第22話 夢の続き
私はお世話になった会社を退社して、晴れてフリーランスデザイナーとして数社と顧問契約して独立した。
また専修学校からもマーチャンダイジングの特別講師として教えることになり、その後は各地方の行政や企業からセミナー講習会の依頼が多数入ってきた。
マーチャンダイジングとは「商品化計画」のことで企画、調査等から商品を販売促進するまでプロデュースする一貫性の仕事のことで、私の長年携わってきた自信のある仕事だったので経験から得た知識を企業人や学生に惜しみ無く講義した。
ただ私は群れを作らない一匹狼的存在だったので、何もかもがひとりでやらなければならなかったので、最初の頃は色々と大変だった。
まずは出張が多かった為に立地条件の良い場所に事務所を構え、当時外車一台分もしたカラーコピー機を購入し3人の助手をつけた。まだこの時は会社組織として立ち上げていなかったので資金面で苦労したことを覚えている。
会社にいる時は仕事面だけ考えていれば良かったが、いざ独立したら経営面までみなければならないので、初めてから直ぐに税理士を雇い入れた。全て仕事しながらの準備だったので多くの人に助けて頂き、また迷惑かけてしまった。
この後、仕事が大きく広がったのは長年憧れていた大手商社からのスポーツ企画の顧問として誘いがあった時だった。
学生の時に就職したいと思っていた商社が、なんと先方からの誘いがあったとは嬉しい予想外のことだった。もし大学に進んでいたらあり得ない話だっただろう。私はそこから商社ならではの機能を上手く使い、スポーツ業界に我有りと言わせるまで、日本中のあらゆるスポーツメーカーに手を広げていくことになった。
そしてある時パリに出張した際、先方の会社とのブランド契約を締結させる為に、商社経由でひとりの日本人の通訳兼アテンドになる人物を頼んだ。私の英語力では中々込み入った話し合いも難しく、愛国心の強いフランス人だけに母国語で話す事が必要だった為だ。その甲斐あって仕事も上手くいき、その夜には先方との会食が出来た。そしてホテルまでの帰りに、アテンドの方が日本人であったことからお礼にホテルのバーに誘った。
「お陰様で有り難う御座いました」
その方は
「いえいえ、これが仕事ですから」
と私達の会話は始まった。
その方の名前は
「ジャン・ピエール・吉岡」
年齢的には私より少し歳上の方で、パリで通訳をしながら日本の企業を現地の企業にアテンドする仕事をされていた。
よくよく話を聞くと、独りパリに来て住む所を探していた時に、たまたま日本人で身寄りのないフランス国籍の病弱な老婆と出会い、ある事情からその方の養子縁組になって、その人の世話をする為にフランスに残ったらしい。
彼の話すことには、独りでフランスに来たのも、その老婆を守る為に神様が私を使わしたのだと最後に言っていた。そして付け加えて、日本には自分が守ってあげられない大切な家族を一人残して来たことも話短かに説明してくれた。
(そこまで彼を動かしたものは何だったのだろうか)
当時私は彼の話を聞いて、人が人として生きていることは、人それぞれに何らかの使命があると考るようになり、我々は単純に生きているんじゃないと教えられたような気がした。
それから三年が過ぎた時に私は仕事の流れに順じ、株式会社を設立した。その頃は世界的にも景気が良く海外からも仕事のオファーも沢山きていた。国際スポーツフォーラムがドイツのミュンヘンで毎年二回開催されていてよく視察に行っていた。
会社務めから数えると50回以上は行った欧州の出張はほとんどがパリ経由にしていた為、パリに戻ってくると何故かホッとしていた。いわば私の第二の故郷のように感じていた。ほとんどがフランスの航空会社を使っていたので、顔馴染みのCAに日本のお菓子をプレゼントしたら、たまたま空いていたのか、エコノミークラスからビジネスクラスにアップグレードしてもらった。そして出張行く度にほんのささやかな楽しみになっていた。
またある出張の時に、顔馴染みのCAが乗務していたので、何時もはパリでひとりの食事だったので思いきって食事に誘ってみたら直ぐ様OKがもらえたので喜んでホテルまで迎えに行くと、七、八人の仲間らしいCAが私を待っていた。少し当てが外れたが、全員を食事に誘って、それはそれで楽しい夕食を過ごしたことを思い出した。
仕事では上手くいくのだが昔から女性とは難しいものだと感じていた。
人生は仕事もプライベートも順風満帆とはいかないものだが、これまでのことを考え振り返ると私の生き方に悔いは無かったように思えるが、これで私の夢は完了したのだろうか、まだまだ夢の続きがあるのだろうか。あるとすれば、私はどのようなことを新たに考え動いていけば良いのだろうか。
もし夢の続きがあるなら、この後どのような人生の続きが私を待っているのだろうか。そして私の気持ちの中で、ほんの少しだけそのようなことを考えるだけの時間のゆとりが出来たのだろう。
そしてその答えはもう少し先になるような予感がしていた。
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