

 また、弟の檀道済が北伐軍の将軍。

 この状態で檀祗に疑いの目を向け、

 おかしな動きをしてみなさい!


 いま広陵で起こっているのとは

 比べ物にならぬ大乱が起きますぞ!


 ここは檀祗に慰労の使者を出し、

 その動向を静観しておくべきです」


結果としては檀祗は怪しい動きもせず、

劉穆之の懸念は杞憂に終わった。


それから間もなくして、劉穆之が死亡。

取締役の死である。宮廷はパニックに。

すぐさま徐羨之じょせんしを代役にする、と

人事を発布しようとしたが、

この動議に、張邵、待ったをかける。


「劉穆之様の急逝により、

 宙ぶらりんとなってしまった案件が、

 かなりの件数に上っております。


 とは申せ、これらを劉義符りゅうぎふ様の

 ご一存では決済しきれますまい。


 まずは今後の対応を、

 劉裕様に諮るべきです」


張邵の提案により、今後の対応について、

まず、劉裕に問い合わせが飛んだ。

劉裕が返答する。


「義符の名において発令させろ。

 朝廷、及び太尉府絡みのことは

 徐羨之に判断をあおげ、と。


 徐羨之の手に余るような案件だけ、

 俺に回してこい、と」


劉裕、張邵を重んじていた。

様々な難題にぶち当たってもくじけず、

むしろ常に大臣であるがごとき度量を

示していたからだ。



418年。

劉義符に西府を任せるべきではないか、

という議論が持ち上がる。

これに対し、張邵は劉裕に訴え出た。


「ご嫡男の動静は、国内情勢に

 非常に大きな影響をもたらします。


 ご嫡男に万一があれば、

 何が起こるかもわかりません。


 死を賭して、申し上げます。


 どうかご嫡男は

 このまま建康けんこうに留め置き、

 外藩にお出しなさいませぬよう!」


劉裕は、この諫言を受け入れた。




青州刺史檀祗鎮廣陵,時徐州結聚亡命,祗率眾掩之。劉穆之恐以為變,將發軍。邵曰:「檀韶據中流,道濟為軍首,若疑狀發露,恐生大變。宜且遣慰勞,以觀其意。」既而祗果不動。及穆之卒,朝廷恇懼,便欲發詔以司馬徐羨之代之,邵對曰:「今誠急病,任終在徐,且世子無專命,宜須北咨。」信反,方使世子出命曰:「朝廷及大府事,悉咨徐司馬,其餘啟還。」武帝重其臨事不撓,有大臣體。十四年,以世子鎮荊州,邵諫曰:「儲貳之重,四海所係,不宜處外,敢以死請。」從之。


青州刺史の檀祗の廣陵に鎮ぜるに、時に徐州に亡命の結聚せるあり、祗は眾を率い之を掩む。劉穆之は以て變を為したるを恐れ、將に軍を發さんとす。邵は曰く:「檀韶は中流に據り、道濟は軍が首と為らば、若し疑いたる狀を發露さば、恐るらくは大變を生ぜしめん。宜しく且つ慰勞を遣り、以て其の意を觀るべし」と。既にして祗は果して動かず。穆之の卒せるに及び、朝廷は恇懼し、便ち詔を發し司馬の徐羨之を以て之に代えんと欲さば、邵は對えて曰く:「今、誠に急病にして、任の終えたるところ徐に在り、且つ世子に命を專らとせる無からば、宜しく北に咨りたるを須むべし」と。信の反りたるに、方に世子をして命を出ださしめて曰く:「朝廷、及び大府の事、悉く徐司馬に咨り、其の餘を還じ啟すべし」と。武帝は、其の事に臨みて撓まず、大臣の體有るを重んず。十四年、世子を以て荊州に鎮ぜしめんとせるに、邵は諫めて曰く:「儲貳の重は四海に係りたる所。宜しく外に處らざらしむべく、敢えて死を以て請う」と。之に從う。


(宋書46-12_識鑒)




呉興、いわば呉のサブ的な地勢下にある地の豪族である沈氏は、どうしても呉郡の名族に対して忖度せざるを得なかったんだろうなあ、的な推論も出来るのだよね。そういう前提で呉郡張氏の伝は見るべきなのかもしれない。


そんな事を考えたら、この時代に陸氏、顧氏、朱氏はだいぶ零落していたんだなぁ……と、ショギョームジョーノンストップになってしまった。

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