炬燵の中

あん

炬燵の中

 学生時代、運動部に所属していたところ、生来の体の硬さが祟ってか

常に体のどこかを悪くしていたのであるが、

その治療のために、週に一度山の方の農家へと行かされたことがある。


 そこには有名な按摩さんの弟子と言われる20代後半の女性が住んでおり、

急な坂道を登って農家を訪れ、お金を渡して治療を受けていたのである。


 薄暗い農家の茶の間には分厚い布団をかけた炬燵があり、

寒い時は他に暖房器具もないので炬燵に潜り込んで、治療の前後には

最近の学校の出来事について話したり、

お茶やお菓子をもらって食べたりしていた。


 治療になると炬燵のそばに寝転び、按摩さんが上に乗って

体を揉んでいくのであるが、そもそもその頃の私は

女も知らない子供であったせいもあり、

その癖成長過程で体力が有り余っていた事もあり、

女性に股がられて身体中を揉みしだかれるという事は

とても恥ずかしく、しかも身体の反応は生意気なほどで

股関節や臀部、脇腹や下腹部を両手で弄られるなどという事は

恥ずかしさのあまり、時折悲鳴を上げるほどであった。


 おかげでいつも下着は汚してしまうし、

こんな自分はなんと恥ずかしい人間なのだろうと

惨めな気持ちになる事もしばしばであった。



 その女性は今考えて見ても、美人とは言い難い容姿であった。

酷い近視なのか、分厚い眼鏡をかけており、

口元を見ると前歯が突き出ていて、あまりモテるタイプではなかっただろう。

子供に対してはあまり気兼ねなく話せたようだが、

成人男性に積極的な雰囲気はないように思えた。


 しかしながら、私は別に女性の顔を気にしなかったし、

むしろ普通の大人の女の人としてしか見ていなかった。


 私が子供だったからであろうが、性の対象や恋愛の対象として

女性を見るということがなかったせいか、

むしろ美人でない事で、私は女性に懐いていたと思う。

苦手というより、むしろ好意的に感じていたわけである。




 女性とは時折炬燵に一緒に入って、お煎餅など食べながら

足を絡めたり、お茶を飲んで雑談したりしたものである。

女性が履いていた分厚い毛糸の靴下の感触が心地よく、

冷えて冷たくなった足を温めてもらっていた。



 ある時、特に太ももの内側を揉んでもらっていた事があった。

例によって私の身体は困ったほどに反応していたのであるが、

尻を揉まれ、内腿を揉み込まれ、くすぐったさと心地良さの狭間で

布団に顔を押し付け、声を殺して忍んでいた私に


「次は仰向けになりな。前をするから」女性が話しかけた。

今の私はズボンの隙間からはちきれそうなほどの状態である。

上から女性の尻で押さえつけられ、強くゆすられていたせいで、

下着からはみ出しているのである。


「ほら、早く」女性が強い力で強引に私を仰向けにしようとしたので

慌てて「ダメ!今ダメ!」と私は抵抗した。


「何がダメなん?ほら早く。何もできないでしょ?」

「ちょっと待って、今はダメ。」

しばらく押し問答のように抵抗した結果、

仕様が無いと5分ほど待ってもらい、

炬燵に急いで入り、深々と潜り込んでお茶を飲んだ。



「もう・・・なんなん?どうしたん?」笑いながら問い詰める女性に

多分顔を真っ赤にして「いやいやあ・・・」と曖昧な返事を繰り返した。


 その後落ち着いた頃合いを見て仰向けでの施術を再開したものの、

やはり脇腹や下腹部、腰骨の内側などや鼠蹊部に指をねじ込まれると

情けない状態になり、恥ずかしさに顔を両腕で隠した状態で施術を受けた。



 いつも帰りは顔が火照った状態で呆然としながら夜道を下って帰ったのであるが、

これらの出来事は自分としては恥ずかしい記憶であり、

相談すればきっと自分が変態だからこんな事になるのだろうと

余計に他人には相談すらできずに20年以上が過ぎてしまった。



 ふとあの女性の事を思い出し、

母にあの按摩さんはどうしているかと尋ねた。

しかし母親には覚えがないという。



 あんなに何度も通った事を話したが、母親の天然惚けなのかなんなのか・・・

とうとうわからず仕舞いである。

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炬燵の中 あん @josuian

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