第25話 短冊に込められた真実
私は毎年クリスマスの日になるとデザイナー仲間とサンタの衣装を着て、恵まれない子供達のいる所に沢山のお菓子を持って慰問に行くのが毎年の恒例になっていた。
もともとこの仲間は同じスポーツのデザインや企画をしている言わば昔から知る仕事仲間で、クリスマスや何かイベントがあれば連絡を取り合って、その気期間忙しくない連中だけが集まり、そのイベントに対して服を作ったり、ツリーやパネル制作したり、様々な企画したりするのが仕事柄、得意なメンバーだった。
一言で言えば、暇をもて余している時は何かと動いていないと生きていけないような連中ばかりだった。
特にクリスマスの日に集まる連中は、私を含め家族や大切な人がいないメンバーで、ひとりでいるのが寂しく感じていた連中ばかりだったと思う。私自身は昔から余り人と群れたりするので苦手で殆どが独りクリスマスだったが、たまに日本に居る時は連絡があって参加したりしていた。
誰が最初に言い出したか今となっては分からない話だが、クリスマスにはそんな連中が居酒屋や行き付けのレストランやバーに集まって、お酒を飲みながら近況報告したり、仕事の話したり情報交換するのが殆どで、第一戦でバリバリ仕事している連中でもあり、軽い気持ちだったと思うが、何か社会的に貢献出来る事を皆でやらないかという話になったように覚えている。
老人ホームでも良かったと思うが、きっとその時は子供達に夢を与えたいと思っていて子供達のいる託児所や恵まれない子供達のいる児童養護施設等に決めたのだと思う。それは自分達がデザイナーとして夢を与えられる仕事に携わることが出来て、それぞれの自分の夢が叶ったからではないだろうか、少なからずや私と同じ夢追い人かもしれない。
各それぞれのスポーツ選手は国民に夢を与えられる立場で、間接的ではあるが私達はデザインする事でその選手のサポートするのが仕事で、同じように私達も夢を与えていると思っていた。
そして慰問に行く際は全員でサンタの格好して、一回分の飲み代をお菓子問屋で大量の駄菓子やゲーム代金に充てて、白い大きな袋に詰め持って行ったりしていた。
そんなことをしていた最中に私はある慰問所で重大な真実に気付いた。それはクリスマスツリーの飾り付けが終わり、ひとりひとりにお菓子を配り終えて子供達と楽しく会話していた後で、私達のメンバーのひとりが子供達に今の願いを短冊に書いてツリーに飾り付けてとお願いした後だった。
恐らく30人くらいの子供達は各々に心を込めて書いてくれた短冊を飾り付けてくれて、子供達はプレゼントのお菓子を食べながら様々なゲームで遊んでいた。
私達は仕事を終えてホッとしていた時だった。
私は子供達がどのような願いを短冊に書いてあるのかひとつひとつ目を通していた。
《サッカー選手になりたい》
《大人になったら美容師になりたい》
《プロ野球選手になる》
《お菓子をいっぱい作るお仕事》
どのような時に思い付いたのか色々な願いが書かれてあって、夢と言うより何か将来の目標みたいなしっかりした思いだった。
私も子供の頃は将来はパイロットになりたいという願いはあったが、ここまで強くなく漠然としていた思いだったと思う。そして私はクリスマスツリーの上から順番に読み上げていて、短冊の文字も漢字混じりで書かれていたので、きっと背の高くなった高学年くらいの子供達だろうと思っていた。そして思った通り徐々に下の方に目を移していくと、やはり低学年らしい平がなばかりの文字になり、短冊の内容も変わってきていた。
そしてその中の一枚に私は釘付けになった。
《お父さん、お母さんに会いたい》
クリスマスの日は願いが叶う。
昔から私はずっとそう思っていてこの日が来るのが楽しみだった。そんな思いで小さな子供は必死の思いで短冊に書き記したのだろう。
私達は今まで子供達に会って、ただただ子供達の楽しい笑顔を見たくてここまで仲間とやってきた。それが何ということか、本当の子供達の願いは私達には分からなく、遠い所にあった。私達は子供の喜ぶ姿を見たかっただけで分かろうとしていなかったのだ。逆に私達が子供達の笑顔で癒されていただけだった。
(私達は単なる偽善者だった)
そして私は自分に置き換えて問いかけた。
この短冊を書いた子供のように私は本当に真剣に彼女に会いたいと思って探しているのだろうか。未だに出会う事が出来ないのは、そんな強い気持ちが無いからだと。単に探しているふりをしているだけに過ぎないのだろうか。私は改めて甘んじていた自分を恥じた。
そして慰問の帰り、仲間にその一枚の短冊の話をして自分の考えをぶつけた。
(もう慰問するのは止めないか)
(お菓子やオモチャやゲームじゃないよ。俺達が見たい子供達の本当の笑顔は・・・)
そして私達は次の年のクリスマスがやって来ても、決して慰問の事は話さなくなっていた。
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