牛の章

プロローグ

 俺が同性のことを深く愛していると自覚したのは、まだ幼稚園の頃だった。それはあまりにも幼い想いだったけれど、男の子たちといると胸が高鳴るのを感じていた。 一方で、女の子には全く興味がなかった。その想いは成長と共に強くなっていった。特に幼馴染の甲には、とめどなく愛情があふれた。お遊戯会で甲の手を握って、顔が赤くなった。手を放すのが惜しかった。甲といつも一緒にいることが幸せだった。一緒に心身ともに成長できることが嬉しかった。例え甲が俺を友達以上には見てくれなくても、俺たちは特別な絆でつながっていた。誰にも言えない絆で互いを縛りあっている。皮肉にも、俺と甲から日常と平和を奪った鬼の存在によって。


 俺は間違っている? 


 性欲は人間の三大欲求の一つだ。これは間違いではない。では、同性をその対象として見ることは? 種の保存という観点からこれは間違っている。でも、甲が実の姉を愛したように、俺も甲のことを愛している。これは純粋な気持ちで、決して間違いなんかじゃない。


知ってる?


 俺と甲の故郷では死者と生者が結婚するんだ。それに、世界を見れば、男性婚や女性婚などいくらでもあると教えてくれたのは甲だよ。知的だけど不器用な甲のことを、俺は誰よりも強く愛している。


壊れてる?


 もしも俺と甲の関係が壊れていて狂っているとしても、俺は甲を放さない。甲から離れない。俺が甲を守り、傷つけ、奪うんだ。いつかきっと。だからそのためにはどんな手段だって使う。甲に手が届くまで、絶対。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る