うつろう


なんだろう、この圧倒感は!


導入部分において、どこか昭和的なものを感じるのは、主人公の「……なのだよ」という口調のせいでしょうか。


憂鬱そうな白皙の青年が、乱れた前髪をかきあげながら、めんどくさそうにこちらを見ている。

そんなイメージが浮かびます。


「屋根から連続して滴る露が絹糸のカーテンを作るのを見ながら」


作者はこんな美しい言葉で、雨が降るようすを描きます。


ところが突然、作者の物憂げな魔法は少女のご機嫌な奇声で破られます。


いえ、破られたのではありません。

次の幕が切って落とされたのです。


ひたすら、ひたすら、突拍子もないその女の子の言動は、どういうわけだか大正時代のポップカルチャー的な版画のようです。

そう、レトロで愛らしく、そしてザワザワとお洒落なのです。


話自体も面白いですし、言葉のセンスも素晴らしいんです。

でも、なんだろう、それ以上にこの空気感がね、すごい才能なのではないかと思います。


カラフルでポップな音楽のように。

作者は私たちを言葉のメリーゴーランドに乗せて、クルクル、クルクル、あちこちへ引き回します。


これが個性というものでしょうか。


「さぁ、もう、おしまい」


作者は、まだこのカラフルな世界を堪能しているわたしたちを、突然ポンと放り出します。


「え?待って?」


戸惑うわたしたちに、作者は知らん顔でサーカスのテントを畳んでしまうのです。


え?待って?

この「私」って??

え?女の子は?

え?どゆこと?


教えて!教えて!と作者の背中を追いかけていきたい。

なんだかそんな、不思議な個性の作品です。




著者 西山祐己


「うつろう」

https://kakuyomu.jp/works/16816927863360103651/episodes/16816927863360256781

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