第四百三話【政権交代のまた交代】

「あらかじめ原稿を用意せずアドリブで演説などやっていると、得てして話しというのはあらぬ方向へと逸れていくものだ。そして今がその状態になりつつある」と自虐的に表現してみせた仏暁。


(しかしアドリブでここまで喋れるのは〝才能〟だなぁ)とかたな(刀)。


「——話しが逸れていくとどういう事になるか? それは『敵に隙を見せる』事となる」


「——事実、私には〝隙を見せた〟という自覚がある。2009年、長期政権与党が衆院選で敗北し与党でなくなった事について私は『大衆からの報復だ』と言ってのけたわけだが、諸君らも周知の通り、2012年にはもう〝〟が起こっている。長期政権与党サポーターズクラブからは『これもまた報復か?』などと〝意趣返し〟を受けそうだ。よってこれに関する見解について少しばかり触れておく必要がある」


「——答えから先に言うと『投票率』だ」


「——長期政権与党が政権の座から滑り落ちた2009年(平成21年)の衆院選の投票率は69.28%。逆に長期政権与党が政権の座に返り咲くことになる2012年(平成24年)の衆院選の投票率は59.32%。およそ10%も投票率が下落している。この〝逆政権交代〟は熱狂無き政権交代と言える」(https://www.soumu.go.jp/main_content/000255919.pdf参照)


「——この2012年の衆院選での〝逆政権交代〟後の首相が、あの〝憲政史上日本歴代最長政権〟を築く事になる。つまりそれはこの後の衆院選でも勝ち続けた事を意味するが、その投票率ときたら『59.32%』にすら届いていないこれ以下の数字ばかりなのだ」


「——こうした言い様に『ケチをつけられた』と腹を立てる者は確実に出ようが、そういう者は〝10%の実数がいくつになるか〟を考えていない」


「——選挙というのは1人1票だ。富裕層だろうと貧困層だろうと、ここだけは平等だ。そういう意味で、さて諸君、全ての有権者が選挙に行ったと仮定した場合、その総票数はどれくらいになると思うかね? それは1億とんで数百万票である」


「——悲しいかな、この数もこの先減り続ける一方だろうが、2009年も2012年も1億票を超えていたのは間違いない」


「——ここは解りやすいように『1億票』として考えよう。『1億票』の10%はいったい何票か? ごく簡単な算数だ。『1千万票』だ」


「——計算は簡単なものだ。しかし実数としてはとてつもない数である。2012年の衆院選は2009年の衆院選に比べ『1千万票』も少ない総票数で勝敗が決したのだ。その1千万人もの人々は〝どの政党にも投票したくなかった〟のだ」


「——こういう事を言っていると『選挙に行かないという行為を正当化するな!』といった言い草をされる事だろう。このように『正論』を喋り『正義』の立場に立ちたがる者は決して少なくない。だがこれは一見正しそうに見えて間違っている。投票所に足を運ばない者を悪し様に罵るためには〝或る条件〟が絶対的に必要不可欠だ。それは、〝〟という条件だ」


「——この日本という国の選挙は、あらゆる選択肢が


「——具体的な話しをすると『左』側の思想の人間にとって投票先の政党は濃淡いろいろありお好みで選べる。だが『右』側の思想の人間にとっては『長期政権与党』一択なのだ。しかしこの『長期政権与党』という政党の思想的実態は〝ごった煮〟に過ぎず、この政党の中は『左』から『右』までなんでもありのデタラメ極まりない思想デパート状態なのだ。その証拠に『右』とは極めて相性の悪い『LGBT』やら『多文化共生』やらを政策として推進したりする。しかもこの『長期政権与党』の中の『右』ときたら『日本人は韓国人に永久に尽くさねばならない』という教義を持つ『韓国発祥のカルト宗教』と癒着できるのだから、この日本政界に本当の意味での『右』の価値観を持つ者はいない、とさえ断言できる」


「——したがって〝あらゆる選択肢が揃っている〟と言えないのであるから選挙に行かない者達を悪し様に罵ってみてもそれは『正論』とは言えないのである」


「——だがこのような主張しているとおそらくこういう事を言って来る者が出るだろう。即ち『有権者の投票動機は〝右〟や〝左〟といった〝思想〟などではなく、専ら〝経済〟だ』と、」


「——残念ながらそれは世論調査の設問を〝そう造ってある〟からそういう〝答え〟になるだけで、『経済』が主たる投票動機となるなどと信じ込むのはもはや昭和の価値観だと答えておこう。それはこういう事だ。デタラメ極まりない思想デパート状態の政党が長期政権を築けてきたのは『一億総中流化政策』という経済政策のたまものである。正に〝これぞ昭和〟な政策だ。みんなで豊かになれるのなら『思想』など脇に置いておける。三島由紀夫が何を叫ぼうと、左翼が一生懸命に運動しようと、これでは社会に変革など起こらなかったわけだ」


「——ところが『長期政権与党』は自らが押し進めてきた、いわば長期政権の土台とした『一億総中流化政策』という価値観を外国の要求、即ちアメリカの要求に従い『改革』などと尤もらしく銘打って壊してしまったのだ。つまり『』の推進。しかも『お前が貧しくなったのはお前の自己責任だ』という価値観に社会的お墨付きを与えたのだ。そしてそうした政策の結果いわゆる勝ち組、富裕層が生まれる事になる。これが『格差社会』である」


「——かかる社会状況下で『経済が大事だ!』と言って押し進める経済政策が、富裕層に都合のいい政策では『経済』が投票動機になり得ないのは必然である。現に『長期政権与党』の政治家どもはこんな経済政策を推進している。『』とな。この価値観が社会的に受容されるというその意味は、富裕層に都合の良すぎる社会ができあがるという意味に他ならない。投資というものは投資の原資が大きければ大きいほど利益が出る。大衆が投資などして仮に利益を得ても富裕層が手にする利益には遥か遠く及ばないのだ。昔々の定期預金の利息程度かもしれない」


「——しかしながら定期預金に元本割れは無いぞ。どうせ散々投資を煽った政治家どもはいつか必ずこう言うに違いないのだ。『投資をした者の自己責任だ』と。こうした場合でも富裕層と大衆は明暗が分かれる。富裕層が投資に失敗してもせいぜい『腹立たしい・忌々しい・悔しい』という感情を抱く程度で済むが、大衆が投資に失敗した場合、家を失うか、首を吊る羽目になるか、その両方か、といったオチになるのだ」


「——投資という行動にはそもそも原則がある。『』だ。つまりその投資金が仮に全額無くなったとしても家を失うだとか首を吊るだとかしなくて済む程度にしておけと、これが投資の絶対原則なのである。だがこの原則を『長期政権与党』の政治家が喋っているところを見た者がいるかね? この絶対原則を踏み外す奴は投資と言うよりは博打をしていると表現するのが適切だ。しかし『長期政権与党』は『』などと狂った考えを大衆に擦り込んでいる。投資で損をしたら老後が来る前に首でも吊るのか? こんなものはでしかない」


「——こんなものが真っ当な経済政策として取り扱われ、もはや『一億総中流化社会』は古き良き日の夢である。かくの如き現代社会では『経済』を動機として投票する人間の方が少数派なのだ。現に『長期政権与党』がいくら選挙に勝とうと投票率は選挙の度に最低記録を更新するような状態になっているではないか。6割にさえ届かない。その中での得票率を考えたらこの日本社会の何割が『長期政権与党』を支持しているものやらだ。誰もが豊かになれるわけでない社会に於いては『経済』は大衆の主たる投票動機とはなり得ない。必然投票動機は『お前の考えは気に食わん』になるのだ。『お前の考え』、それはつまり『お前の』ではないか!」


「——だが『左翼・左派・リベラル勢力』からしたら、選挙時にあらゆる思想が選択肢として選べる選挙は悪夢でしかないだろう。いつまでもいつまでも日本の大衆の投票行動が『景気』であるとか『経済』であって欲しい事だろう。その方が平和だからな。しかしそんな昭和時代は終わったのである。『改革!』『改革!』と熱狂して自らの手で葬り去ったのである。いつまでも昔の夢を見続けるなど見苦しいにも程がある。『左翼・左派・リベラル勢力』が大好きな。日本も選挙時にはあらゆる思想を並べておく必要があるのは当然の事だ!」


「——選挙とは政策を選ぶのではない! 誰に投票すれば社会をこんな状態にしてしまった者どもに対する報復が成るか、これで投票先を選ぶのだ! 選挙の本質とは『』にある。『左翼・左派・リベラル勢力』は『合法的報復』すらも恐れて『最初から選択肢を用意させなければいい』という考えを持っているようにしか見えないが、『合法的報復』を封じると今度は〝手製の銃で政治家が撃たれる〟という『違法的報復』が必然的帰結として起こるのだ」


「——我こそは『良心的に見られたい、だからそんなものは認めたくない』という者は表面上多い事だろう。しかし政権交代の動機が、『現状に対する不満』である事を否定できる者は『左翼・左派・リベラル勢力』であろうともまず。『現状に対する不満』、それは必然『現政権に対する報復』になるしかない」


「——『投票率は下がり続け、政権交代は起こらない』という現象は、『報復を託せる政党が野党の中に無い』と大衆に見なされているからなのだ。例えば『韓国発祥のカルト宗教』の教義を激しく責め立てる政党が存在するのかね? 誰も、どの政党も日本人の立場に立たない、誰も該当者になり得ないのなら投票率が下がり続けるのも至極当然ではないか」


「——しかしこの状態は『報復が起こらない』事を意味するものではない。〝不気味ななぎ〟と言える状態だ。この際だからハッキリと言っておく。『一億総中流化政策』を放棄した『長期政権与党』を大衆が支持する動機は無い。それどころか間違いなくアレは日本民族にとっての報復対象なのである」


(演説は元の線路へと戻ってくるんだろうか?)とかたな(刀)は思う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る