第5話 誕生日会の招待

当時、お家で良く誕生日会が開かれていて、クラスの中で特に仲の良いお友達五、六人の男の子や女の子を招いていた。

小学生時代の初めての人間関係を形成する上でのイベントみたいな感じで、友人を自ら選出し交流を深める場だった。大人になっても社会に出たら、友人、同期、上下関係等様々な親睦を図ったりする付き合いがあるが、その形成の第一歩だったかもしれない。

そしてそんな誕生日会は家庭的な問題から今では学校が禁止している所もあるが、当時はまだ騒がれていなかった。確かに私も記憶をたどれば、お金持ちの家とか言葉で言っていたし、それはそれは驚くほどの立派な誕生日会に招かれて行ったりもした。でも子供にとってはそんな大人の事情より、如何に好きな男子女子に招かれるかが問題で

「誕生日会に招かれたぞ。ラッキー」

「誕生日会に招かれなかった。やっぱり好きじゃなかったんだ」

とか、喜んだり落ち込んだり好きになった相手の気持ちを確かめる場だったような感じかもしれない。そんな誕生日会は、招かれた招かれなかったに関わらず、この頃から私自身はあまり好きではなかった。

今に思えば、誰を招かないを考えるのが面倒だったんだろう。また招かなかったら相手を傷つけるとか考える性格で、まず自分自身に置き換えて考えてしまう。でも好きな人の誕生日はやっぱり気になるのは当たり前だったし、誕生日会に招かれるとやっぱり嬉しかったのも事実だ。

今考えても不思議だったのが、何故か彼女の誕生日の日をほとんどの男の子は知っていて、彼女の誕生日が迫って来ると男子は

「自分は招かれているのかな」

とそわそわしていたのだろう。勿論、女の子を苛めるような男子は招かれない。今から思えば苛めっこな男子は招かないからその腹いせに苛めるようになったのかもしれない。そう考えたらちょっと可哀想な気もする。


彼女の事を紹介すると、彼女の家は急行電車が停まる駅の近くで、その駅から先はまだ住宅地開発が行われていない畑や田んぼがあったりした境目の場所だった。環境的には凄く良い場所で、駅直ぐ横には小さな清みきった小川があり、その河川は当時、新聞に載るくらい綺麗な桜通りになっていて春には沢山の人達が花見に訪れていた。

そしてどういう訳か私は彼女の誕生日会にはいつも招かれていて、そのような中で少し優越感を持っていた。何故なら彼女と私の母親はPTAの役員をしていて良くお互いの家を往き来していたことを覚えている。大人の事情もあったのか

「竹内君だけは誕生日会に呼んでおきなさい」

なんて彼女はお母さんから言われていたかもしれない。子供ながら

(そんなことフェアじゃない)

と思いつつも参加していたが、その事で本当に彼女が私を招きたかったのかどうか、真相は分からないままだった。

そして招待を受けた人はまずちょっとしたお小遣いの範囲でプレゼントをする決まりがある。まぁ、お菓子一個ほどかな。大体三時頃の開催だったので、招いた方はお菓子やケーキ等を提供する。そして晩御飯の支度もあり夕方頃には解散になる。誕生日会と言っても今から思えば仲の良いお友達といっしょにおやつを食べてワイワイと話する、ただそれだけの誕生日会だった。

それでもその時間は幼心にも特別なものだった。私がこの時に思ったのは、誕生日会が出来る人と家庭の事情で出来ない人がいること。

そこに問題があって、貧富の差で出来る人は良いが出来ない人は何らかの負い目と言うかその捌け口として、幼な心にどうしようもない気持ちを晴らす為に苛めのような行動に繋がるようなこともあったのかもしれない。

私も決して裕福な家庭ではなかったので、誕生日会が出来る年も出来ない年もあった。


母親は専業主婦だったので、家でよく内職をしていた。当時はよくあった事で歯ブラシの箱作りや箱詰めのような簡単な軽作業で、様々な内職があったのを覚えている。

一個作るのに数十銭の報酬で夜中までかかった。報酬が一円単位の内職の仕事なら少し複雑な作業が伴うが、それでも母親は喜んで仕事を受けていた。当時、簡単な作業だったので私もよく手伝ったりしていた。

子供だったのでその作業が決して辛く感じなかったし、逆に楽しかったことを思い出す。一日仕事しておそらく何百円単位のお金しか貰えなかった時代だった。それでも我が家では家計の足しになっていたと思う。

今になって思うのは、何不自由もなく過ごさせてもらったことに本当に感謝している。

そして私はこの時に二つの事を学んだ。

一つは、誕生日会が出来る出来ないは何らかの家庭の事情があると思うが、世の中には決して皆平等ではないということ。

二つ目は、労働と報酬の関係は比例すること。子供の考えることなので難しいことは分からないが、複雑に工程が増えたり作業時間が多くかかる仕事は賃金が高くなる事。そして労働の種類にも格差があり、医者や弁護士、パイロット等の技術職や専門職は高収入であること。そんな私は幼少の頃から社会の仕組みを理解していた。


そしてその頃から将来の夢を形成し始めていて、後に私は専門職として大手企業に就職し、数年後に独立して会社を立ち上げることになった。

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