第9話 初めてのデート
自転車デートと言うか彼女と二人きりになったのを最後に、私はあの時の彼女が言った言葉
「さっさと彼女を作れば」
が気になっていた。同性の友人に言われるならまだしも、異性で尚且つ大好きな彼女に言われるなんて、思ってもいなかった。彼女も私と同様に、もう恋愛感情じゃなく幼馴染みとしてのアドバイスだったのか。それとも単に私が強がりで言った言葉の仕返しなのか。どういうつもりで言ったのか定かでないが、結局彼女の言っていた
「・・・内緒・・・」
もその後ずっと聞けずにいて、何時しかそのことも忘れてしまっていた。
中学二年生の夏、私に様々な影響を与えた一番の親友といっしょに二対二の四人で初めてグループデートすることになった。
何時もながら彼の行動は全く読めないし、何時も誰かを巻き込むのが得意だった。そして今回も何の前触れも無く、そして前日に私に一言の相談も無く決められていた。
そもそも親友に好きな女子がいると聞いて話している内にその彼女の友達が私のことが好きだということで、私の承諾も無く知らない内に日程まで決められていた。
私の事を好きだと言ってくれる彼女の顔も名前すらも知らなかった。勿論、話したことも無くてどんな子が来るのか不安でしかなかった。兎に角、親友が四人で会ってくれと頼まれたので渋々了承した。
そして日曜日のデートは電車で四駅先のこの辺では有名な公園で待ち合わせする事になっていた。
私と親友は電車で一時間前に先に行って四人分の入場チケットを買ったり、デートコースの探索をすることを決めていた。
そして公園の入口で待っていると、
デニムのパンツにTシャツ姿の友人が想いを寄せる彼女と、少し遅れて歩くもうひとりの淡いピンク色のワンピース姿に縁の広い白いリボンの付いた帽子をかぶったの女の子がやってきた。親友は彼女達の側に駆け寄り何かを話していた。
私は彼女達を連れた親友を入口で動かずに立ち止まって待っていた。
そして合流するなり、私に彼女達を紹介もせずに好きな彼女とさっさと歩き出した。残された私と彼女は気まずい空気の中、遅れないように親友のすぐ後をついて行くだけだった。
私はとりあえず学校の何グラスと名前だけでも聞こうと彼女に尋ねた。
彼女の名前は
「沢村洋子」(さわむらようこ)
クラスは私の隣のクラスだったが、私は全く分からなかった。よくよく見ると、とても可愛くエレガントな感じの女の子だった。
(俺のこと何も知らないのにどうして好きになれるんだ)
(俺には天地光という好きな彼女がいるのに)
と思いながら彼女と歩いていた。とりあえずそんな気持ちはさておき
(初めまして)
なんて挨拶も変だし、一定の距離をおいて四人共にぎこちなく歩いていた。あまりよく覚えていないが、なんとか皆でソフトクリームを食べて和んだところで親友が
「ボートに乗ろう」
と言い出し二組に別れて乗ったのを覚えている。親友は初めからこの公園のデートコースでボートに乗ることを決めていたかもしれない。
そして別々にボートに乗って私達は邪魔してはいけないと思い、親友の乗ったボートと少し距離をおいた。
ボートは向かい通しになるので何か話さないと思うのだが、何を話して良いか分からないまま沈黙が続いた。そして漸く彼女の方から話出した。
「あのふたり大丈夫かな。上手くいくと良いのにね」
私は軽く頷いた。そしてまた彼女は「迷惑だった?」
と不意討ちに聞かれ、私は直ぐに答えた。
「そんなこと無いよ。ちょっと驚いただけ」
実際に正直な気持ちだった。
ただこれ以上聞かれたら、なんて言ったら良いのか答えることが出来ないだろうとも思った。
私は何も知らないのにどうして人は好きになれるのか、彼女は一体私の何処が好きになったのか。そんなことばかり考えながらボートを漕いでいた。
私は他に好きな人がいるのに抵抗があったが、彼女の無邪気に喜んでくれている姿を見て、余計に罪悪感をおぼえていた。
(初めのデートで私の好きな光じゃない)
(なぜ自分はここに居るのだ)
と自分は嫌な男になっていくことに抵抗があった。結局
(僕は他に好きな人がいる)
とも言い出せないで、それ以上の会話も無いままに時間だけ過ぎていった。
帰りはどう別れてどう帰ったかは思い出せないが、その後親友も折角デート計画も儘ならないで、上手く付き合うこともなく自然とフェードアウトしてしまったらしい。
彼女もまた彼女の友達が上手くいかなかったことで自分だけと思ったのか、その後も何のコンタクトも無く、廊下ですれ違っても会釈する程度だった。
このデートで私のことを好きでいてくれた彼女にも何も言い出せなくて、私がずっと好きな人にも自分の想いを伝えることが出来ない小心な男だったという気持ちになった。
小学校の卒業間近の時、光に
「お前のことが好きだ。中学校も同じだ」
と告白しとけば良かった。
そしてただただ好きになってくれた彼女には申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
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