第12話 新しいスタート

卒業式の後、彼女に初めて告白してから私は何もかも新たな気持ちでスタートした。勿論、直ぐに大好きだった彼女の事は忘れられないが、これからの高校生活で自分自身を変えていくつもりだった。

ただ彼女が卒業式の後で言っていた

「もうすぐ貴方の前に運命の人が現れるから」

その言葉の意味が気になっていた。


家では上の兄が独立して出て行ったことをきっかけに、私は部屋を春休み中に改装して自分専用の部屋にし扉にはkeep outと文字を書き、誰も入れないようにした。部屋には兄が残していってくれた机と英語関係の辞書と数冊の本、ポータブルレコーダーとギターと親子電話を置いて好きなようにレイアウトした。そして夜遅くまで当時人気のあったラジオの深夜放送を聞いていたり、ギターの練習をしていた。


そして春休みが終わり、第二志望校の高校入試も楽々合格し、新しい高校生活が始まった。

高校を決めた時は二つの選択肢があった。一つは兄も進んだ電車通学の都会の有名公立高校だった。この高校も魅力的だったが通学が電車ということに少し抵抗があった。もう一つの高校は、主体性のない話になるが中学校の時に私に最も影響を与えた親友が先に決めていて誘われたからこの高校に決めた。

彼とは小学校から中学校そして塾までずっと一緒に過ごしてきた仲だった。またこの高校はバス通学でも自転車通学でも出来る立地もまた決めた要因だった。

そして私が通うことになる高校はまだ九年目の男女共学の公立の新設校で周りの立地環境も良く、三棟の白く輝く校舎を繋ぐ渡り廊下が二階、三階にあって行き来が容易く、又一階のその校舎の間には円形の噴水と花壇とベンチのある中庭があり、とても綺麗なキャンパスだった。また運動場も広く、体育館は当時まだ珍しいスプリング式の畳だった。


新しく高校に進学した私は学習が暗記の詰め込み方式だった厳しい塾から長くその呪縛から解き放されたように自由な気持ちになっていて、そのような環境の中で自由を満喫しようと決めていた私は、まずはどのようなクラブ活動があるか気になっていた。中学生の時はバスケット部だったので直ぐに部活動を見に行ったが、今一強い学校でもなかったので入部する気にはなれなかった。

この際、文科系の部活動も何かないか見に行き、そして気に止めたのは当時、公立高校の制服自由化運動が盛んで、学年上の生徒会長と一部の教員が中心になって活動していた。何か社会的体制に反し、自らの自由を勝ち取ろうとする学生運動に私は興味が引かれた。「制服の歴史と存在意義」「体力測定の歴史」等々。

私は自ら考えて何かを作ること、変えること、後世に残ることに自分の存在意義を見つけたかったのかもしれない。

今までの教育方針を含め、余りにも与えられたことの多い人生だったので何か自分を変えたいと思っていた。

そして強い勧誘もあって即座にその自由化運動に参画した。

当時はよく三無主義と言って無気力、無関心、無責任の精神が蔓延っていて何もかもに関心が持てなかった。そのような中で私は何かに集中したかった。

この主な部活動の内容は制服自由化を進める中で、日本の制服制度の歴史と自由化の風潮に於ける意義と弊害を分析したり、近隣の他校との意見調整したり、教員との資料作成の構成や全校生徒の配布時期等、色々とやる事は多かったことを覚えている。

今になって思えば、単に自由とは何かとか、校則もしかり、上から押しつけられた社会的体制批判に抵抗したかっただけかもしれない。

高校は沢山の部活動があって同時に幾つものクラブに入部することが出来たので他の部活動も一通り廻った。

私は音楽は苦手だったが中学生時代に聞いていた米国の音楽が好きだったのでフォークソングクラブに入部した。そして兄から貰ったクラシックギターから、貯めていたお年玉からフォークソングギターを購入してギターを切り替えた。

それは大好きな《サイモンとガーファンクル》の曲をコピーして弾けるようになりたかったからだ。そして自分で作詞作曲してみたかったことが理由だった。

また兄に良く教えてもらっていたので、そこそこギターを弾くことは出来ていた。後にこのクラブで友人とグループを結成して、文化祭や高校を卒業しても地域のホールを借りてコンサートまで開いた。


私の新しいスタートは心に空いた穴を埋めようと必死に何かを見つけようとしていたが、その何かが分からないまま駆け足で時間だけが過ぎていった。

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