魔女、復活の兆しにて。【4人声劇台本】

レイフロ

魔女、復活の兆しにて。

【男2:女2 台本】

【ジャンル:シリアス、狂気】

【所要時間目安:40分程度】


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【人物紹介】


メアリ♀:森の中にある小さな診療所をやっている。非公認医師。実年齢不詳。見た目は20代半ば〜後半くらい。


アルフ♂:メアリの弟子兼助手。ケイトの幼なじみ。メアリを尊敬している。勉強熱心。25歳。


ケイト♀:アルフの幼なじみで、ノーランのフィアンセ。優しくて快活。以前メアリには心臓の手術をしてもらった。25歳。


ノーラン♂:ケイトのフィアンセ。自警団所属。真面目で誠実だが、思い込んでしまう面がある。29歳。

※兼役で「町の者」と「患者」もお願いします。


↓生声劇張り付け用

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魔女、復活の兆しにて。

作:レイフロ

メアリ♀:

アルフ♂:

ケイト♀:

ノーラン♂&町の者&患者:

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⚠今後のレイフロの台本の更新、新作の公開につきましては、下記HPで行いますので、ぜひご覧ください!

https://reifuro12daihon.amebaownd.com/




以下、台本です。―――――――――――――――――――



(SE:ドアを強く叩く音)


町の者

ここにいるのはわかってるんだぞ!出て来い、魔女めッ!!


アルフ

帰ってくれ!彼女は魔女じゃない!みんなどうかしてるぞ!


町の者

女の医者なんて信じられるか!今回の流行はややまいもきっとその女が…“魔女”が広めたんだッ!!


アルフ

言いがかりだ!頼むから帰ってくれ!


町の者

町で魔女と疑わしい女は大抵火あぶりにしてやったが、それでも流行り病は収まらない!もうあの女しかいない!メアリこそ本物の魔女だッ!!開けろ!!ここを開けろ!!

(SE:ドアを強く叩く音)




(間)



メアリ [タイトルコール]

 『魔女、復活のきざしにて。』




(間)




アルフ

ふぅ…。メアリ、埋葬は終わったよ。


メアリ

ご苦労様。また流行り病で一人死なせてしまったわね…。


アルフ

君のせいじゃないよ。それに彼は高齢だったし、むしろ長い期間苦しまなかっただけ良かったさ。


メアリ

そんなこと何の慰めにもならないわ。


アルフ

すまない。僕はただ、君に落ち込んで欲しくなくて…。


メアリ

そうね。大丈夫よアルフ。…早く治療法を見つけないと、事態は悪化する一方だわ。


アルフ

あぁ。そのことでいま町のほうが大変なことになっている。


メアリ

ついに始まってしまったの?魔女狩りが。


アルフ

あぁ。流行り病で連日死者が出ていて、感染経路も治療法もわからないとなればパニックにもなるさ。

…でもそれを “魔女の仕業” にするなんて馬鹿げている!


メアリ

病原菌という見えないモノを相手にするより、“魔女”という“悪者”を作ることで、それを排除すれば救いが訪れるという希望にすがりたいのよ。


アルフ

わけのわからない疑いをかけて人を火あぶりにするなんて…その結果病やまいがおさまらなかったらどうするつもりなんだ?!


メアリ

もちろん、病が終息するまで魔女という名の生贄いけにえを出し続けるのよ。


アルフ

そんな…!


メアリ

私もきっと疑われるでしょうね。患者さんももう何人も死んでしまっているし。


アルフ

君がおこなったのは立派な医療行為だ!病気の原因を突き止めようとしただけじゃないか!


メアリ

でも結果として救えなかった。手術とめい打っていても、何も知らない人からすれば、生きた人間の腹をただかき混ぜただけのように思われても仕方がないのよ。


アルフ

だって病気の根本をつき止めなければ治療薬を作ることも出来ないのに!


メアリ

人は自分の理解の出来ないものを怖がるものなの。そしてそれがエスカレートすると、“理解出来ないモノ”は異端いたんとして排除することが正しいことだと思うようになる。


アルフ

無知は罪だ!ただ弱いフリをして怯えて、理解出来ないことは神や悪魔や…魔女のせいにして正気を保とうとするなんてそれこそ狂気じゃないか。


メアリ

人間の心理とは、本当に興味深いわ。


アルフ

メアリ、そんなこと言っている場合じゃない!騒ぎが収まるまではどこかに隠れた方がいいんじゃないか?


メアリ

でも…。


(SE:ドアをノックする音)


アルフ

っ!?


ケイト

アルフ?私よ、ケイト!いるのなら開けて!


アルフ

よかった、僕の幼なじみだ…。


(SE:ドアが開く音)


ケイト

アルフ、メアリ先生、心配したわ!いま町では大変なことに!


メアリ

えぇ、聞いたわ。魔女狩りが行われているのでしょう?


ケイト

えぇ。町ではすでに何人も捕まってろうに入れられていんです。


メアリ

どういう人が捕まっているの?


ケイト

基準なんてないんです。強く抗議するだけで疑われて…!抵抗なんてした日には「さては魔女の手先だな」って言われる始末!もうめちゃくちゃだわ!


メアリ

思ったよりも酷いわね。


アルフ

ケイト、君のフィアンセは確か自警団じけいだんの人間だろ?彼はなんて言っているんだ?


ケイト

ノーランは魔女狩りには加わっていないわ。彼は、病で亡くなった人たちを焼く場所を毎日探しているの。とてもじゃないけど追いつかないみたいで、精神的に参ってきているわ。病気で苦しんで死んだ上に神聖な遺体まで燃やさなければならないなんて…まるで地獄のようだと言っていたわ。


メアリ

何にせよ、病気の特効薬を見つけることが先だわ。あと少しというところなんだけど。


ケイト

メアリ先生、薬を作れそうなの?


メアリ

まだ研究が必要だわ。


アルフ

ケイト、先生の優秀さはお前だって身を持って分かっているだろう?万が一にもメアリが捕まるわけにはいかない。フィアンセに頼んで、この森の中の捜索は後回しになるように出来ないだろうか?


ケイト

言ってみてもいいけれど、でもそれで一体何日稼げるやら…。


アルフ

頼む!病の特効薬が見つかれば魔女狩りなんてバカな騒ぎはなくなるだろ?!


ケイト

うーん…分かった。言うだけ言ってみるけど、期待しないでよね?


メアリ

ありがとうケイトさん。とても助かるわ。


ケイト

いえ!先生はとても優秀なお医者様ですもの!きっと薬を作れるって信じています!


アルフ

おいおい、僕と随分態度が違わないか?


ケイト

だって、先生はこんなに腕がいいのに、女だからって医師免許の試験すら受けさせてもらえないなんて世の中おかしいわ!だからこんな森の中でひっそりと診療所をやるしかないけれど、みんな黙認しているじゃない。先生が誰もが認める優秀なお医者様だからよ。


メアリ

ケイトさん、それは言いすぎだわ。私はただ生命について知りたいだけなの。だから何でも研究してしまうし、その過程で色々な薬を調合出来るようになっただけで…。正規の医者ではなく、野良のらの医者なのよ。


ケイト

でも私の胸の痛みは先生の手術で消えたわ。町のどの医者にかかっても病名すらわからなかったのに!


メアリ

私だって病名はわからなかったわ。ただ、どこが悪くて胸が痛むのかは分かったの。だからそれを取り除いただけよ。


ケイト

だからすごいんです!!


メアリ

フフ、ありがとう。


ケイト

じゃあ私、彼に頼んで森の中の魔女捜索は後回しにしてもらうように言ってきます!アルフ、貴方はメアリ先生の助手なんだからしっかりサポート頼むわよ!


アルフ

わかってるよ!お前も気をつけろよ?目立つ行動は絶対避けること!


メアリ

そうだわ、ケイトさん、これを頭に巻いていって?


ケイト

若草色わかくさいろのスカーフ…?


メアリ

この森にある植物で私が染めたのよ。この森から出てくるところを誰かに見られないようにした方がいいわ。


ケイト

先生が染めたスカーフなんて…!そんな大切なものをお借りするわけには。


メアリ

いいのよ。もし色がお嫌でなければ差し上げるわ。


アルフ

はは、よかったじゃないか。尊敬している先生からの贈り物なんて嬉しいだろう?


ケイト

ちょっとアルフ!それは秘密って言ったのに!


メアリ

あら、尊敬だなんて…。


ケイト

メアリ先生、ありがとうございます。私、大切にします。よいしょっと…(スカーフを頭に巻く) 

あの、似合いますか…?


メアリ

えぇ、とても似合っているわ。


ケイト

よかった!では先生、頑張って下さいね!失礼します!


(SE:ドアが閉まる音)


アルフ

あいつ、状況は逼迫ひっぱくしてるっていうのにウキウキして出て行ったな、全く…。


患者(地下からの声)

(苦しそうに)うぅー…やめろぉ…ここから出せぇぇ


メアリ

…また発作かしら?あの様子だと幻覚を見ているわね。そろそろ限界かもしれない。神経をやられてしまっているわ。


アルフ

そんな!途中経過は良かったのに…。


メアリ

時間もないことだし、手術の準備をしましょう。


アルフ

でも彼は手術に耐えられるだろうか?


メアリ

…他の患者さんのためにも、彼には “最期に” 協力して頂くわ。


アルフ

…っ…。


メアリ

未知の病気の治療法を発見するには、“1体”でも多くの症例を研究することが大切なのよ。


アルフ

わかっている。このままにしていても彼は幻覚と痛みに苦しむだけだからね…。


メアリ

さぁ、手術…いえ、 “解剖” の準備を。





【ケイト宅にて】



ケイト

ただいまー。あら?ノーラン来てるの?


ノーラン

おかえり。合鍵で入らせてもらっていたよ。どこへ行っていたんだい?


ケイト

幼なじみの様子がどうしても気になって、様子を見に行っていたの。


ノーラン:

気持ちは分かるが、今は無駄に外出しない方がいいとあれほど言っておいたじゃないか…。


ケイト

ごめんなさい、気をつけるわ。でもあなたがこんな昼間から家に来るなんて珍しいわね。仕事は?


ノーラン

ついに自警団事務所内でも流行り病にかかった者が出てね…。消毒のために一旦帰されてしまった。


ケイト

そうなの。あなたは大丈夫?


ノーラン

あぁ。俺は昔から身体が丈夫だからね。


ケイト

それでも、ずっと働きづめだし、このままじゃ流行り病にかからなくても倒れてしまいそう。


ノーラン

仕方ないんだ。病で亡くなった人を放っておけばそこからまた病が広がってしまう。遺体を焼きたくないと泣いて縋ってくる遺族を説得するのも心が痛むし、何よりも急ごしらえの焼き場がめいっぱいで追いつかないんだ。ほんとに参ったよ…。


ケイト

ノーラン!私、そのことでお願いがあるの!


ノーラン

ん?なんだい?


ケイト

あまり大きな声では言えないんだけれど、流行り病の薬を作れるかもしれない人がいるの。


ノーラン

なんだって?!


ケイト

これは絶対に他言無用よ?…森の中に看板もない診療所があるのは知っているわよね?


ノーラン

あぁ。民間治療のようなものだろう?薬草なんかを調合するような。女性がやっているって聞いた事がある。


ケイト

えぇ、そうよ。貧しい人もこころよく見てくれるし、先生はとても優しい方なの。…でもあの森に生えている薬草は特別なんだっておっしゃってたわ。


ノーラン

…まさかその診療所で特効薬を作っているとでも言うのか?!冗談だろ?


ケイト

まだ出来るかはわからないけれど、もう少し時間が要るの!だから森の中への立ち入りを一時的に禁止したりする事は出来ない?


ノーラン

彼女が魔女だと疑われないようにかい?


ケイト

私は今の世の中がオカシイと思うわ!女性だって頭の良い人は沢山いるのにどうして医師や先生になってはいけないの?“魔女”だってどうして女だと決め付けるのかしら?酷い差別だわ!


ノーラン

俺は君のそういう気の強いところが好きだけれどね、でもそれを町中で言えばすぐに牢に入れられてしまうから今は抑えてくれよ?


ケイト

わかっているわ。でも、メアリ先生が疑われるのは心外よ!


ノーラン

随分と肩を持つんだね?


ケイト

あなたと出会う前だったけれど、私は以前難しい病気にかかってしまって、どこの病院に言っても原因がわからないと言われたわ…でもメアリ先生だけは私を見捨てなかった!命を救われたのよ!


ノーラン

命を救われたなんて大げさだな。町の医師がさじを投げるような病気を彼女が治したとでもいうのかい?


ケイト

そうよ…!彼女は、時代が時代なら脚光を浴びるような名医になれていたでしょうね!


ノーラン

そんな設備も何も無いようなところで一体どれだけのことが出来るものなのかわからんが…。


ケイト

お願いっ!


ノーラン

ふむ…今はわらにでも縋りたい状況だ。他地域への感染拡大防止のためにも「森への侵入は禁止」という札くらいは出そう。


ケイト

ありがとうノーラン!助かるわ!


ノーラン

過去に君の病気を治してくれたというのなら、その女性の医者にも感謝しなければならないしね。お安い御用だよ。


ケイト

この病のせいで延びてしまった結婚式も早く上げたいわ。


ノーラン

そうだね。この件が片付いたら盛大にやろう!


ケイト

えぇ。


ノーラン

ほら、そんな不安そうな顔をしないで。おいで、ケイト。きっとこれからいい方向に向かっていくさ。


ケイト

えぇ。愛してるわ、ノーラン。


ノーラン

俺もだよ。





【診療所にて】



ケイト

こんにちは、アルフ。ケホッケホ。あれから1週間経ったけれど、薬は作れそう?


アルフ

あと一歩と言ったところなんだけどね。…どうした?顔色が良くないぞ?


ケイト

少し疲れているだけよ。森の中が立ち入り禁止になったからコソコソしなければならなくて、ここまで来るのに神経を使っ…ゲホッゲホ。


アルフ

…水を持ってくるよ。


ケイト

ありがとう。


メアリ

(小声)アルフ、ちょっと。


アルフ

メアリ、まさか彼女…。


メアリ

あの咳とうつろな目…病の初期症状よ。散々見てきたんだからもう分かっているでしょう?


アルフ

そんな…!


メアリ

しっかりしてアルフ。…彼女にこれを飲ませてきて。


アルフ

これは?


メアリ

睡眠薬入りの水よ。ここで治療しましょう。


アルフ

メアリ、頼む…彼女は…。


メアリ

分かっているわ。二人で彼女を助けましょう。さぁ、行って。



(間)



ケイト

どこまで水を取りに行っていたの?


アルフ

…ほら、飲んで。


ケイト

ありがとう。…ゴクン。


アルフ

町の様子はどうだい?


ケイト

この間、町の中心の大広場で魔女の火あぶりが行われたわ。私は怖くて見に行かなかったけれど…。


アルフ

そうか…。


ケイト

酷いのよ…?魔女狩りを始めた方も始めた方だけど、まるで見世物みせものみたいに見物人で広場は溢れ返ったそうよ。その中には女子供までいたとか…。

みんなどうかしてるわ!おかしいわよ…うぅ…ひっく…


アルフ

悪夢の原因となる者が消えれば病も消えると妄信してしまっているんだ…。誰も正常な判断が出来なくなってきている。


ケイト

私怖いわ。ノーランが…ひっく…火あぶりが終わった後の火がもったいないからと言って、「病で亡くなった人もついでに燃やそう」と言ったのよ?ゲホゲホ…あの優しかったノーランが…ゲホゲホ


アルフ

…まずは落ち着こう。ほら、深呼吸して?


ケイト

スーハー。なにかしら…なんだか眠たく…。


アルフ

何も心配しないで。少し眠るんだ。


ケイト

ん……すぅー…。(眠る)


メアリ

…眠った?地下の病室に運んで。


アルフ

あぁ…。




(間)




(SE:ドアを強く叩く音)

ノーラン

おい!いるんだろ?!ここを開けろ!


アルフ

一体なんですか、そんなに大声を出して。


ノーラン

お前か、ケイトの幼なじみというのは!ケイトがもう3日も帰って来ていない!ここにいるんじゃないのか?!


アルフ

あぁ。彼女のフィアンセですか。どうも。


ノーラン

ふざけてんのか?彼女はここにいるのかって聞いてるんだ!


アルフ

残念ながら彼女は流行り病に感染しました。今うちで治療を受けています。


ノーラン

なんだと?!


アルフ

フィアンセなのに彼女の体調の変化に気づかなかったのですか?


ノーラン

それはっ!この病のせいで仕事が忙しかったから…!


アルフ

あぁ…フィアンセよりも病で亡くなった方の遺体処理に気を取られていたんですね。


ノーラン

てめぇ!それ以上言ったら…っ


メアリ

アルフ、気が立っているからといって、言って良いことと悪いことがあるわ。


ノーラン

…あんたがここの責任者か。ケイトに会わせてくれ!


メアリ

えぇ、かまいません。ですが、病が移っては困りますので、彼女との会話はドア越しでお願いします。


ノーラン

なにっ?!


メアリ

ケイトさんは今起きていますので、お話は出来ます。それとも彼女の声を聞き分けられないとでも?


ノーラン

そんなわけないだろう!!彼女は俺のフィアンセだぞ!!


メアリ

でしたら何も問題ありませんね。どうぞこちらへ。


アルフ

念のため、この薬草が練りこまれたバンダナで口と鼻を覆って下さい。


ノーラン

うっ…キツイ臭いだな。


メアリ

我慢して下さい。感染を予防出来ます。



(SE:ドアをノックする音)


メアリ

ケイトさん、フィアンセがお見舞いに来てくれたわよ?


ケイト

(弱々しい声)え…?ノーラン、が…?


ノーラン

ケイト!心配したぞ!3日も帰ってこないから方々ほうぼう探したんだ!


ケイト

ごめんなさい…私、流行り病に罹ってしまったそうなの…。だから、もう私のことは忘れて…ゲホゲホ


ノーラン

何を言ってるんだ!!忘れるなんてそんなこと無理に決まっているだろう!!


ケイト

だって…あなたにだんだん弱っていくところなんて見られたくないの…!ひっく…お願い…。


ノーラン

まだ治らないと決まったわけじゃない!君が言ったんじゃないか、もうすぐ特効薬が出来るかもしれないと!


アルフ

…彼女は今精神的に弱気になっているんです。あまり強く…


ノーラン

テメーは黙ってろ!俺と彼女の問題だ!とにかく顔を見せてくれ!ちゃんと話をしよう!


ケイト

絶対に開けないで!!


ノーラン

ケイト…


ケイト

ごめんなさい…ゲホゲホ…でも今メアリ先生もアルフも私を治そうと頑張ってくれているから…。


ノーラン

そんな…俺は何も出来ないのか…?


ケイト

もし病が治ったときは必ずあなたの元へ戻るわ。だから今は放っておいて…。


ノーラン

ケイト…!


メアリ

ノーランさん。彼女はあなたのフィアンセである前にアルフの幼なじみでもあります。どうにかして救いたい気持ちは同じです。今全力で治療薬を研究していますから、信じて待っていて下さい。


アルフ

何かあればご連絡します。


ノーラン

“何か”ってなんだ!?もし彼女が死んだらただじゃおかないからな!!


アルフ

あなたも自分に出来ることをやって下さい。こうしている間にも病による死者は出ているのでは?せっせと焼いて感染拡大を防いでくれていれば彼女だって病に罹らなかったかもしれな…


ノーラン

てめぇ!!(殴りかかる)


アルフ

ぐはッ…!


ノーラン

はぁはぁ…ふざけやがって!あれがどれだけツライ仕事か知りもしないだろう!?


アルフ

ここに来る患者さんは身寄りもない方ばかりですが、ここで亡くなった患者さんは裏で焼却してから僕が埋葬しているんです!!どうしてあなただけが辛いと言えるんですか?!


ノーラン

医療にたずさわる者ならそれも仕事のうちだろう!俺は…ッ!


アルフ

そもそも魔女狩りなんかにうつつを抜かしているからいつまでたっても終息しないんですよ!


ノーラン

あんたら医者がちんたらしてるからここまで広まったとも言えるがな!!


メアリ

二人とも!!不幸自慢なら他所よそでやって下さい。静かに出来ないなら私が叩き出します。


ノーラン

始めたのはこの男の方だ!!


メアリ

そのことは謝ります。ですが、ケイトさんに今必要なのは安静にすることなんです。


ノーラン

くっ!…わかった。…ケイト、俺は忘れたりしないからな!絶対に諦めないで病を治してくれ!


ケイト

…わかったわ。ありがとう。


ノーラン

愛してる…!


ケイト

(泣く)ふっ…うぅっ…。私もよ、ノーラン…


メアリ

ここに長居は出来ません。さぁ、戻りましょう。


ノーラン

…くそぉっ…!!



(間)



ノーラン

この感染を予防するという薬草はもっと作る事は出来ないのか?


アルフ

それは大量の薬草を煮詰めて作ります。町の人に配るほどには作れません。


メアリ

それにニオイはどうすることも出来ない。あなたはそのバンダナを24時間鼻に当て続けることが出来ますか?


ノーラン

無理だな…。でも、そういえばあんた達は何も予防をしていないじゃないか!?


メアリ

…私は。…病が“効かない”体質なんです。


ノーラン

病が、“効かない”?


メアリ

そういう特殊な家系なんです。だから代々男子は医者となった。私は見ての通り女に生まれてしまったので、この通り森の中でひっそり医者の真似事をやるしかありませんけどね。


アルフ

僕も…


メアリ

(話を遮るように) アルフには、一定期間からだの抵抗力を最大限に高める特殊な薬を注射してあります。もちろんこれは、さっきの感染予防の薬草以上に材料が必要なため、大量生産は出来ませんし、あくまで一定期間しか効かないものです。


ノーラン

チッ…その男だけ特別ってわけか。


メアリ

男手が必要なのです。彼は優秀な助手。きっと治療薬の開発にも…


ノーラン

わかったよ。悔しいが、ケイトを助けるためにはあんたらに頼るしかない。また来させてもらう。ケイトのこと、よろしく頼む。


メアリ

わかりました。


(SE:扉の閉まる音)


アルフ

ふぅ…やっと帰ってくれた。それにしても、どうして彼に嘘をついたんだ?僕だって君と同じで、“病の効かない”体質なのに。


メアリ

そのことは秘密にしておきなさい。


アルフ

何故?


メアリ

きっと近いうちに分かるわ。


アルフ

…?まぁ、君がそう言うなら…


メアリ

私は今まで、うちの家系以外でこの体質を持つ人間を見たことがない。貴方は本当に貴重な存在なのよ。だから大事に大事に育てたかったけれど…こうなってしまった以上、時間はあまりないわ。


アルフ

君は一体何を考えているんだ…?


メアリ

もちろん、病の終息のことを第一に考えているわよ。ふふふ。


アルフ

…君は笑うのか?この状況で。


メアリ

さぁ、薬草を取ってきて頂戴。のんびりしている暇なんてないのよ。


アルフ

(何か言いたげにする) …っ…。


メアリ

さぁ、暗くなる前に行ってきて。


アルフ

…わかったよ。



(間)



メアリ

ケイトさん…貴女の病気の進行度が異常に早いのは何故だか分かる…?


ケイト

(朦朧とした感じで) はぁはぁ…わかり、ません…


メアリ

もしかしたら、私が以前貴女に施した胸の手術が関係しているのかもしれないわ。


ケイト

先生…メアリ、先生…


メアリ

こんなにうなされて…可哀相に…。これを注射すれば少しの間意識がはっきりするわ。


ケイト

(注射される) ンっ…。…メアリ先生、また、アノ素晴らしい手術をして下さい…。


メアリ

貴女の 『右側にある心臓』 はきっと手術には耐えられないわ。


ケイト

私、あの時の心臓手術が忘れられないんですっ…!


メアリ

あなたは本当に特別だわ。全身麻酔ではなく、首から下だけの麻酔手術を了承してくれたことにも驚いたけれど、そのおかげであの時のこともよく覚えているのね。


ケイト

えぇ…!よく覚えています。先生に「手術されている感覚を味わってみたくない?」と提案された時、病気や手術への不安が一気に消え失せたんです…!

手術中は動揺するといけないから目隠しはされていましたが、私、自分の胸を開かれてスーッと身体の内側に空気が当たるのを感じたんです…!


メアリ

あの時、貴女の心臓の周りの組織はすっかり駄目になっていた。悪い部分を取り除き、心臓の位置を安全な右側にズラすことに賛同してくれた時も本当に驚いたわ。


ケイト

怖かったけれど、先生なら出来ると思ったんです!…あんなことが出来る医者はメアリ先生しかいないわ!


メアリ

でもそのせいで貴女は、身体の中での病原菌の広がり方が他の人と違くなってしまったのかもしれない。


ケイト

それなら…!私から、病気の新しいデータが取れるかもしれません!


メアリ

貴女は本当に頭の良い子ね…。素晴らしいわ、ケイト。


ケイト

私はもう死ぬのでしょう?だったら、先生のお役に立って死にたいんです…!


メアリ

病が進行する原因が分かれば、それを止める方法も見えてくる。そしてそれは治療薬の完成に関わるわ。


ケイト

私が…皆を救えるのね…!


メアリ

貴女があの時の大手術に耐えて生き伸びたのは、きっとこのためだったのよ。救世主となるためだったんだわ…。


ケイト

ああ、先生…私、幸せです…。


メアリ

手術の準備をするわ。なるべく長く…生きている状態で貴女の“中身”を見たいの。だから今はゆっくり眠って体力を蓄えておいて?


ケイト

は、い…メアリ、先、生…。すー…(眠る)




アルフ

メアリ!大変だ!いま…!


メアリ

おかえりなさい。早かったわね…


(SE:ドアを強く叩く音)


町の者

ここにいるのはわかってるんだぞ!出て来い、魔女めッ!!


アルフ

帰ってくれ!彼女は魔女じゃない!みんなどうかしてるぞ!


町の者

女の医者なんて信じられるか!今回の流行はややまいもきっとその女が…“魔女”が広めたんだッ!!


アルフ

言いがかりだ!頼むから帰ってくれ!


町の者

町で魔女と疑わしい女は大抵火あぶりにしてやったが、それでも流行り病は収まらない!もうあの女しかいない!メアリこそ本物の魔女だッ!!開けろ!!ここを開けろ!!

(SE:ドアを強く叩く音)



メアリ

ついに来てしまったのね。


アルフ

外には10人以上居る!一体どうしたら…!


メアリ

私と逃げれば貴方まで何らかの処分を受けてしまう。…私は行くわ。


アルフ

行けば君は火あぶりになってしまう!!


メアリ

落ち着いてアルフ。あなたに頼みたいことがあるの。


アルフ

無理だよ!君が火あぶりになってしまったら、僕はどうしたらいいんだ…!


メアリ

貴方は唯一、私の医術を間近で見ていた。この森の特別な薬草や、薬となる生き物の扱い方も、教えられることは全部教えてあるわ。…私の手術を見てどう思った?


アルフ

それはもう君の手つきは素晴らしいよ。体組織たいそしきを傷つけず、まるで華麗なワルツを踊っているかのように臓器を次々と見極めて、悪い部分を的確に切り取る…!


メアリ

私がやっている“遊び”についてはどう思う?


アルフ

最初はよくわからなかった。手術をしたついでに、健康な部分も少しだけ切り取ってみたり、臓器の位置をズラしてみたり、大変な技術がいるし、リスクしかないことを何故するのかって…。

でも患者は何事もなかったかのように元気になって、君の遊びに気付きもしない!君はまるで生命せいめいを操っているみたいだ…!


メアリ

あなたは間違いなく私の後継者よ…!


アルフ

僕が、君の後継者…?


メアリ

ええ。でもそれには経験が足りない。私のようになるには、もっともっと練習しなければね?


アルフ

練習…?


メアリ

そうよ。身体の悪い部分を見極めるためには健康な状態をよく把握する必要がある。これがどういうことかわかるかしら?


アルフ

…健康な人の“中身”も、見てみないと…!


メアリ

えぇ。そして気になることを徹底的に試すの…。


アルフ

そうか…!実は君の手術を見ていて、僕も試したいことをメモに取っていたんだ…!


メアリ

ふふふ、知っているわ。大事なのはその好奇心よ。今までのデータも地下の隠し棚に沢山ある。貴方が引き継いで。


アルフ

メアリ…僕に出来るだろうか。


メアリ

ケイトの手術は貴方に任せるわ。彼女の胸を開いてみて?そこに病が終息するためのヒントがきっと隠れているはずよ。


アルフ

彼女を…解剖するのか…?


メアリ

彼女は手術を望んでいるの。

“魔女”の手術を、ね。


アルフ

…魔、女…?君はまさか本当に…


メアリ

今度はあなたがるのよ…?


アルフ

僕が…?何に…?


メアリ

フフ…解っているでしょう?


アルフ

僕が…次の “魔女” に…?!




(間)




アルフM

この後、メアリは町の者たちに捕まった。

フィアンセを殺されたと思い込んだノーランは、メアリを“魔女”と認定し、その後、大勢の観衆が見守る中、大広場で火あぶりの刑が執行された。



ノーラン

この女は森の中の診療所で、「治療をする」という名目で身寄りのない者に悪魔のような人体実験をしていた!助手をしていた男も怪しげな薬を使って洗脳したと自供した!!そして何より、流行り病を広めたのもこの女・メアリだったのだ!!

自分は病気にならない特殊体質だということをいい事に、町中に病原菌をばら撒き、人々を治療すると騙し、実際は人体実験に使っていた!!

俺のフィアンセもそうやって騙して、殺したんだっ!!…くっ…う、ううぅ…(泣く)

この女だ!この女が全ての悪夢の元凶だっ!正真正銘の魔女だ!!火あぶりにしろ!!殺せ!!骨まで焼き尽くせッ!!あははははは!!



アルフM

メアリは嘘をついた。僕は洗脳などされていないし、ましてや流行り病は自然発生的なものだ…。

メアリは、ケイトも殺したと自供したらしいが、それも嘘だ。

なぜならいま僕は、森の中の診療所の地下室にて、ケイトを目の前にしてメスを握っているからだ。



ケイト

メ、ァリ先、生…やっと、手術…を…


アルフ

可哀相に…幻覚が見えているんだね。


ケイト

わたし、しあわせで、す…


アルフ

ああ…君の胸に残る彼女の芸術を、また僕も見させてもらうよ…


ケイト

すばら、し、手術、を…


アルフ

あぁ、切り裂いてあげよう…。君が死ぬまで、いや、死んでも!ありとあらゆる実験で君を使わせてもらおう…。

そしてあの世でメアリと見守っててくれ。彼女が知りえなかった生命の不思議を、僕が引き継いでみせる…っ!




(間)




町の者

いや~魔女の件があってどうなるかと思ったけど、アルフ先生もあの魔女に操られてただけなんでしょう?正気に戻って何よりだ。

しかもあっという間に特効薬まで作っちまってすげーよなぁ…。そんな優秀な先生がこの診療所を引き継いでくれてほんと助かりましたよ。

俺みたいな貧乏人は町の病院には行けないからさぁ。ははは。


アルフ

お金なんて気持ちだけで結構ですよ。“私”はただ、知りたいだけなんです。


町の者

知りたいって何を?


アルフ

いえ、すみません、こちらの話ですよ。

…それにしても酷い腹痛が続いているのは困りましたね。飲み薬でも治まらなかったし。


ふむ…これは一度、


“開いて” 見なければいけませんね…フフフ。




end.

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魔女、復活の兆しにて。【4人声劇台本】 レイフロ @reifuro

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