第2話 悪魔の子

私たちが一体何をしたのだというのだろう。

天使である彼女を気味悪く感じたことがよくなかったのだろうか。

あるいは、彼女の誕生を妬む心が傲慢であるということだろうか。

神はなぜこのような苦難をあたえるのだろうか。それとも、なのだろうか。

この世で最も祝福されて生まれてくるはずの愛しい我が子は。

文字通り。

妻の腹をように

生を受けた。

臨月の痛みを訴えだした妻は産婆の到着と共に破裂したのだ。内側から。

あまりの事態に私の頭はパンクしてしまう。呻き声すらあげることが出来なかった。

だが、凄惨な光景で我が子は禍々しい光を纏い、宙に浮いていた。まだ事態の整理がつかぬ頭であったが、自然と彼の元に歩を進めていた。

彼を抱き寄せ、腕の中に収める。

なんてことはない、どこにでもいる赤ん坊だった。妻の血を一心に浴びたその体にむち打ち、産声を上げている我が子を見ると情が湧いてくる。気が触れてしまったのだろうか。よく見ると側頭部に羊の角のようなものが付いている。

本当に悪魔に祝福されて生まれてきているとは。こんな状況で生まれた子でも、自らの血を分けたものはやはり可愛いらしい。この子を守ってやらねばならない。そう自然と考えられた。

しかし、悪魔の子を人々は許すことが出来ないだろう。真っ赤な血で染められたこの家を見てしまったら誰もが恐怖し、我が子を殺そうとするだろう。ましてや、この村では天使

が生まれたばかりだ。悪魔の誕生を隠蔽したがるだろう。村の会議もなくその場で殺されてしまう。

であれば、どうすれば良いか。答えは出ていた。私が狂人と化せば良いのだ。

妻を殺した狂人の振りをして、悪魔の誕生を私の罪で隠してしまえばいい。どうせ妻は肉塊になってしまったのだ、そこに胎児の確認は出来ないだろう。殺害方法を聞かれるだろうが、そこは黙りを決め込もう。

まずは目撃者である、産婆の口を封じてしまわねば。幸い、大急ぎで産婆を連れてきたので、彼女以外の村人は妻の出産を知らない。都合のいいことに産婆はショックのあまり気絶している。

申し訳ないとは思うが、我が子の為に死んでくれ。

私は近くにあった斧を手に取り、躊躇いもなく振り下ろした。まるで悪魔にでもなったかのようだと、考えていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

天使の口付け @masaimasa

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る