第3話 ここは天国ですね?
…伴星の部屋
…夜
「なあ元気出してくれ頼むから。」
「何もかもイヤなの。お前は異端児だって言われたんだ。もうどうでもいいの。」
「しかも挙句の果てに行き着いたのがこんなゴミ屋敷とかサンはもうゴミ同然ってことなの。涙も出ないの。」
「……」
「俺の所有物だって…サンにゴミ呼ばわりされて心の内では泣いてるよ?」
「うっさいの。ゴミはゴミなの。」
「……」
まあ確かに、ぱっと見じゃゴミ屋敷だろう。
にしてもいきなり家にいたし俺の方が被害者っぽいんだけど。口悪くないかこの子…。
…少し前に遡る
突如家に現れた手足がレッサーパンダの美少女を俺は踏んづけてしまった。安否確認のため力一杯起こすと彼女は寝息を立てていたのだった。あらすじ終わり。
そこからは結構大変だった。女の子を叩いて起こすわけにもいかないし、体に力が入ってないから手を離したらゴミの中にダイブだし。そもそもこの子は不法侵入者だ。起こした途端に鋭い爪で襲われても対処ができない。
かといってこのままレッサーにしか見えない手を握っているのも嫌だ。
俺が我慢の限界を迎えそうな時、彼女は目をぱちくりと見開いていた。
「ヒトですか?」
「ひっ、えっ、ヒト?人です!」
いきなり喋り出した彼女に驚き、思わず手を離してしまった。
彼女は膝立ちしたまま俺は後退る。
「ふ、不法侵入ですよね!お前、誰ですか、誰だよ!」
「ヒトさん?落ち着いて。聞きたいのは私の方レスよ。ここはどこです?」
れす…レス?なんだこいつ。なんで俺が宥められてるんだ。てか顔可愛いな…じゃなくて、歳はいくつくらいだ?かなり幼いな…じゃなくて!攻撃の意思は無いのか?無いよな?
「ここは俺の家だよ、君が来たくて侵入してきたんじゃないの?」
「ここは…あなたの家ですか。うん、静かレスね。」
一呼吸置いて彼女は呟きながら微笑んだ。
「まるでここは天国ですね?」
まるで自分が地獄から来たかのように。
俺からしたら見知らぬ薄着のコスプレ幼女なんていう爆弾を家に入れてる時点でそこそこの地獄だよ。もし誰かにバレたらどうするんだよ。
それでも俺はこの子よりも大人だから。深呼吸をする。
「…それで?名前とかないの?その手足は何?」
「名乗る時は自分から名乗るものだと教わりました。」
「わあすごい傲慢」
このクソガキ…でも俺は一人暮らしもしてて偉いんだ。コイツよりも偉いんだ…!
「…はあ、俺は円居伴星って言います。君の名前は?」
「マダイバンセン」
「マドイバンセイだ」
「サン」
「え?」
「サン。私の名前。」
「サンか…帰るとことかあるのか?」
「無いレスけど?」
「俺も養う気はありませんけど?」
「えっ…こんな美少女捨てるん…」
いきなりしおらしくされても困る。しかもなんかよくわかんない方言出てるし。
「悪いけど他のとこに行ってくれないか?俺一人暮らしだし、君みたいな幼女匿ってたら通報されて社会的に終わりかねない。」
「イヤ!!!」
「捨てんといて!頑張りますから!死ぬ!マジで死ぬので!」
「もしホントに捨てるならマダイに捨てられたって叫びながら町中走り回ってやる…」
嘘だろ?脅迫してきたよ?
とは言っても真面目に金銭面、部屋の面積、そもそも一人暮らし用に借りたから人が増えてたら怒られるかも…。
でも、自分より小さい女の子が目をウルウルさせてたら。
どんなに口が悪い素性の知れないクソガキでも可哀想…。
「…わかったよ。君の言うゴミを売っていけば食費とかは何とかなるだろ。」
「バンセン!!!!好きーー!!!!」
「そういうのやってくれるんだ。俺も好きーー!!!!でも長くて3か月が限界だからなーー!!!!」
「死ねーー!!!!」
2人でハグをして笑い合った。
この日のことを俺は忘れないだろう。
「あ、でももしお父さんにバレたら終わりレス…」
「あれれー?」
え、ご家族いらっしゃるの?マジモンのレッサーハンドとか生えてんのに?
「てかもう手遅れかもしれないレス…サンは捨てられたから…」
「お?お?」
「身内がこんなゴミ屋敷に捕まってるってバレたらゴミ屋敷ごと吹っ飛ばしにくるに決まってる…」
「ゴミじゃないけどな?」
「………」
「なんか言ってよ…」
こうしてサンは落ち込み、俺はこの急激な日常の変化に置いていかれるのだった。
…そして今に至る
「……ねえ、バンセン」
「……バンセイだ」
「…レッサーパンダは好きですか?」
4 レッサーパンダは好きですか?へ続く
レッサーパンダは好きですか? 三余三 @amari225
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