張邵2  先見の明    

張邵ちょうしょうはひたすら政に力を注いだ。

その精力は余人の

追い付くところではなかった。


劉裕りゅうゆう劉藩りゅうはんを捕え、処刑。

この事態に対し、張邵は素早く動く。


劉裕が建康けんこう城の中で休憩するための部屋に

詰めていた張邵、夜に外出、

船の管理をしている役人たちに命じる。


「間もなく劉裕様が出征を号令される。

 各員、船舶倉庫のチェックをせよ!

 払暁にはご下命が下ろう!」


そして翌日、

劉裕が劉毅討伐準備の号令をかけると、

気持ち悪いくらいスムーズに整う。


え、待てお前ら、どういうことだ?

劉裕が役人たちに聞くと、

役人たちはこう答えた。


「張邵様より、準備を進めておけとの

 お達しがあったのです」


それを聞き、劉裕は思わず言う。


「張邵のやつ、

 俺が何を問題にしてるのか、

 はっきり理解してやがったんだな」



劉裕が北伐の軍を立ち上げると、

張邵、お伝えしたいことがある、と

面会を申請してきた。


劉裕と顔を合わせるなり、言う。


「人生とは、突然思いもかけぬ急落に

 見舞われるものです。


 劉裕様におかれましては、どうか

 様々なシチュエーションについて

 熟慮なさいますよう。


 例えば、劉穆之りゅうぼくし殿がここでもし、

 倒れてしまったとしたら?


 公のなされていることは

 実に貴きもの。故に私も、

 恐れながらも憚らず、

 お伺いいたします。いざその時には

 どのように動かれますか?」


お前、ズバズバ言うよね。

劉裕、なんとか返事する。


「そ、そんなことがあったら、穆之……

 と、お前に任せるしかないな」




邵悉心政事,精力絕人。及誅劉藩,邵時在西州直廬,即夜誡眾曹曰:「大軍當大討,可各修舟船倉庫,及曉取辦。」旦日,帝求諸簿署,應時即至;怪問其速,諸曹答曰:「昨夜受張主簿處分。」帝曰:「張邵可謂同我憂慮矣。」武帝北伐,邵請見,曰:「人生危脆,必當遠慮。穆之若邂逅不幸,誰可代之?尊業如此,苟有不諱,事將如何?」帝曰:「此自委穆之及卿耳。」


邵は心を政事に悉くし、精力は人を絕す。劉藩を誅ぜるに及び、邵は時に西州直廬に在り、即ち夜に眾曹に誡して曰く:「大軍の當に大いに討たんとせるに、各おの舟船倉庫を修すべし、曉に及ばば辦を取らん」と。旦日にして、帝の諸簿署に求むるに、時に應じ即ち至る。怪しみて其の速きを問わば、諸曹は答えて曰く:「昨夜、張主簿に處分を受く」と。帝は曰く:「張邵は我と同じき憂慮を謂えたるべし」と。武帝の北伐せるに、邵は見えたるを請い、曰く:「人生は危脆にして、必ずや當に遠く慮りたるべし。穆之の若し不幸に邂逅せば、誰ぞ之に代りたるべきや? 尊業、此くの如きなれば、苟くも不諱有らば、事を將に如何とせんか?」と。帝は曰く:「此れ自ら穆之、及び卿に委ねたるのみ」と。


(宋書46-11_識鑒)




張邵のこの言葉については、さすがに予言って感じではなかったんだろうなあ、と言う気もする。劉穆之の常日頃の振る舞いにも、過労の兆しが見えていたんだろう。それにしたってこんなダイレクトな質問ぶつけるかよおい、と言う感じである。なので劉裕さんが「劉穆之に何かあったらどうすんだ」って命題に対してうっかり劉穆之の名前挙げてる辺り、珍しくだいぶテンパってそうな印象もある。


ただ、こんな回答しときながら、結局の代理は徐羨之なんですよね。そう考えると、この辺のセリフの信憑性もなかなかアレだよなあ。

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