第11話 最初の別れ道

私達は三年生になって高校受験の準備が始まっていた。

私にとって初めての受験になる。

小学校の時は半数の人間が私学の中学校に行った。皆はそれなりに中学受験をしていたのだろう。その時から人生のターニングポイントが始まっていたかも知れない。

もし私に兄達がいなくて私学の中学校に行くことになっていたら、私はどんな人間になっていたのだろう。恐らく男子ばかりの中学校に行っていたと思う。そして必然的に大好きな彼女との中学校の三年間は無かった。またこの後の高校大学まで変わっていたことだろう。

今から考えると小学校に私学の中学に行った友人と中学高校は別々になったが、また大学で同じになったという友人はいた。そんなケースもあるから、たとえ別々になっても二度と会えないこともなさそうだ。どんな道を進んだとしても運命的な引き合わせは必ずあると信じている。会うべき人は必ず何処で会うし、そうじゃない人はいくら想っていても会うことは出来ないと思っていた。


そして卒業間近になって担任から全員ひとりひとりに進路相談が個別に行われた。

私は敢えて担任から高校進路相談を受けなかった。あの時から私は担任と話すことは一切拒否していたから相談を受ける気にもなれなかった。内申書にどう書かれようとその時はどうでも良かった。

塾に行っていたことでクラスでの成績は常に一番か二番以内に入っていたが12クラスもあったので学年成績は八番前後をうろうろしていた。

一方で大好きな彼女は小学校の時から良く勉強出来ていたので憶測ではあるが第一志望校通りに進路を決めていたと思う。

私はこの大事な時に親友の事ばかりで受験勉強は二の次にしていた。もし普通に勉強していたら大好きな彼女と同じ高校になっていたのを自分自身でも分かっていた。そしてまた大好きな彼女と一緒に居れたのに何故そのようにしなかったかは分からない。

今になって思う事は、生意気かもしれないが恐らく勉強よりまずはひとりの人間としてのやるべき事は何かという使命感みたいな所があったのだろう。やっぱり不条理な大人を見た事が影響していたと思う。それと友達の少ない私にとって、心の何処かで親友を大切にしたかった想いも大きな要因だったかもしれない。

だから私はすっかり彼女のことを忘れていたし、まともに受験勉強もしなかったので安全策として第二志望校に進むことを決めていたし、塾でもその方を推奨してくれていた。


正直、この一年間は勝との思い出ばかりで第一志望校に行けなかったことはそんなに悔しいことでもなかった。ただ彼女ともう会えないと心のどこかで分かっていた気がする。

(もしこれが初恋なら上手くいくはずがない)

(高校生活が小学校の時のような薔薇色の気持ちで大好きな彼女と一緒なんて想像できない)

私は彼女に対してポジティブな考えになれなかった。一言で言えば、自分に自信が無かったのが一番の原因だった。


そして卒業式の日がやってきた。勝にはいっぱい感謝されたが、私も楽しい時間を持てたことで嬉しかったし、何より中学生で最初の友達だったから方苦しい話は嫌だった。それよりは私はこのまま大好きな彼女と何も言えないで別れることの方に頭がいっぱいだった。

(気持ちを伝えるのは今日しかない)(小学校の時に言えなかったことも全部話そう)

(あの時の後悔はもうしたくない)

(兎に角、今日しか彼女に話せるチャンスは無い、話さないと・・・)

数日前からそのようなことをずっと考え、私は自分の教室に向かった。

教室ではもう黒い筒に入った卒業証書が担任からひとりひとり渡されていた。マンモス校だったので式では渡さず各クラス別で渡すことになっていた。私はその卒業証書を受け取ると早々に彼女のクラスに行こうとしたが、何人かのクラスメイトの女子に引き留められた。そして突然に

「竹内君のことが好きだった」

と数人の女子に代わる代わる告白された。

(どうして俺?)

今まで全く気付かなかったし、クラスメイトとしてしか接していなかったのに理由が分からなかった。

彼女達にとっても、今日しか自分の想いを相手に伝えることが出来ないと私がそうであるように、ただ片思いとはこんな気持ちなんだろう。最後に伝えなければと思う気持ちは同じだった。私のことを好きだと言ってくれた彼女達も・・・。

私は彼女達に

「有り難う。忘れないよ。でも俺、行かなきゃ・・・。どうしても今日伝えないといけない人がいるんだ」

そう言い残して彼女の教室に向かった。すると彼女と偶然に廊下ですれ違った。そしてベタな話だが式の後、私は彼女を学校の屋上に呼んだ。

「光、話したいことがあるから、式が終わったら屋上に来てほしい」

とだけ言って彼女の返事を待たずに立ち去った。正直、断られたらどうしようと彼女の返事を聞くのが怖かったがその反面、きっと彼女は来てくれると私の心のどこかで信じていた。


そして卒業生が待っている講堂に走って向かった。クラスごとの指定された簡易の椅子の席に着くと、長々とした校長の話が始まった。私はそんな話を上の空で聞きながら遠く離れた大好きな彼女の方を見ながら

(もう今日で終わりだね・・・。)

(三年間いや小学校からずっと一緒でずっと変わらなく好きだったよ)

(斜め後ろから見る光も今日が最後になるね。いっぱい見てきたよ・・・)

(式が終わるまでもう少し待っていて。俺は光をこんなにも好きだったこと伝えるから)

心の声で呟いていた。

式も無事に終わり、私は先に校舎の屋上で待っていた。暫くして彼女がやってきた。彼女は私が話あることをあたかも知っていたように私に微笑みを浮かべて近付いてきた。

そして私は彼女を呼び出した以上、勇気を振り絞って彼女に向かって言った。

「今日で最後だね」

「高校は別々になるね」

「俺、お前のことずっと好きでいた。光が転校してきた時からずっと好きだったよ」

「俺が好きだったこと知ってた?」

と言うと彼女は小さく微笑んで頷いてくれた。彼女も同様の気持ちだったのだろうか・・・。

私は最後に初めて自分の気持ちを伝えることが出来た。正直、私は彼女に告白出来たという達成感みたいな気持ちでいっぱいでその時の彼女の返事は期待していなかった。

彼女は微笑み顔から少し気まずそうな顔で私に言った。

「知ってたよ。私が寄り道した時から・・・。ずっと私の方だけ見てくれていたこともね。

人を一杯好きになれる事を教えてくれて有り難う。でもごめんね。上手く言えないけど、正樹に相応しい運命の人がもうすぐ正樹の前に現れるから。だからその時は光射す所に導かれて行ってね。

そしていつかきっと正樹にも理解出来る日がくるから・・・」

そんな理解し難いことを言われた。

本当は色んな話したかったのに私が彼女から聞いた事で覚えているのはこれだけだった。

ずっと彼女を好きでいた事、決して忘れないだろう。


その後、彼女とは一度も会うことはなかった。

そしてこの日が私の人生の最初のターニングポイントだったかもしれない。

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