終わらない

「…………………………」


オークが離れていく。もう、俺は動けないから、動かないから、やめたのか。でも、これで、シリカは、村の皆は無事だ。これが、俺のできる罪滅ぼしだったのかな。俺が奪った命は魔物達だ。守ったのは人間だ。そして、戦ったのは魔物だ。罪滅ぼしと言うにはあまりにも、さっきは何でそう思ったんだ。


「……………………」


?!


おい! まて! オーク! そっちの方向は、その先には、あの村があるんだぞ! おい! そっちにいくな!


ちくしょう! 体が動かない!


「……ま…………て」


聞こえてない! もっと大声出せよ! 出せよ! あのままだと、あのままだとシリカが! お願いだ! 頼む! 俺を見ろ! まだ生きているぞ! くそ! くそ!! くそ!!! 頼む! 動いてくれよ! 少しでいい! あいつの進む方向を変えるぐらいでいい、だから、頼む! 動いてくれよ!


必死に動かそうとするも、動くのは指先、首ぐらい。僅かに腕が上がっても、とても何か気を引ける事が出来そうにない。オークの背中が小さくなる。もうダメだと悟った。


「……は…………は」


間違えた俺への罰なのかな、いや違う。この世界は、元々こうだったんだ。人間はどうしようもなく、魔物に殺される世界。抗う事はできる。でも勝つことは絶望的、そんな世界だ。今仮に守れたとしても、次は守れない。どうしようもないんだ。今日魔物を殺しても、明日は変わらない。世界は、変わらないんだ。


「とう……さ……ん」


父さんが見える、いない筈の父さんが。


『諦めるのか?』


諦めるしか無いんだよ。もうどうしようもないんだ。


『あの子を守りたいんだろ? だったら、ここで諦めるわけにはいかない』


無理だよ。体が動かないんだ。声もほとんどでない。どんなに足掻いたって、もうどうにもならないんだ。


『そうか、××、人は間違える生き物だ』


いきなりを言い出すんだよ。


『間違えて、間違えて、何度も正そうとするんだ。でも、『正しい』なんて存在しないんだ。どんな行動にも、存在しない。でもね、もし正しい道があったら、道は1本しか無いだろ? 間違える道は沢山ある』


間違ってたから、俺は後悔しているんだ。先生に、あんなことを言わせたんだ。


『でも得たものもある』


得たもの? 後悔以外に?


『得たものは自身でも気づいてる、シリカを守りたいなら、後悔しないことだ』


おい! それってどう言うことだ!


もう父さんの声は聞こえない。幻覚だったのか? いや、幻聴か? シリカを守りたいなら、後悔しないこと、大切な物を失ったのに、その事を後悔しないって、なんで、俺は父さんの大切な物を、大切な心を失ったんだ。


「?!」


いつのまにか、俺の右手にナイフが握られていた。そのナイフは、父さんの遺品のナイフだった。



いや、形見のナイフだった。


「こう……かい……」


もしも、後悔することなく生きていたらどうなっていたのだろう。あのまま暁の所に留まっていたら……俺はもっと知識を得ただろう。自分が後悔しないって道を選択できたと思う。


「……」


でも、もう過去は変えられない。後悔したら、後悔した過去が残るだけだ。力に自惚れて、そうだ。何一つ良いことなんて無かった。得たものなんて、それのせいで後悔するんだ。


「…………」


『まだ気づかないのか』


父さん……わかんないよ。


『お前はものわかりが良いのに、大事な事は自分じゃない別の誰かに言われないとわからない所は変わらないな』


昔から、そうだったんだな。俺って


『後悔してでも得たものは、捨てるべきじゃない。いや、今までの自分を否定するべきじゃない。それは、心が死んだ者がすることだ。××、お前の心はまだ死んでいないだろ? 』


ああ、抗えるのであれば、最後まで抗ってやる。


『なら、自分を信じろ。後悔して、失って、取り戻してくれて、救ってくれた、自分を信じるんだ。お前が失ったから、取り戻してくれたんだ』


…………


『××、お前は、どんなに苦しくても、どんなに痛くても、抗う事ができる。そして、抗えるだけの力を最初っから持っているんだ。お前が、苦しめたそれは、これからも苦しめる。でも、男なら、それさえも力に変えて見せろ』


…………わかったよ。父さん。やっとわかった。そうだ。俺にはあったんだ。抗う力が、


俺は立ち上がる。無理矢理にでも、そうだ、たとえどんなに傷ついても、どんなに打ちのめされても、俺は立ち上がれる。今までだって、そうだ。


「同時にわかったこともあるよ」


結局の所、俺はワガママだ。でも、そのワガママを突き通してしまうのが俺だ。でも、それが必要なんだ。


「心だ! 『心』が必要だったんだ」


『守る!』


大事な心だ! 俺はどこか、安心感を持ってたんだ。先生がいると言う安心感を、だから、抗う力に気づけない!


「誰でもない! 俺が守る心だ!」


俺は走り出す。大声をだして、オークに気づかせる。オークは大きな雄叫びを上げる。


「父さん、それでも足りないものがあるんだ。だから、力を貸してくれ!」


俺はナイフを握りしめる。オークは根本を大きく振り上げる。そのタイミングに合わせ、俺は自身の左足をつき出す。


「ウガアアアアアアアア!!!」


オークは振り下ろす。


「終わりだ」


俺はその一撃を左足で受ける。体を捻り、その力を全て『回転』に変える。そして、


「くらいやがれえええええ!!!」


その回転、俺の力、全てを右腕に、いや、ナイフに込める。


オークの額にナイフが突き刺さる。深く、根本まで。オークはその場で倒れる。動くことはもう無かった。


「…………」


オークを倒した、シリカを守れた安心感を得た瞬間、俺もその場に倒れる。


「…………つかれた」


死ぬつもりはもうとうない。ただ寝るだけだ。傷つき続けた体は、『治癒する感覚』を覚えている。無意識な程に。寝ていれば、直に回復する。


「父さん、確かに苦しいよ。『体が動く』感覚のおかげで動けたけど、今までにないぐらい、肉体的に苦しいよ。でも、心は苦しくないんだ」


お休み。


















目が覚める。土の上で、寝ていた筈なのに、暖かい。横を向いているのに何も見えない。いや、見える。でも森のモノじゃない。


仰向けになろうとすると、先生のデカい胸と顔が見える。この暖かい感覚は、膝枕だと、わかった。


「先生」


「起きたか」


先生は複雑そうな顔をしていた。まあ、そうだろうな。2度と姿を見せるなと言った相手に膝枕してるんだから。何故してるのかはわからないけど。


横を見ると村人達の姿があった。そうか、ここは村なのか。


「よかったぁぁぁぁぁぁ!!!」


シリカは泣きながらそう言っている。心配してくれていたのか。村の皆も、申し訳なさそうにしているが。


「……申し訳なさそうに見るんだな」

「それは……その、すまなかった。君を、化け物だと言ってしまった。救ってくれた人を、恩を仇で返すようなことをしてしまったんだ。本当にすまない」


村長であろう人が頭を下げる。皆も頭を下げていた。


「気にしてない」


すると今度は泣きながらシリカが謝ってきた。


「ごめんなさい! 落とし物が見つからなかったせいで! 」


落とし物? ああ、そんなこと言ったな。俺、


「あれ? 全くの嘘」


「?!」


村人全員が驚いた。その様子だと村人総出で探してたな。


「シリカを急いで村に逃げさせるにはそれが一番の理由かなって思っただけ。でも良かった、無事で」


俺は立ち上がる。シリカの頭を撫でる。


「××」


先生が俺を呼ぶ、振り向くと先生は目を反らしてしまった。


「先生、俺は謝りたい事があるんだ」


それを聞いて先生は目を合わせる。けれど、俺は笑顔でこう言った。


「それは謝る気がないと言うことだ」

「え?!」


流石のこれも先生は驚いたようだ。


「ほんのさっきはまで謝ろうと思ったんだけど、辞めた」

「は?」

「後先生の跡を継ぐことにしたから」

「おい!」

「もし継がせたくなければ死なないでくれよ」

「?」

「死んだら継ぐからな」

「…………」


先生は呆れ果てた。俺がワガママなのはわかりきってるだろうに。


「私は継がせる気はもうとう無いぞ」

「だから止められるうちは継がない」

「はあ、どうしようもない奴だな」


なんやかんや先生と仲直りは出来たと思う。村人たちとも。ただ村は2度も襲撃されたこともあって移動を余儀なくされた。その準備を俺と先生は手伝い、夜になる。


「皆寝たな」


村人達は皆疲れきって寝ている。俺はなんだか眠くなかった。


「そうだな」


先生も起きてる。俺と先生は星を見る。雲1つない、星空満点の空だ。


「私は、お前に会うつもりはなかった」

「知ってる。でも膝枕してくれた」

「膝枕は置いといて、それはあの子が必死に言ってたんだ」


シリカのことか


「××が危ない。このままだと死んじゃうって。他にも色々と言っていたけど、お前に怯えていたシリカが必死にお前を助けようとしていたんだ。それで思った。『××は今シリカの為に戦っているんだって』自分の為に戦ってたお前が。だから、会わなければいけないと思った」

「守りたいと思った自分の為に戦っただけだ」

「そうか」

「でも、そう思ってくれたのは、俺の事が大事だからなんでしょ?」


俺は先生に笑顔で言う。先生は図星のようで俺から目をそらす。


「まあな」


あんなことがあっても、先生は俺を大事に思ってくれたんだ。


「先生」

「?」

「伝えたい事があるんだ」

「いきなり改まるなんて、どうしたんだ?」


俺は先生に向き直す。先生もそれに気がついた。俺には伝えたい言葉がある。それは今言わなければいけない言葉。俺の、感謝の言葉


「先生、貴方に出会って良かった。今まで、ありがとう」













それから、俺と先生は別れた。俺がやるべきことを見つけたから。先生は今までも、そしてこれからも変わらない。

俺は移動する村人達についていった。途中で伝説の剣、エクスかリバーを使う勇者率いる集団と合流することになった。先生と再開したのは数年後。


その数年後に、神のイタズラか、気ままか、再開した日に先生は亡くなった。俺は後を継いだ。

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魔王との戦いで眠りについて300年。目覚めたらSランク冒険者になりました。 Edy @sakananokarumerayaki

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