第2話ー国王との解析そしてはじめてのピチュ

真面目正常マジメ タダツネ

彼は致命的に狂ってしまっていた。

歯車だって毎日欠かさず動かし続けろくな手入れもなく過酷な環境で行使すれば壊れ果ててしまう。


社会の歯車である彼も同様だ。

幾ら名前が真面目で正常だとしても過酷な環境で酷使された彼は致命的に壊れた。

一度壊れた歯車は治せない。

直すよりも新しい歯車を買ったほうが効率的だ。


だが壊れた歯車はどこにいくのだろうか。


そしてその壊れた歯車は世間一般では、若者言語では異世界と呼ばれる場所へと転移させられていた。


場所は王城の中央、大広間にて。

地に描かれたそれはもう美しい魔法陣に数十人単位で待機し魔術を行使する魔術師たち。

誰も彼もが疲れ果てた様子で倦怠感を顔に醸し出していた。


だが誰の顔にも幸福の色が色濃く出ている。

魔法陣の中央、色を放ち終えた場所に黒髪の成人男性が座り込んでいた。

全身を社会人然としたスーツに包み、辺りには聖剣の数々。


魔術師が散会した。閑散とした広間に一人の国王が現れた。

未だ年若く三十代前後といった様子の国王。

頭上には王族であり国の指導者である王冠が。

中性的な顔、如何にも高貴といった雰囲気。

彼は青年に近づき、その高貴なるお口を開いたーー


「私は北部アリアンランド及びウエィズグレートブリカス帝国の国王、クイーンエリザベンである。異世界の勇者よ、よくここに来てくれた」


「コーヒー、コーヒー」


青年は怨念じみた顔で静かに二言吐き出した。

だが国王の耳にはまさかコーヒーと呟いてるのだろうという思考はなく、息を切らしてると判断。


「余程お疲れのようだ、休息をとったのちにーー」


「異世界に呼ばれらたのって、お前が原因か?」


死人のような双眼、それを見て恐怖感を覚えた騎士は恐怖よりも忠誠を優先し声を上げる。


「貴様!不敬であるぞ!」


「よい、貴殿の質問だが、我々が貴殿をこの世界の救済のために召喚しーー」


ほぉ、間違ってなかったようだと青年は眼光を光らせ。


「死に去らせやこのクソじじい!!」


全力の右ストレート、とても疲れ果てた社会人から放たれたとは思えない拳が国王の顔面にめり込み、その体を広間の壁へと吹き飛ばした。

恐るべき膂力、そう感心した騎士はすぐに状況を理解してーー


「国王陛下ぁぁぁぁぁ!?」


一国の国王が、名もなき勇者にぶん殴られた。

特に怒らせる言動をしたわけでもない、突然ブチギレた勇者が突然ぶん殴った。

何をいってるかわからないと思うが私にもわからないと、暇つぶしに見ていた神は思う。


「ふっ悪は滅ぼせ慈悲はない」


後に青年はついカッとなって殴ったと言う。

タダツネはすぐに状況を理解しポンっと手を叩く。


「あっこれってまずいパターン?」


「抜剣!!」


四方八方を取り囲む騎士達。

誰も彼もがかなりの重装備に身を包み、両手長剣を所持している。

流石は国王直属の近衛騎士団ということもあり装備は最高級品、武器は聖なる剣クラス。

怒りながらも陣形を意識しタダツネの周りを囲んだ。


「どういう了見で国王陛下を殴った!返答によっては死刑以上の刑が適用される事になる。大人しく投稿すれば命はとらん!」


騎士団長は声を荒げた。

彼は異世界からの勇者というのにそれはもう憧れていた。

昔自分の曽祖父が救われたこともあり異世界の勇者を神聖視しているほどだ。


そういうこともあり普通ならば斬り殺すところを投稿しろと声をかけた。

その上投稿すれば助けるとまで本心から言っている。


涙ぐわしいその騎士団長の勇気ある行動に心動かされたのかタダツネはスタスタと騎士団長の元へと歩いていく。

そのごく自然な動作に誰もが投稿するのだと考えた。


「どんな事情があったかは存ぜぬ。だが国王への暴行は極刑にもなり得るのだ」


「そうなんですか」


スタスタ。

タダツネは徐にポケットから安物のクソ辛い辛子キャロライナリーパーを取り出し瞬きをした騎士団長の鼻に突っ込んだ。


刹那、この世のものとは思えない悲鳴、地に転がりわけもわからず剣を振り回す騎士団長に巻き込まれ数人の騎士が弾き飛ばされる。

それを無視し、辺りに刺さっていた二振りの聖剣を引き抜いて国王の元へとタダツネは飛んだ。


今ならあの大空に翼をはためかせ翔んで行けそうだ、とタダツネは思う。


「動くな、動いたらこいつの命はないぞ」


国王の首を締め上げて騎士達にこれ見よがしに見せつけた。


「なっこの卑劣な男め......!」


騎士達は動けずにタダツネを睨む。

ゲスい笑みを浮かべながら内心めちゃくちゃ焦るタダツネは幻聴が聞こえ首をひねる。

眼前に忽然と大宇宙の背景とカップ一杯のコーヒーが出現した。


『コーヒーの恨みだからいいのよ』


コーヒーが入ったコーヒーカップのコーヒーがコーヒー的なコーヒー調とした言葉をコーヒかけてくる。


『君の名はーー』


『貴方に飲んでもらえなかったコーヒーよーー思い出してあの恨みを』


だんだんとイライラしてきたとタダツネは恨みを募らせる。

コーヒーたんの恨みを晴らさなければいけない、そう考え決意新たに手を握りしめた!


ーーポキッ。


ポッ◯ーってすごいよな、チョコにクッキーで二度美味しのだもの。


国王って凄いよな、首折れちまった......ったぁ!?


ーー国王のHPはゼロになった。

ーー国王を倒した。経験値を手に入れた。

ーー職業『反逆者』が選択可能になりました。

ーー淫魔の擬態が剥げ国王の正体がーー


「やべっ」


テヘペロッとタダツネは舌を出した。


「「国王陛下ぁぁぁぁ!!??」」


「あー、そのごめんなさい」


「「ごっごごご!?」」


もはや理解不能、世界を救うために召喚した勇者が三秒で反逆し国王の命を奪う。

騎士達の脳内は完全に混乱し悲壮感漂う空気が流れた。

RTAならば遅いと文句の一つでも出そうだがそれでも異常。


『今のうちに逃げるのよ』


『君の名はーー』


『もうその流れはいいから』


『あっはい』


『良い?後ろの壁を右手の聖剣で殴れば壊れるわ。そこに飛び込んで城下町に逃げるのよ』


『わかったよコーヒーの神様』


あぁ、コーヒーの神様は実在したのだと感銘を受けてタダツネは右手に側にあった黒い聖剣を握りしめ背後の壁を切り壊した。


「俺の冒険はここからだ!この大空にーー」


人間は翼なんてないんだった、そう重力先生こんにちわ。

重力に従い、城の頂上から自由落下を始めたのだった。






「奴を追うんだ!」


顔を真っ赤にして騎士団長は叫ぶ、突如として国王が殺され勇者が逃げた、うんもう既に頭痛が痛い、そう言ってしまうほどには頭痛がひどい。

兵士たちが廊下へとかけて行く中国王陛下へと近づき息を確認する。

呼吸もしていない、確実に死んでしまっている。

その事実に誠実で忠義深き騎士は嘆き、膝をついた。


そしてその背中に火炎弾がぶつかり地へと投げ飛ばされた。

もうなにが起きてるんだ今日は、そうだきっとこれは夢だと遠い空を見るが現実は非情。

背中を駆け巡る鈍い痛みに両眼を見開くと見慣れた老人の姿があった。


「大賢者様!?」


「まさかのぉ、こんなところにネズミがおるとわのぅ。『爆ぜろ』」


ピチューンんっと偉大なる国王陛下の体は焼け焦げてまたしても壁に叩きつけられた。

あー、爆発魔術ですかと騎士団長は判断して。


「大賢者様!?」


「よく見てみぃ、その男偽物じゃ」


老人は足早に遺体に近づきズボンを剥ぎ始めた。


始めた。


「大賢者様!?」


眼前で行われる奇行にSAN値はピンチすぎて騎士団長は気を失いそうだ。

ズボンを脱がされた国王陛下の股には立派な聖剣が一振り......それをみた賢者は鼻で笑って顔面をグリグリと踏みつけ始めた。


「その、なにをやってるのでしょうか?」(色々と悟った目)


もう突っ込まんぞと決意し騎士団長は空を仰ぐ、青い、以上。


「見てみろ」


「?こっこれは!?」


踏みつけられた国王の顔、そこには見知らぬ老人の顔があった。

薄皮が千切れたようでその下の老人の顔がくっきりと見える。

いつの間に気づいていたのだろうかと騎士団長は賢者を尊敬の目で見る。


「いったい、どう気づいたのでしょうか、大賢者様」


「簡単な話じゃ。この国に国王はいないからの」


「へ?」


「この国にいるのは男装趣味のホモの女王ただ一人じゃ!!」


シーン、うん。


うん。





うぅっん!?


「なにをおっしゃっているのかよくわかりません、もう一度おっしゃってください」


「いいか、この国の国王は居ない。なぜならばうちの女王が自分の下半身にエクスカリ◯ーを生やし自らの遺伝子から精子を作り出し自身を孕ませたからじゃ!」


「すみません、もう一度言ってください」


おそらく自分の耳がおかしいのだろう、回復魔術を受けなければと騎士団長は笑う。

だが賢者は至極真っ当な顔で続ける。


「おかしな点は二つ、女王は自分に孕ませても興奮しないとしてナニを娘に移植した。つまりいまの女王は男装していたとしてもナニが無いはずなのじゃ。だがこいつにはあった」


「その、ナニが有るとどう判断したので?というか娘に移植って......」(考えるのをやめた顔)


賢者は真顔で。


「そりゃあ、わしの探索魔術おち◯ちんがナニがあると囁いたのじゃ。それで勇者は?」


「えっ、あっ、はい。勇者は逃げました」


今何言ったこいつと賢者を前に騎士長は耳を疑う。


「ふむ、おそらく勇者はこの者が偽物だと気づいていたのだろう。だからこそ殺し逃げたのじゃろう」


「ならば勇者は我々を救おうとしたということですか!?」


「そうに違いないじゃろう」


貫禄のある顔で感慨深く賢者は頷く。

その見慣れた姿に安心感を覚え騎士は疑問を口にする。


「ではなぜ逃げたのですか?説明すれば......」


「お主らは主を殺され冷静な思考を失っていた。そんな状況じゃあ話など聞かんじゃろ?」


なにも言い返せなかった、国王が殺されたとして気が動転してろくな思考ができていなかった。

騎士団長は押し黙り賢者は杖を振り上げ転移魔術をーー


「そうだ、勇者は男じゃったのか?」


「えっえぇ、数多の死地を駆け抜けたような黒ずんだ両眼に疲れ果てた様子でした。体躯は細身で年齢は二十から少し下ぐらいでーー」


体躯は細身ーー年齢は二十かそこら、そして疲れ果てた様子。

大賢者の下腹部で聖剣が強く伸びた。


「捕獲じゃ!勇者を捕獲し是非わしの夜のお供にーー!!」


「そうですね」(神様に夢から目覚めさせてくれと祈る顔)


こうして国の危機を救い逃亡を始めた勇者を捕まえんと兵士達が送り出されたのであったーー

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

社畜コーヒー狂い、ホモ賢者と奴隷吸血鬼。そしてコーヒーの女神。 @Kitune13

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ