6.ヒメゴト

 二人が出会ったのは、やはりネット上だった。二人はすぐに意気投合した。写メを交換し、美男美女のカップルが成立するまで、そんなに時間はかからなかった。あまりに整った顔をした屑を合成か何かだと真姫は疑ったほどだ。さらに二人はネット上である秘密を共有する。令にも話したネット上での金の荒稼ぎだった。真姫は万引きにも似たスリルを味わった。そして軽い気持ちだったスリルが、恐怖と不安に変わった。しかし屑は「これが式の力だよ」と笑った。


『大丈夫。もし仮に警察が動いても、絶対に足がつかない。まさか科学の極みであるコンピューターネットワーク内に、鬼が介入したなんて誰も信じないよ。どう? 真姫はこれで大金持ちだよ』

『そっか。そうだよねー。これが私にも出来るの?』


式を信じていなかった真姫は、富を得たことで式に対して信頼を置くことになる。


『簡単だよ。心の中で竜をイメージして、喰らえって命じればいい』

『喰らえ?』

『式を使うには、一度鬼を喰わせる必要があるんだ。真姫なら簡単だよ。足に変調が起る方向に向かって、命じればいい。たったそれだけで、真姫は大金持ちになれる』

『おに? 式とは違うもの?』

『このオンライン上でもいるよ。真姫の足が反応したら、命じればいい』


屑は説明を飛ばして式の使い方だけ教えた。真姫もやり方さえ教えて貰えば納得できた。新しい携帯電話を買って来た時、分厚い説明書などは読まない。そんなものは使っていくうちに慣れる物だ、と言うように。


『お勧めは、アダルトサイトとか自殺サイトみたいなやつ。そこには必ず鬼が数匹はいる』

『えー、辛気臭いところ?』

『ネット上に残される負の残滓だから、ちょうどいいよ』

『分かった。やってみる』 

『うん、真姫なら簡単に出来るよ。じゃあね』


真姫はしぶしぶ屑とのチャットを抜けて、自殺サイトの検索を始める。そのサイトは、これでいいのか? と思うくらい簡単に潜入することが出来た。黒い壁紙に、白や赤で書き込みがあった。見ているだけで気が滅入る。真姫は『今から首を吊ります。みなさんさようなら』という宣言を見つけて自分の爪を見た。足の爪が紫色に変わっていく。


(これだ! 私の式は竜、竜、竜……。喰らえ!)


白い蛇が足の上を伝い、パソコン画面に入り込んでいく。その蛇のようなものは、画面上で何かを食べた。おそらく、今の行為が鬼を喰らうという行為なのだろう。腹が膨れた蛇は、真姫の足の上でとぐろを巻いて眠った。冷血動物なのに冷たさはなく、向こう側が透けて見える。


「やった!」


屑に今のことを説明すると『おめでとう、今から君は僕たちの仲間だ』と返信があった。


『仲間? 私と屑くんだけじゃないの?』

『式が使えるのは僕らを含めて八人。でも、ネットで鬼を喰らえるのは真姫と僕くらいだよ。他のは弱いからね』

『式が強くないと出来ないんだ、これー』

『そうだよ。真姫と僕は特別なんだ。だから、真姫に頼みがある』


真姫は「特別」を屑と共有できることが嬉しかった。


『君のメル友の中に、ソウと名乗ってる男はいない?』

『確か……、いたけど?』

『そいつの式を喰ってくれ』

『ソウ君も式使いなの? 何でソウ君のこと知ってるの? ソウ君は仲間じゃないの?』

『ごめん、僕の式が真姫のメールをチェックしたんだ。ソウとは決別した。僕に害を成す存在なんだ。僕は顔がばれてるし、こんなこと、真姫にしか頼めない』


真姫はこの屑からのメールに感動した。すぐに『やってみる』と返信をだした。これが今日の背景だ。




「今日ね、超不細工にあったんだ。臭いし汚いし、性格ブスだし、あれだけひどい女の子っているもんだよねー」


巴のことだ、と屑は察する。令が対を引き合わせて協調の重要性を説くのはいつものやり口だった。きっと今回は失敗する、と屑は踏んでいた。


「それは災難だったね」

「そうなのぉ。最悪。しかも、ネット上の鬼の監視まで任されちゃうし」

「そんなの、やってるふりして逃げちゃえば? むしろ、嫌な思いした奴からなんて、手を引くべきじゃないかな」

「だよねー」


そう言って笑う真姫と屑だったが、真姫には令とも屑とも手を切るつもりはなかった。見栄えのする男友達とは手を切らないのが真姫の主義なのだ。

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