第28話 それぞれ重なった運命
暫くして私は彼女にどうしても聞きたくて思いきって聞いてみた。
「安奈は昔から時々フッと寂しそうな顔を見せるけど、同窓会の二次会で帰りにタクシーに乗った時、どうしてあんな寂しそうな顔していたの?何かあったの?」
彼女は少し考え込んで答えてくれた。
「実は一か月前にずっと海外に赴任していた実の兄が若くして病気で亡くなってしまって、兄は私が高校卒業後直ぐに海外に行ってしまって、それから亡くなるまでずっと会っていなかったの。
そして立て続けに最近息子の飼っていた子猫が死んじゃったの。息子が捨てられていた子猫を可哀想だと思って家で飼うことになって、可愛がっていた子猫だったの。
それで声が掛けにくいほど息子がすごく落ち込んでいて、どう息子に声をかけたら良いか分からなくてずっと悩んでいたの」
と近況を教えてくれた。そして
「だから同窓会の知らせを聞いた時に、皆と会ったら気分転換になるかなと思っていたの。それと正樹にも会いたかったしね」
彼女は少しほっとした表情でゆっくりと話してくれた。
「そうだったんだ」
私は彼女に心が安らげる話はないかと思い、ふとクリスチャン系の幼稚園に通っていた時に、先生から聞いた話を思い出し彼女に話した。
「人や動物はいつかは死ぬよね。誰
もが永遠に生きられないもの。いつかは判らないがその時がくれば、神が導き、そして家族のもとに連れて帰っていく。
生かされているにはそれぞれ理由や意味があり、死もまたそれぞれ理由や意味がある。だから生きて残された者は決して悲しんではいけないということなんだよ」
幼稚園児にしては少々難しい話の内容だったが、ちょうどその時に私も家で飼っていた犬が死んでしまって落ち込んでいる時に、偶然に重なりあってその話を聞いて、癒されたのを良く覚えていた。そして家に帰って母親にその話したら
「そうだったの、とても良い話ね。だったら正樹が何時でも会いに行けるように庭にお墓作ってあげましょうね」
そう母親は言って私を悲しませないようにしてくれた。
私は彼女に昔の出来事を話してあげた。
「きっとお兄さんも子猫も神様がお迎えにきたんだよ。今頃、天国の親のもとで楽しくはしゃいでいるよ。親と離ればなれになった子猫も、漸く親のもとに帰ることが出来たんだよ。喜んであげないと、そして今まで親代わりになって息子さんが育ててくれたこと感謝していると思うよ。そして忘れずにいたら心の中でずっと思い出として生きているから。だから決して悲しんじゃいけないことを教えてあげてねぇ」
そして彼女はわたしの話に安堵したかのように
「有り難う、心が救われる話だわ」
と言ってくれた。そしてこうとも言ってくれた。
「正樹は亡くなった私の大好きだった兄の生まれ変わりかもね。
だって突然、私の前に現れたからびっくりしたよ。同窓会の知らせを教えてくれた正樹の女友達のお陰だよねぇ」
そう言えば、彼女の母親が亡くなった時に私に教えてくれたのも、その背の高い彼女だった。それまで私はずっと安奈の友人だと思っていた。
(じゃ背の高い彼女は誰なんだ)
そしてよく考えれば私はその彼女の名前すら知らない。ずっと高校の同級生だと思っていた。
偶然にも同窓会の会場でふたりの写真を撮ってもらった時の私達の背後にあの背の高い彼女が写り混んでいた。そして不思議なことに彼女は高校の時に見たままの顔で歳をとっていないようにも思えた。でも写真だったのでこの時は特に気には止めていなかったので彼女にも敢えて話さなかった。ただ2回も私達の前に表れて教えてくれたり引き合わせてくれたり、どうあれその名前すら知らない彼女にはとても感謝していた。
そして私はある結論に達した。
私達は出会うべきして出会っているのだと。それは自分ひとりの力でなく運命的な力で導かれているのだと思った。
ひょっとすると彼女の母親の葬儀の時に、背の高い彼女が私に教えてくれた時から既にもう運命が決まっていて、私達はその不思議な運命に導かれているのだと。
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