▼【朱い冊子を読む】

 慎重に頁をめくると、ぱりぱりと乾いた音がして、荒い紙の感触が指先に擦れた。古いようで、ほとんど赤茶けた文字を辿る。



“ーーー…村の三浦何某という者、山奥にてふと見れば見知らぬ屋敷有り。黒き大門有りて、入って見るに、庭にて鶏が遊び、紅白の花多く咲き見事なり。裏の方回れば牛小屋と馬舎有り、されど人は居らず。訝しく思いて玄関より上がるに、座敷には火鉢有り。鉄瓶沸くもやはり人影無く、げに奇妙なり。この者、座敷にあった赤き椀を持ち帰ったところ、幸福を得る。ーーーーー…遠野において、かような屋敷を迷い家と云い、訪れる者度々あり、須らくこの屋敷の物を持ち帰る。因りて、行き合う者は必ずこの屋敷の物を持ち出てくるべきだとされる。また屋敷の主、誰ぞか知る者無く、迷い家の所以も分からず。ただ在るのみの異界の家と伝わる。…ーーーーー”



 

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迷い家 立見 @kdmtch

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