48 「クオナも面倒臭い知らせを寄越してくれた物だね」
起きるに起き上がれず、横になったままリリヤを見上げる。
そんな質問久々にされたとばかりに少女は一度瞬いた。
「……読書家のセオなら知っていると思うんだが、王族が政策を行うのは寝台で、女といる時だと相場が決まっている。歴史書でもそういった皮肉があるくらいだ」
答えになっていないとも思ったが、たしかに物語でもそういう場面はお決まりだ。少しして今の状況が王族を真似ていることに気がついた。
はるか昔ではあるがリリヤもこの地で生まれた。雪国の村娘が王族に憧れるのは、馬が四本足で歩くくらい当然だ。死んでから大分経っているリリヤも、幼い頃の憧れは体に染み付いているらしい。
「なにかあったの?」
目元を和らげながら問い掛けると、少女は話が通じたとばかりに小さく笑う。
しかしすぐにその表情に陰りが落ちた。
「お前がぐっすり眠っている間に、実はクオナの使者が来たんだ」
「え!?」
リリヤの言葉は、自分の目を完全に覚まさせるには十分すぎるものだった。
言われてみれば昨晩は少し賑やかだった気がする。使者が来たからだとしたら納得だ。
だが自分がそれを聞かされていないというのは少々おかしい。
一体なんの用だったのかと、視線をリリヤに向け続きを促した。
「それがな、大した用事ではなかったんだよ。勝手を言って申し訳ないが、明日の会合を夕方ではなく昼にやる、というやつだった」
なんだ時間の変更か、と思ったが、徐々に口の中に苦い物が広がっていく気がした。
数時間の変更なら自分を起こす程ではないと思ったのだろう。
だが幽霊が傍に居る自分にはそうは思えなかった。
「……ごめん、ちょっとどいてくれる?」
眉を潜めながらリリヤに断りを入れる。
リリヤは一瞬何を言われているのか分かっていなさそうにこちらを見ていたが、少しして自分の上から下り、寝台の端に座り直した。
よっと体を起こし布団から出て、リリヤの隣に座り直す。
「クオナも面倒臭い知らせを寄越してくれた物だね」
「うん、私も思った。……すまない」
目を伏せて謝る少女は、今まで見た中で一番しゅんとしていた。
「頼んだのは僕なんだから、君がそこまで落ち込むことはないよ」
首を軽く振り、顔を隣に向けて励ますように返す。
自分が怒っていないことが伝わったのか、少女は一度顔を上げたが、すぐに悔しそうに頬を膨らませた。
「でもこれ……私がクオナに探りに行ったのがばれたから、焦ったラウルが時間を早めたんだろう? 証拠を探されたくないから」
うん、と慎重に頷いた。
リリヤが言ったように、ラウルがリリヤが盗み聞きしたことに気がついた可能性が高い。
幽霊相手に意義は申立てられない。ラウルはそれを分かっているから、深夜だろうと予定時刻を早めるという対策を講じてきたのだ。
「うん、その可能性は高いと思うよ。それ以外にクオナに得はないからね」
「本当に申し訳ない……」
唇を噛み締めて謝るリリヤを見て、ゆっくりと首を振った。
「いいって。それにこれでハッキリしたよ、証拠は必ずどこかにあって、時間をかければ必ず見つかる。ユユラングは税を免除して頂くことが出来るんだ」
話をしていく内に、覇気のなかったリリヤの瞳に芯が戻っていった。勝機を見付けた賭博師のような輝きは、見ていて安心する物があった。
ともすれば震えそうになる指先を堪え、その瞳を見ながら唇を歪めた。
「次は僕達がラウルを抑える番だ」
「セオは剣の勉強はしたっけか? まっ、危なくなったら私が死体に憑いてやる」
野蛮な展開を想像しているらしい幽霊が尋ねてくる。
「一応はね。そういえば、君はそんなことも出来るんだっけ」
「ああ、私達がいるからこそ、ゾンビ伝説が生まれたような物だ。まっ、目立つしあんまりしたくないがな。最終手段にでも覚えておけ」
そう言ってリリヤは、女騎士のような表情を浮かべて笑った。
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