第13話 運命の出会い
そして私は何か探し物があるかのように、また何かを求めているのか分からないまま毎日の平凡な日々が過ぎ、クラスも変わって二年目の春が訪れ、そして新学年の初日に運命の出会いは前触れもなく突然やってきた。
その日の朝、私はいつも通りのルーティンでバスに乗って四つ先のバス停で降り、そこから裏道を抜けて学校に向かった。
何時もは裏門から入るのだが、この日に限って何故か遠回りして表門から入った。別にこれという理由は無かったが、二年生の初日だったから気分新たにと考えたのだろう。そして暫く歩いて行くと左手に体育館があってその向こうには広いグランドがあり、私は何かに導かれたようにグランドに向かって歩いていた。表門から真っ直ぐに歩いて行ったら校舎の正面玄関の入り口に行けるのに、何故かその日は二回も遠回りしていた。
そして広いグランドに出た時に私はふと空を見上げ、流れる雲を見ていた。それは真っ白な大きな雲で、誰かの沢山の夢を雲という名の袋に詰めて運んでいるかのように、様々な形を変えながら幾つも連なっていた。暫く見ているとその雲の後ろに隠れていた太陽が、雲の切れ間から我先にと地上に幾つもの光が射してていた。
その光景はとても幻想的で美しかったのを覚えている。
そしてその時にグランドに差し掛かる一筋の光だけが校舎に光輝いていた。まさしくその一筋の光の先はこれから私が向かう二階の教室の窓を照らし出していた。
私はその光に導かれるままに二階の教室に向かった。
そして新学年のクラスに入って最初に私の目に止まったのは、光射す先の彼女だった。
そう言えば中学の卒業式の後、私が大好きだった光を屋上に呼び出して聞いたあの時の不思議な言葉をふと思い出していた。
「もうすぐ光射す先に運命の人が現れるから」
彼女は予知していたのだろうか、その事が現実に起こり、何とも言葉に言い表せない驚きのような感情だった。
私が立ち止まって彼女を見ていると、彼女が何気に振り替えってチラッと私を見た時に何か懐かしい感情が込み上げてきた。
(大好きだった光との想いが重なりあっているのだろうか)
(光が導かせて私と彼女を会わせたというのか)
何故、光が将来の出来事が分かっていて私に伝えたのか。光が単に私との交際を断る理由として言った言葉に過ぎないと思っていた。それにしても断る理由が何とも不思議な話だと、当時は思っていた。
(人が人を好きになったり、大切に思ったりする時はこれと言った理由もなく、一秒に満たないくらいの一瞬の時間で決まるのかもしれない。その一瞬の時間の答えはこの先、何年何十年と探し求めていくのだろう)
そして新学期が始まった。その彼女は教壇の一番前の席で私は後ろの窓側の席だった。この席は私が一番好きな席で90度角で教室全体が見渡せて、嫌な授業や暇な時は窓の外も見れる、言わば観察好きな私にとってはもってこいの席だった。
ただ彼女とは少し離れていて話す機会は無いが、いつも彼女の方を見ていられるし、誰にも悟られない利点があった。
そして簡単な自己紹介があり、彼女は市内に住む優秀な進学校から来ていて、最寄りの駅まで電車通学をしていた。私はバスで通学していたが時々友人と一緒に一時間かけて大回りして電車で帰ったりもしていた。
そして皆より先に何時かは彼女に声を掛けようと心に決めていた。
そして数日が過ぎ、チャンスは直ぐにやってきた。午前中の授業が終わってお昼休みの時間になった時に突然彼女が私の方へやってきた。
それは彼女から思いがけなく話し掛けられた。
「あなた、竹内君って言うんだ。全然見掛けなかったけど一年生の時は何クラスだった?」
私は聞かれた質問に素直に応えても恐らく知らないはずだし、黙っていた。また彼女は何も話さない私に向かって言った。
「授業中に何時も窓の外ばかり見ているね。休み時間も誰とも話さないで何時も独りで席に座っているね」
「このクラスに友達は?」
そう聞かれても確かに友達と呼べる人はいなかったが、私としてはどうでもよかったことだ。それより何故彼女は私にいっぱい質問してくるのか不思議だった。私から彼女に話し掛けようと思っていたのに・・・。
暫く黙っていると、決定的な言葉を掛けられた。
「友達いないみたいだし、私が友達になってあげてもいいよ」
友達がいないのは余計な話だったが、本当だった。突拍子に彼女は何を言っているのだろうか、私は呆気にとられて心にも無い返事をしてしまった。
「別にいいよ」
と下を向きながら小声で言うと彼女は私の顔をよくよく見て言った。
「暗いよ。もっと相手の顔見て喋らなきゃ」
「そういう性格は好きな彼女が出来たらストーカーになるタイプだよ」
「だったら私が竹内君の彼女になってあげてもいいよ」
と言われてまたもや驚いた。
「どうしてそんなこと急に・・・」
と思い切り不意討ちをつかれた。
「だってこれからストーカーの竹内君が好きになる女の子を私が守らなきゃね。今の私、好きな人いないから竹内君はラッキーな男の子だよ」
大きな声で教室中に響いた。私は恥ずかしい気持ちと腹立たしい気持ちが入り交じっていた。
「今日から私は竹内君の彼女に立候補します。だから皆知っていてね」
私も精一杯の声で
「やめろよ」
と言うと彼女は私に
「やめてもいいよ、このままだとずっと氷の中だよ。折角私がその氷を溶かしてあげようとしているのに」
私は返す言葉がなかった。
そう付け加えるように私の顔を見て笑顔で言った。そしてまたもや大声で
「何々、そうなの、竹内君は私のことが好きだって。嘘つけないって」
完全にクラスの皆に聞こえていて、あちこちでひそひそ声が聞こえてきた。そして今度は打って変わって囁くような小さな声で私に向かって言った。
「これで皆が知ってしまったからストーカーにはなれないよ」
私は彼女の行動に呆気にとられて返す言葉が浮かばなかった。突然やってきて失礼な態度に憤りを覚えたが何故か許してしまう出来事だった。
そして彼女は私の横に席を付けて座った。
「まだ俺に話あるのか」
と言うと彼女は打って変わって優しそうな顔で話し掛けた。
「下の名前は?」
尋問されているかのように聞かれ、
小さな声で言った。
「・・・正樹・・・」
「良い名前ね。今度から正樹って呼んであげる」
常に上から目線で話し出されることに圧倒されっぱなしで、彼女は何を考えているのか分からなかった。
でも私から彼女に声を掛けようとチャンスをうかがっていたのに思いもよらない出来事だった。
第一声はこんな感じだったことを覚えている。もうクラス中に知れ渡ってしまった以上隠すことも無く、休み時間になったら彼女は、回りを気にせず頻繁に隣の席にやってきて話するようになっていた。
好きな音楽の話や映画の話等、授業が始まるのも忘れ、何でもふたりの興味ある話をしていたのを覚えている。
そして知らず知らずのうちに、私は彼女の家の電話番号を知り、一日でも話が出来なかった日には、夜に何時間もお互い尽きることなく話し、私は彼女のこと知れば知るほど、想像以上のスピードでどんどん彼女に引かれていった。
常に明るく満面の笑みで振る舞っている姿や、決して人の悪口を一切言わないで誰とも隔たりを作らないでいる所、男女問わず直ぐに友達になれる性格、手からすり抜けるようなそんなつかみどころの無い、もって生まれた天性の性格は私を何時もドキドキさせてくれていた。
(今まで出会ったことの無い女の子だった)
でも時々ふとした時に、笑顔の奥にみせる哀しそうな顔は私だけが知っていた。
それは彼女が明るい性格がゆえに余計に顔に表れていた。その寂しそうな顔の理由はこの時点では気付かなかった。
今から思えばどうしてもっと早く気付いてあげられなかったのか。
出来るならその哀しみの渦から手を差し伸べて助けてあげたかった。
38年たった今でもあの頃の彼女の事を時々思い出しては切なくなる自分がいる。
こうして毎日ふたりの楽しい時間が過ぎていったが、ただひとつだけ彼女のことで知らなかった哀しい事実があったこと。
そして後に私の人生を大きく左右する二回目のターニングポイントの出来事になる。
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