第四百五話【『日韓慰安婦合意』がいわゆる『徴用工問題』を招き寄せた疑惑】
「奈良で暗殺された〝憲政史上日本歴代最長政権〟を築いた元首相ほど不思議な男はいない」仏暁が〝次の弾〟について語り出した。
(しかし、暗殺された元首相の話をするのに『次の弾』っていう表現するかな)と思うかたな(刀)。
「——いや、本人がどうとか言う以前に〝周囲の評価〟がおかしいのだ。その行った政策、造った法律の割に『右派』と見られ、『愛国者』と見なされている」
「——そればかりではない。長期政権与党の派閥絡みの『政治資金裏金化問題』では、『2022年にこの元首相が「やめよう」と言ったのに、奈良で暗殺されてしまった後、そうした方針が無いことになってしまった』、という報道が相次いだ。まるで〝聖人政治家〟扱いである」
「——しかし言ったのが『2022年』ではそれは現役の首相を退いた後の話ではないか。現役の首相の時に『やめよう』と言ったのならともかく、首相を辞めてから言い出すのはそれほど誉められる事か? 『裏金』が立候補者個々人の選挙運動へ回されていたのなら、現役の首相の時に『やめよう』などとは口が裂けても言えまい。無責任な立場になった途端に〝キレイ事〟というのは、さて、これは誉めたものだろうか? そう言えば首相を辞めた後になって『原発廃止』を唱えた元首相もいたが、アレらと似たようなものである」
「——さて、この『歴代最長政権を築いた首相』は〝外交の名手〟という事になっている。だが本当にそうだったろうか? 彼が実際にやらかした〝外交〟の中に疑わしいものがある。敢えて〝もちろん〟と言うが、それは韓国絡みの外交政策だ」
(あ、話しが『韓国』へ戻った、)とかたな(刀)。
「——それは2015年に韓国政府との間に結ばれた『日韓慰安婦合意』という名で知られる外交政策である。『歴代最長政権を築いた首相』が行ったこの政策は果たして『愛国者』と呼ぶに相応しい政策だったろうか? 私はそう問題提起する」
「——と言うのも『日韓慰安婦合意』は思想の左右を問わず評価している人間達ばかりなのだ。『私が問題提起せずに誰がするのか⁉』といった有り様だ。『左翼・左派・リベラル勢力』が評価側に回るのはあまりに簡単に予想がついた。なにせ日本が国庫から公金10億円払う事を約した合意なのだからな。問題は『右派・保守派』の連中だ。連中は基本〝韓国嫌い〟の筈であるが、こんな合意を支持しているようではまるで〝韓国のド素人〟ではないか! 相手が日本だとそんな合意を含めて破るのが韓国だというのに!」
「——案の定『日韓慰安婦合意』に基づいて造られた『慰安婦財団』は韓国政府によって〝解散〟と相成った。2019年6月の事であった。韓国政府は2018年11月には『慰安婦財団』の解散方針を明らかにしており、その間日本側は翻意するよう外交的働きかけを行った事だろうが効果は無かったのである。日本が国庫から捻出した公金10億円は韓国政府に騙し取られた形になった」
「——しかしどういうわけかこの『日韓慰安婦合意』という外交政策を『右派・保守派』の立場の者達が未だ高く評価しているようだ。その傍証が、韓国が今度は『徴用工問題』を持ち出してきた事であるらしい。つまりは『慰安婦問題が手詰まりになったから』なのだと、」
「——ところで、『慰安婦問題』に取り組んだのはなにも『歴代最長政権を築いた首相』だけではない、」と仏暁、突然に話を切り替えた。
「——『慰安婦問題』に取り組んだいま一人の首相がいた。その人物は『右派・保守派』から『売国奴』と、今なお見なされている。『社会主義の看板を掲げている政党』のトップでありながら日本国の内閣総理大臣に就く事ができた人物だ」
「——なぜにこんな不可思議な事が起こったかと言えば、それは1993年の衆院選で長期政権与党が過半数割れを起こし野党に転落したところから始まる」
「——ところがそうしてできた新たな政府には弱点があった。8党もの小党が連立政権を組んだ政府であったため、政党間でいざこざが起こるとあっという間に崩壊する。そして事実そうなった。『社会主義の看板を掲げている政党』が連立政権から離脱する」
「——ところがこれを奇貨としたのが『長期政権与党』で、『選挙でダメなら政略で与党になればいい』という手段を選ばぬやり方で、『社会主義の看板を掲げている政党』を抱き込んだ。「お宅の党のトップを首班指名しましょう」と。『社会主義の看板を掲げている政党』は長年野党第一党だったのだが1993年の衆院選ではその野党時代の議席数に遠く及ばない散々たる結果となっていた。こうして選挙で支持されたとは言い難い落ち目の政党どうしが手を組む事によって新たな政府ができてしまうという奇妙な事態が起こる」
「——この時『社会主義の看板を掲げているだけの政党』は文字通り〝看板を掲げているだけ〟となり、事実上この政党の命脈は尽きた。しかしそれと引き替えに同党から内閣総理大臣を輩出する事ができたのである。これが1994年の事だ」
「——そしてすぐ翌年の1995年はちょうど〝戦後五十年〟。戦後民主主義的価値観が頂点に達した90年代の空気を色濃く反映した『戦後五十年談話』がこの『看板だけ社会主義な首相』によって発表される。むろん『戦後民主主義的価値観』とはお優しい言い方で、この価値観の中にかなりの割合で『日本悪玉史観』が含まれているのは言うまでもない。それは〝談話〟の中に出てくるキーワードだけでお察しだ。『植民地支配と侵略』『アジア諸国』『多大の損害と苦痛』『痛切な反省』『心からのお詫び』といういかにもな表現群がそれだ。あるいは彼はこう考えているのかもしれない。『いずれにせよ社会主義が支持されなくなるのなら残り少ない党の命脈を〝戦後五十年談話〟と引き替えにできたのは悪くはない』と」
「——こうなると『長期政権与党』と『社会主義の看板を掲げているだけの政党』は、果たしてどちらが〝したたか〟だったか分からなくなってくる」
「——それ故か、今なお『右派・保守派』からこの『看板だけ社会主義な首相』は『売国奴』と見なされている。ちなみにむろん私もこの中に入っていると明言しておこう」
「——ところがだ、こと『慰安婦問題』に関する〝韓国対応〟については、この『看板だけ社会主義な首相』の行為について、一概に『売国奴』とも言えなくなってくる。なぜなら比較対象が『歴代最長政権を築いた首相』だからである」
(え? えっ? ちょっと待って。『極右』、だったんだよね?)と混乱してくるかたな(刀)。
少なくとも『右』的立ち位置からの比較の問題なら、通常は逆になりそうなものである。何しろ『憲法9条』についてのスタンスが『看板だけ社会主義な首相』と『歴代最長政権の首相』は正反対なのである。むろん前者は護憲を、後者は改憲を唱えていたのだから。
「——『看板だけ社会主義な首相』は1995年、与党三党の合意に基づいて俗に『アジア女性基金』、正式名『女性のためのアジア平和国民基金』という民間の基金の設立を決定した。これはいわゆる『慰安婦問題』について、韓国側の金銭的要求に対し、事態の収拾を図るための施策であった。そしてこれはその時は成功した」
「——むろんそこは韓国人。日韓友好など一時的なものに過ぎなかった。『アジア女性基金』が民間である事にイチャモンをつけ始め『これは日本の国家賠償ではない』と騒ぎ出した。しかしここで肝心な事は韓国人どものイチャモンではない。なぜ『看板だけ社会主義な首相』は〝民間の基金〟という形にしたのか? ここである」
「——それは『1965年に大韓民国との間で結ばれた〝日韓請求権協定〟によって、両国間の一切の請求権は解決済み』、としたからだ。これは国際条約である。ここで無知無学無教養にして韓国側代理人でしかない『左翼・左派・リベラル勢力』の言いそうなことをあらかじめ言っておいてやると、『これで全て解決済みにするなどそんなものは〝冷戦時代の産物〟で、韓国に泣き寝入りさせた』だな。だが泣き寝入りさせられたのはむしろ日本の方である。朝鮮半島に残してきた種々のインフラについて韓国から対価を受け取る権利を放棄させられ、しかも逆に韓国にカネをふんだくられたのだからな! 1965年当時の日本の国力・外貨準備高からしたらそれは法外な額であった」
「——とまれ、『看板だけ社会主義な首相』は『1965年の日韓請求権協定』という韓国政府と結んだ条約の線を超えて韓国人にカネを渡すという愚行はやらかさなかった。ところが『歴代最長政権の首相』はこの一線を超えてしまった。『日韓慰安婦合意』では国庫から10億円、即ち税金、即ち日本の公金を韓国に渡してしまったのである。『1965年の日韓請求権協定』を骨抜きにしたのはなんと『歴代最長政権の首相』の方だったのだ」
「——これが現実である以上、『看板だけ社会主義な首相』よりも『歴代最長政権の首相』の方が日本国を大韓民国に売り渡した『売国奴』というものではないかね?」
「——また同じく『売国奴』絡みではこんな話もある。『右派・保守派』が既に破られたと言って過言ない『日韓慰安婦合意』を未だ支持する根拠は、『アメリカが仲介に入った合意だから、もはや韓国は慰安婦問題を国際的に持ち出せなくなった』、であるという。確かにアメリカ合衆国政府は『日韓慰安婦合意』に歓迎の声明を出していた。それは間違いない。しかし『日韓慰安婦合意』の仲介者がアメリカならば日本から10億円の公金を支出させたのはアメリカ合衆国政府という事になる。正に私が定義した『中立野郎』そのまんまではないか。日本が1965年になけなしの外貨を韓国に拠出した条約を骨抜きにするヤツらが仲裁者であるわけがない」
「——『日米韓の連携』というなんらの成果も上げていない、成果主義的価値観では否定し去るべき下らない『21世紀の三国同盟』のために、『1965年の日韓請求権協定』を骨抜きにし、日本という国家と日本国民をアメリカに売った『売国奴』こそが『長期政権与党の歴代最長政権の首相』だった! 『右派・保守派』の好んで用いる言説を使ってさえこうした結論になるのである」
「——さて、懸命なる諸君らは『日韓慰安婦合意』のどこが問題だったかもうとっくにお解りだろう。『1965年の日韓請求権協定』を骨抜きにしてしまった結果『この調子なら〝徴用工〟でもう一度日本から公金を引き出せるんじゃねえか?』と韓国人に思わせてしまった! こう考えなければ突如として『徴用工』なる問題が発生した理由の説明がつかない! 『日韓慰安婦合意』という下らない合意のために『徴用工問題』なるとっくの昔に解決していた筈の古くて新たな問題を生み出してしまったのだ。それくらい日本の公金から韓国にカネを渡してしまったという行為は売国なのである!」
「——『長期政権与党』を支持している奴らはよくよく考えた方がいい。どの政党が『売国奴』の政党であるかを。もう一つ付け加えておくなら『尖閣国有化』を断行した政府は『長期政権与党の政府』ではなかったぞ。あの時アメリカ合衆国は『中国を刺激するな』と尖閣国有化を断念するよう日本にガイアツをかけてきたという話もある。ただ日本政府が『長期政権与党の政府』ではなかったためにそのガイアツには効果が無かったようだが」
ここで仏曉、一拍の間をとる。
「——ここまで私は、『歴代最長政権の首相』が結んだ『日韓慰安婦合意』を売国政策であったとこき下ろしてきたわけだが、先に言った通り、この奈良で暗殺されてしまった人物に全ての責任を押しつけるつもりは毛頭無い。『長期政権与党』という集団が我々日本国民を裏切った決定的事件が他にあるのだ」
仏暁は怒りに無理矢理蓋をしたような顔をしている。
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