第34話 共に永遠に
私達は相変わらず会える時には毎日会って食事を楽しんだり、出会えなかった時の様々な話をしてきた。
彼女とは高校生時代と同じように不思議と話しが尽きなかった。
私自身は仕事柄、聞き役が殆どだったのに、彼女の前では私の方がよく話していて、彼女は知らない私の仕事やプライベートの話を聞きたがっていた。
そんな話の中で、38年間の間にはやはり何回かはニアミスがあったりしていて、例えば彼女の住んでいる所から取引先が偶然にも近くにあったり、同じ時期に同じホテルでよく食事をしていたり、もしもその時に彼女の声が聞こえたり、チラッと顔を見たりしていたならきっと気付いていたに違いないと思っていた。
また彼女が大学の時にフランス語学科を専攻していたこともあって、特にパリの話には興味をもって聞いてくれていた。
そんな話の出来るデートは昼間に集中していて、ランチタイムに合わせて待ち合わせをしていた。
彼女には子供がいるので四六時中会って話すという事は中々出来なかったし、私も子供を想う彼女の気持ちを大切にしたかったので、昼間のデートがどうしても多かった。
子供にとっては世の中に父親は一人であって母親のボーイフレンドは認められないと思っているかもしれないし、母親を取られてしまう恐怖感もあるだろうし、私達はあまり公には行動しなかった。
子供には私の存在をなんて話しているかは知らないが、彼女のことだから彼女なりに色々考えていたと思う。だから敢えて私の方からはその話をしなかった。
そして冬になり、クリスマスシーズンがやってきた。勿論ふたりで初めてのクリスマスだった。街では様々なイベントがあったり、街路樹にはイルミネーションが飾られていて夜になるととても幻想的な光景で、また若者達の活気で溢れていて、私と出会っていなかった時は彼女もきっとこんな華やかなクリスマスを楽しんでいたことだったのだろうと想像していた。
今思えば、私は殆どクリスマスシーズンは独りで過ごしていたような気がする。仕事でどうしても年末から年明けにかけて忙しく、お正月もまともに過ごせなかった。特にこの時期は海外出張でパリにいることが多く、今でこそシャンゼリゼ通りの街並みはイルミネーションでライトアップされているが、私が行っていた当時は街並みもまだ暗く、ヨーロッパ独特の暗く静かなクリスマスだったのを覚えている。私はそういう厳かなクリスマスが好きだった。
そして私は日本に居る時も賑やかな街にも行かず、粛々とした静かなクリスマスを過ごしていた。
私は不思議と子供の頃からクリスマスにプレゼントには興味がなく、また我が家でもそういう風習もなかったので、両親からプレゼントをもらった記憶もない。ただこの日は誰もが願い事をしたら叶うことだけは知っていて、またそれをずっと信じていた。
昔から私はクリスマスは大切な人と一緒にいることがクリスマスの日と信じていて、少し遅かったが漸くそれが叶う時がきた。
そしてクリスマスの朝から彼女を誘い、私達は街から離れた静かで小さな教会に行き、今、私はふたりが出逢えたことを神に感謝し、もう二度と離れないことを約束した。
そして私はこれから先どのような事があっても彼女を守る為にこれから生きていくことを誓った。
それと同時に私は何らかの神からの使命を持たされていることに気付き始めた。
私はこの日を境目に一つの考えに達した。
人はそれぞれのすれ違いが起こる。そしてまた巡り会うべき人と巡り会う。
神はいたずらしているかのように、また人間を試すかのように大切な人に中々引き逢わせてくれない。
それはまだまだ未熟な私達にある種の試練を与えているのだろうか、もっと時間をかけて強い意志を持たせる為に簡単に会わせてくれないのだろうか。
たとえ出会えたとしてもまた別れがくる。それは弱い人間の気持ちに、悲しみを乗り越える力を与えようとしているのだろうか。
人はよく永遠という言葉を口にする。この世に永遠というものがあるのだろうか。物はいつかは壊れる。だが人の心の中にある気持ちや想いや学んだことは決して壊されたり消されたりはしない。人を好きになる気持ちと同じように。
でも人はいつかは死ぬ。人生を全う
出来た人も出来なかった人にも死は必ず訪れる。これを寿命と呼んだりする。それはあらかじめ決められた生命の長さであって、その言葉自体は単なる結果にしか過ぎない。ならば運命はその結果までの複数の出来事かもしれない。
人は永遠に生きることは出来ない。
そしてその心や気持ちは他の人々によってまた受け継がれていき、またいつか忘れ去られてしまう。
永遠という言葉は存在しないが、もしあるとすればそれを願う気持ち、即ち信じること、信じ続けることが永遠という言葉に繋がっていくのではないだろうか。
だから私はこれから先も彼女とずっと一緒にいることを信じている。
彼女を守り、共に永遠に信じて生きていく事を約束した。
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