第7話 離ればなれの青春

私達は共に同じ中学校に進んだ。

その中学校は歩いてでも行ける距離だが、ほとんどの生徒は自転車で通学していた。

そして入学式の時に初めて彼女の制服姿を見た。それはとても凛々しく清楚な感じで、少し近寄りがたい気もするほどの女性になっていた。

(光はこんなに素敵な女の子になっていたんだ)

(苛められていた時は俺がお前を守るなんて良く思えたもんだ)

もう私の考える彼女じゃ無くなっていた。小学生時代のあの無邪気な笑顔も変わってしまっていて、どこか遠い存在のように感じていた。

そして私の心の中にも大好きな気持ちの隣に密かに幼馴染みの友達としての想いが広がり占め始めてきていた。


中学生になり、私達は別々のクラスになっていた。この中学校は12クラスとマンモス校もあってなかなか同じクラスにはなることは難しかった。そして生徒は様々な小学校から来ていて私は少し戸惑っていた。それは皆全員が同じ気持ちだったことだろう。

また服装も私達男子生徒は学生服になり、詰め襟はとても息苦しさを感じていた。そして一番嫌だったのが男子は全員丸坊主頭になることだった。それは初めての経験だったからよく覚えている。この行事みたいな事はやっぱり大人になる階段の第一歩だったのかと考えていた。そしてその青びかりした丸坊主頭を誰よりも彼女には見せたくなかった。

まぁ男子全員がその丸坊主頭だったから、そう目立つことはないと思っていたが、それでも嫌だった。

そして彼女とは、初めて出会った時から五年が過ぎ、二人とも制服を着ることで身長も身体もずいぶん成長していたことに気付かされた。

お互い制服を着たことで、ちょっと大人の仲間入りした気持ちで嬉しかったことを覚えている。

彼女の場合は私の欲目だったかもしれないが、彼女の凛々しく清楚なセーラー服姿に艶々輝いていた黒髪のオカッパ頭はやっぱり学校の中で一番可愛かったように思えた。いや実際に誰よりも可愛かったに違いない。


それからの三年間の私は思春期に入る頃だったのにもかかわらず、全くといって良いほど、大勢いた他の女子学生には目もくれず、これから過ごす三年間は幼馴染みの友達的存在に成りつつあった彼女に、ずっと心を引かれていた。

一方彼女はと言うと、相変わらず魔法の粉をクラス中に振り撒いていたのだろうか、クラス中の男子の人気者になり、隣のクラスまで飛び火していたほどだ。小学生の時に私と彼女が噂になっていたことは、中学生になってから殆んど知る人間はいなかったし、私もあえて話さなかった。

やっぱり中学生になってからも小学校の時みたいに、毎日彼女の顔や話し声を見たり聞いたり出来なくなっていて、たまの休み時間に廊下ですれ違うことはあったが、私も彼女も意識し過ぎて目を反らしてしまっていた。

無邪気だったあの頃が懐かしく思え、小学生時代から段々と大人になっていくことがこんなにもお互いを狂わせていくものなんだろうかと思った。あの頃の純粋だった気持ちも曇り、何故お互いに意識しなければならないのか、当時はよく分からなかった。

大人になって、青春とは甘酸っぱい記憶の思い出とはよく言ったものだ。

ようやくクラスにも馴染み私はクラブ活動をしようと運動部を訪れた。小学生時代から野球やってきたので真っ先に野球部を訪れ、先輩達の話をよく聞いたが私の場合、塾が忙しかったので野球部に入部出来なかった。仕方なく私は時間帯が合うクラブを探し、最終的には足も速かったのでバスケット部に入部した。まだ一年生だったので基礎練習ばかりで中々試合形式とはいかなかったが、でもお陰様で入部してからわずか一年足らずで身長は10センチ以上も伸びた。

暫くの間、私は忙しく厳しい塾通いと放課後のクラブ活動に明け暮れ、彼女の事は考えなくなっていた。

そして私はクラブで履くバスケットシューズを肩に掛け、当時流行っていたタイムズスクエアのバッグを自転車のハンドルの前に置いて登下校していた。

そして一年生の時は彼女に一度も話しかける事もなく、ずっと彼女の背中ばかり見て過ぎてしまっていた。

彼女と私は学校まで同じ方向だったので、時折いっしょの登校になったりしたが、彼女は自転車通学じゃなくていつも何人かの女友達を連れて歩いて登校していた。だから朝から

「おはよう」

と一言挨拶することすら話かけることは出来なかった。


そして私達は時間の流れと平行に徐々に気持ちが離れていく気がしていて、お互いがこれから始まる別々の道を歩もうとしていた。

そして彼女のことを好きだという気持ちと幼なじみの友達だという気持ちの境目が分からないまま時が過ぎていった。

だが、たとえ離ればなれの青春時代だったとしても、同じ学校だったし何時かきっと私の想いを告げる時がくると信じていた。

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