第6話 私の片思い

私は相も変わらず、不思議なことを言う彼女のことが好きだった。ずっと好きのまま何時も彼女のことを考えていた。もしこれが初恋と言うなら、何時か冷めてしまうのか、それとも片思いのまま終わってしまうのか。大抵の場合は叶わぬ恋だったり、片思いのままフェードアウトしてしまうことを良く聞くが、自分だけは例外と思っていたい気持ちと、どうしようもない不安めいた気持ちが心の何処かで何時も交差していた。

今から思えばその頃は、親の転勤で学校を離れたり、中学高校と学校が違ったりして離ればなれになる仕方のない試練みたいな事があったりするので、中々気持ちを継続するには難しい時期だったかもしれない。

実際、彼女も転校生だったし、前の学校で想いを寄せる好きな男子がいたかもしれないし、逆に彼女を好きになっていた男子がいても不思議ではない。そう考えると子供の頃っていうのは少し切ない気持ちになるものだ。

またその頃は多くの言葉を勉強して覚え、実践で使う時期で、自分自身を表現し相手に上手く伝えようと苦戦していた時期でもあった。

だから子供の時に多くの本を読んでいた子供はボキャブラリーも多く伝達能力も優れていた。私はと言うとボキャブラリーも貧困で、その上内気な性格だったから中々自分の気持ちを伝えるのが苦手だったので、始めから自分の方から話さないでもっぱら聞く方に専念していたように思える。

だから彼女に上手く伝えるなんて到底無理な話だと諦めていた。


そんな六年間の小学校時代はあっという間に過ぎ、その中で特に楽しかった四年間は学業意外にも学ぶ所も多かったし、私自身の性格形成の基礎にもなったと思う。また大好きな野球をやっていたから体格も周りの男子より大きくなり骨格も筋肉も成長していた。

ただ性格は変わらず、四年間もありながら彼女には私の好きな気持ちを何も伝えることもなく過ぎてしまった。今から考えると幾度かチャンスはあったはずだ。林間学校、修学旅行等、上手くいけば二人きりになれたと思う。思いきって一言

「話がある」

と言えば良かったが、言い訳じゃないが彼女の周りには女の子がいつも二、三人居て彼女が独りになるタイミングが無く、中々言い出せなかったのを覚えている。

もし上手く彼女と二人きりになって、私の気持ちを伝えたとしていたら、その後はどうなっていたのだろう。毎日学校の帰りは一緒に帰っていたのだろうか。休み時間は二人で色んな話したり遊んでいたのだろうか。休みの日は自転車に乗せて公園に行ったり、街を探索したり、ちょっとしたデートみたいなことをしていたのだろうか。

今ならこんな事を考える余裕はあるが、私は内気な性格だったから、もしそのような機会があったとしても彼女に自分の気持ちを伝えたらおしまいみたいな所があって、その後の事は考えた事も無かった。

「俺は光のことが大好きだ」

って単に思う気持ちにずっと酔っていただけかもしれない。

これが初恋と言うなら、そんな釈然としない朧気な恋心なのか。

彼女のこんな所が好きだとか、こんな所に引かれたとか、自分に無いものを持っているとか、具体的に何か好きだという決め手みたいなものがあれば、もっと明確になっていたと思うが結局の所、好きな彼女はこうなんだと思っていて、好きな彼女だからと彼女の全てのことを受け入れていたように思える。

「光のこんな所が好きだ」

じゃなく

「好きな光はこうなんだ」

要するにどんな光でも好きになっていたと言うことかもしれない。

好きな気持ちに明確な理由はいらないということだろう。

まだ幼かった私には、理解出来なかったのだろう。


そして六年生になり、楽しい修学旅行も終わりその頃には彼女と私に対する苛めも無くなっていた。

私は相変わらず塾通いで好きな野球部も辞めてひたすら勉学に励んでいた。彼女もまた同様でお兄さんが家庭教師役でお家で勉強していたらしい。

共に私達二人はその後、同じ中学校に進むことになるのだが、その頃のクラスの中の話題はと言うと、私学か学区内の公立の中学校の話ばかりだった。中には当時よく行われていた越境入学だった。学区内の中学校が風紀的な問題や学力的な問題で敬遠される家庭が多く、私の両親も含め、周囲の大人達から様々な評価を聞かされていた。そして子供の住民票だけ移して仮に住んでいることにし、他の進学校に通わせたりしていた時代だった。

また当時は中学校の進学に私学を選ぶことも多く、裕福な家庭の子供たちは私学に進んだ。私の家は二人の兄がその時、私学の大学だった為に私に私学に進む学費が掛けられなかったと聞いていた。

私も特にあえて私学を選んで行く気持ちも無かったし、何より彼女と離ればなれに進学することのほうが嫌だった。その時は二人の兄に心の中で感謝した。


そして卒業する数日前に彼女の友達から

「竹内くんは何処の中学校は行くの?」

と聞かれた。そう言えば私はクラスの皆には何も自分から話さなかったし、私が何処の中学校に行こうと皆は私のことなんかに感心が無かったと思っていた。そして私は彼女の友達に

「どうしてそんなこと聞くの?」

と聞き返した。

「実は光ちゃんが竹内君はどこの中学校に行くかを聞いて来てって言われたの」

彼女の友達はそう教えてくれた。

そう言えば、あれから彼女と話す機会も無かったので私はその友達に

「学区内の公立の中学校だよ」

と答えると

「そう、光ちゃんと一緒の中学校だね。伝えておくね」

と言われた。私も彼女が何処の中学校に進むかは、気にはなっていたがこの時に聞かされるまで知らなかった。私は転校してきた彼女だから、きっと同じ中学校に行くもんだと勝手に思い込んでいた。


私はその伝言を聞いて嬉しかったことと同時に、この四年間はひょっとしたら私の一方的な片思いじゃなかったのかなとも思って、とても嬉しかったことを覚えている。

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