第四百八話【虚空の『日本のポップカルチャーは世界中で大人気』】

「『虚空きょくう』とは何か? それは『架空のこと・むなしいこと』という意味だ」仏暁は言った。


(これって聴衆を試したよね、)とかたな(刀)は思う。


「——『日本のポップカルチャー』とは、『アニメ』『マンガ』『特定の音楽』『特定の映画』などである。これらを根拠に『日本は世界中で大人気』と言ってみてもそれは架空である。外国人どもから『国際レイプ民族』にされているのが我々日本人であり、これが現実なのである。それでもなお『日本のアニメは世界で人気なんだ! 日本は世界から好かれている!』と言う者がいるかもしれないが、それは『個人の成果』だ。個人の成果を国家の成果にするというのも実にむなしい事だ」


「——これを『国家の成果』ではなく『日本人の成果』と言い換えても同じである。なぜなら私も含め我々は日本人でも、その『日本のポップカルチャー』とやらに我々がどう関わっているかと言えば、単なる〝〟に過ぎない。我々はアニメの動画1枚でさえ描いてはいないではないか」


(そりゃ、まあ、ね、)とかたな(刀)。


「——これが90年代以前の昔なら『多くの日本人が慣れ親しんでいたあのアニメが外国でも放送され人気を得ていた』と〝日本人として少々誇らしい気分〟になるというのも分からないではない。これはもう、一種の『日本代表』だ」


「——だが今や光回線を使っての『ほぼ世界同時配信』の時代ではないか。ここに『日本の国民的アニメが外国人にも受け入れられた』という感慨など生じる余地は無い。単なる消費者としての立場では日本人も外国人も違いは無く、世界中で流行った日本アニメがあったとしても流行ったのが世界中ほぼ同時では、そこに『日本代表性』などは見いだせず、当該アニメ作品がどれほどの成功を得ようとそれは制作に携わった個人個人の成果に過ぎないのだ。そうした個人がたまたま日本人だからって国家や国民の誇りになってしまうのはおかしな事じゃないのかね」


(『右』の人ってなんでもかんでも〝日本の誇り〟にしてしまうイメージあったけど、)とかたな(刀)。


「——しかしこんな事を言っていると〝こういう反論〟が来るかもしれない」


(またこういうパターンになるわけね、)


「『公共放送のテレビ番組、『プロジェクトX』だって、あれも〝個人の成果〟じゃないか! ああいうのを〝日本の誇り〟にしちゃ悪いのか!』といった感じでだ」


「——正直『新・プロジェクトX』の方はどうなのかは判然としない。しかし、『旧・プロジェクトX』の方には〝〟があった。それは戦後の『高度経済成長』という物語だ」


 仏暁、腕を組み天井を見上げる。

「——『エリート』、ということばがある。人間の好悪の感情を揺さぶることばである。私は『極右』を自称しているため〝悪い方の感情〟を語るが、『エリート』はどの国にもいる。どんな国にもいる」


「——官僚のいない国があるか? 医者のいない国があるか? 弁護士のいない国があるか? といった調子だ。世界中のどの国だろうと官庁は存在し病院は存在し裁判所は存在するのである。しかし、少数の頭のいい人間だけがいても経済大国は生まれない。これが現実というものだ。或る国が『経済大国』になれるのかどうかは全ての国民の、その持てる力を合わせた総合力にかかっている。それぞれの国民がそれぞれの持ち場で最大限の努力をした結果、日本という経済大国ができた。『旧・プロジェクトX』からはそうした〝物語性〟を感じ取れるため、それが大衆の共感を呼び〝日本の誇り〟を呼び起こす伝説のテレビ番組となった」


「——比べて現代の『日本のポップカルチャー』の方に〝この社会を造ったのは我々だ〟といった〝同様の物語性〟があるのか? そんなものを求める方が無理筋というものである。『日本のポップカルチャー』の場合、物語性は内側にあるだけだ。つまり『アニメ』や『マンガ』とは物語そのものだという事だ。そしてそれは徹頭徹尾個人技の結果であり個人の成果なのである」

 

「——ただそれすらも近未来に消えてしまう可能性が、少なからず、ある。『日本のポップカルチャーは世界中で大人気』というのは今現在はそうでも、じきにつまらないものになり廃れていくと、そう私は考えている。特に『アニメ』や『マンガ』は、」


「——『』だと思うかね?」

 挑発的とも言える笑みを顔に浮かべる仏暁。


「——別に『日本のクリエーターが無能になるから』だとか、『中国や韓国に追い抜かれる』だとか、そんな理由ではない。日本人はガイアツに弱い。日本人は外国人に弱い。だからだ」


「——『世界中で大人気』というのは、キツイことばで表現すると『世界中で悪目立ちしている』と言える。『クレーマー』という語彙が社会にすっかり根付いている事からも分かる通り、外国人の抗議屋に『日本のポップカルチャー』が目をつけられるであろう事は想像に難くない。いや、既に目をつけられている事だろう。特に『アニメ』や『マンガ』は解り易いが故に攻撃の的となりやすいと、そう私は言っている。その際、クリエーターを除いた『日本側制作サイド』が外国人の抗議屋に対し敢然と闘えるかというと、とてもそんな気はしないだろう? 逆にクリエーターの方に圧力をかけ曲げさせるのが関の山ではないかね?」と仏暁、脱力したような〝やれやれポーズ〟をとる。


(『極右』がそういう態度しますか)と内心で突っ込んでいるかたな(刀)。


「——きっと外国人の抗議屋に抗議されないように作品を造ろうとするのが『日本側制作サイド』だ。それどころか『世界に売る』事を意識するあまり、外国の価値観に媚びたような作品さえできてしまうかもしれない。その結果、抗議される隙の無い〝無難なもの〟ばかりが産み出されていく事になる。作品が自ら自由を制限し失ってしまったら、もはやかつての輝きは失われ衰退スパイラルで堕ちていく」


 と、ここで一拍の間をとった仏暁。



「——またもアドリブで演説などやるものではない、という弊害が出てしまったようだ。日本と韓国の間に立つ『中立野郎』である『長期政権与党』については間違いなく〝韓国絡み〟であるのだが、その後の『日本のポップカルチャー』云々は完全に話が脱線してしまった。だが次が正真正銘最後の韓国絡みのテーマと言える」


「——時は流れ『左翼・左派・リベラル勢力』も、日本人を攻撃して韓国に対し謝らせる事で『日韓友好』が成る、という時代が終わった事は、いかに連中の頭であっても理解はしている。そこで昨今、『左翼・左派・リベラル勢力』は『日韓友好を煽る』という戦術に切り替えたようだ」


(『友好を煽る』? なにその変な言い方は、)とかたな(刀)は思う。


「——『日本のポップカルチャー』の話をしたばかりだが、ここで『左翼・左派・リベラル勢力』が道具として使うのは『K—POPカルチャー』だ。これを『左翼・左派・リベラル勢力』のお家芸とも言える『媚若者』と組み合わせる」


(〝びわか・もの〟ってのはなに?)とかたな(刀)。場内の雰囲気もかたな(刀)の疑問と同様のようであった。

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