第四百二話【その『右』は〝本心〟か?(その2)】
「『右派』というのは実に分かりにくい。というのも『右翼』は自分で名乗っている分ハッキリしているが、これが『右派』となると、他者からそう見なされているだけの存在でしかないからだ」と仏暁、冒頭を切り出した。
「——もちろん〝見なす〟のは『左翼・左派・リベラル勢力』なマスコミというのはお約束。ただ、そのマスコミは海外も含む、という点には要留意だ。アメリカマスコミはこの中にもちろん入っている。決して日本のマスコミ限定というわけではない。この連中に『右派だ』と言われて積極的に否定せず迎合する行動をとらなかったら『右派』という事になる」
「——『右派』にされる方法は実に簡単だ。靖國神社に参拝すればもれなく『左翼・左派・リベラル勢力』が『右派』にしてくれる。たったのこれだけの行為で。特に政治家は」
「——こうしたやり口について私の感想を述べる。『左翼・左派・リベラル勢力』は日本民族にとっての害悪なり。コイツらが〝或る政治家〟を『右派』に認定するということは、『その政治家は外国の利益のためには働かない』と言っているのと同じになるからである。それくらい『左翼・左派・リベラル勢力』は日本以外の国の価値観のために働いてきた。韓国のために、中国のために、そしてアメリカのために。拉致問題確定前には北朝鮮のためにすら働いてきた。口癖が『外国が日本を非難している! 日本が国際社会で孤立する!』ばっかりの奴らだ。そんな奴らが『アイツは右派だ!』と〝或る政治家〟を非難したなら、必然非難された政治家は『愛国者』に見える。靖國神社に参拝するだけで『愛国者』に見える!」
ここで仏暁は下を向き
「——〝見える〟。そう、まさしく『見えるだけ』なのだ」
仏暁、顔を上げる。
「——誰の事を念頭に置き『愛国者に見える』と言っているか分かるかね? 諸君。2001年から2006年の間の5年余りに渡り首相の座にあった、やはり長期政権与党の首相の事だ!」
「——この首相は在職中、1年に一度、必ずどこかで靖國神社を参拝し、そのつど国内外の『左翼・左派・リベラル勢力』マスコミとその仲間達から参拝行為を非難された。この連中どもによってこの『毎年靖國参拝首相』は『右派』と認定されたが、そうした攻撃が首相の支持率にはまるで影響を及ぼさず、逆にどんなに非難されても参拝を続けるところから『毅然としている』と評価されるようになり、却って支持者を強く引き寄せる力とさえなった。『左翼・左派・リベラル勢力』達によって『右傾化』なることばが使われ始めたのはこの頃だ。かくしてこの首相は『愛国者に見える』ようになった。これを計算してやっていたとしたらどうだろう?」
ここで僅かの間を取る仏暁、
「——もう私の言い様で気づいている筈だ。私は『毎年靖國参拝首相』を愛国者とは見なさない。では『愛国者』とは何か⁉ それは『日本人のため』と考えられる者である! 決して外国人の利益の代弁者にはならない者だ!」
「——だが『毎年靖國参拝首相』は『左翼・左派・リベラル勢力』と同じく外国の価値観のために働く同じ穴の
「——『毎年靖國参拝首相』と言って思い浮かぶは『郵政民営化』だが、この『郵政民営化』なる政策はアメリカ合衆国からの政治的要求であった。これは陰謀論でもなんでもなく、アメリカ政府の中のアホウどもが自ら在日アメリカ大使館のサイトでわざわざ日本語訳にして『年次改革要望書』として暴露していた事なのだ。まあ奴らに〝暴露〟という意識は欠片も無く『正しい政治的要求を日本に対し
「——仮に『郵政民営化』について、百歩どころか一万歩譲って元はアメリカ政府から要求された政策だとしても、それが日本人のためになったというのなら、まだ言い訳の成立する余地はあるのだが、『郵政民営化』した結果、民間企業の悪い部分だけが突出し『自らの営業成績のため医療保険を不正に売った』だの『費用がかさむのでポストの数を減らす』だの、そんな話しばかりが聞こえてくる。民営化の結果契約者に害悪を与え逆に不便化しつつあるのだ。『郵政民営化』さえやらなければポストの数を維持するだけの費用を捻出できていたのなら話しは明らかに違ってくる。ハッキリと言ってやるが『郵政民営化』は明らかな失敗政策だったのではないか」
「——元々ハガキや手紙の配達で儲かるわけが無いのだ。そのお値段数十円だぞ! 数十円でどんなに遠くにも届くのだぞ! この事業で儲かるか儲からないかそんな事は少し考えれば解りそうなものだ。赤字が確実で、しかし近代国家としては必要不可欠なシステムをどう国家財政に悪影響を与えず維持していくか。そうした〝純粋な郵便事業〟の赤字分を『銀行的業務』で補っていたのが郵便局という組織だったのに。その日本の先人の知恵をアメリカ人というアホウの要求で壊してしまったのが長期政権与党の政治家どもだ。『儲けが出ている事業を郵便が食い潰している! 事業を分けるべきだ!』とか言っていた奴は頭にウジが涌いているに違いない。おかげでかの『前島密』が苦心
「——しかしこの『毎年靖國参拝首相』がやらかした最も致命的な政策は『労働者派遣法』の改正である。元々これは1986年に施行された法律で、この時は『専門知識が求められる16の業務に限り、許可制ないし一部届出制で労働者派遣事業を行う事を可能とする』ものだった」
「——この後10年、この『労働者派遣法』という法律に手が加えられる事は無かったが、バブル崩壊後の1996年以降、長期政権与党の歴代政権が続けてきた『行政改革』『構造改革』の流れを汲む〝規制緩和推進路線〟という政策によって『労働者派遣法』は〝この間改正したばかりなのにまた改正〟という頻繁に改正される法律となっていく。これは長期政権与党の首尾一貫した政策であったのだ」
「——というわけで、まず1996年改正で派遣が可能な業務が『16』から『26』へと拡大された」
「——その僅か3年後の1999年改正では『派遣可能な業種が原則自由化』という事になった。それまでの『労働者派遣が可能な業務を明示する』ではなく、『労働者派遣を禁止する業務を明示する』という形態の法律になったのだ。つまり禁止されたもの以外は労働者派遣が可能となるから『原則自由化』という意味になる。ただしこの時『製造業務』は禁止業務とされていた。つまり工場労働者の派遣社員は不可。工場労働者は正社員でなければならなかった」
「——しかし、製造業を経営する大会社視点では不況になったら簡単に首を切れる制度はぜひとも欲しい。工場労働者の正社員は〝不況時の重荷〟という認識であった」
「——この砦を決壊させた男、それが『毎年靖國参拝首相』だった。この男が首相在任中の『労働者派遣法』の2004年改正によって、それまで禁止業務として定められていた『製造業務』に関する派遣が1年の期限付きで認められるようになった」
「——ここが『日本の少子化対策』の決定的なターニングポイントとなった。この2004年の『改革』はこれまで以上の非正規雇用増大政策だった。2004年に30歳だった者の生年は当然マイナス30年だから1974年となる。もうお解りだろう諸君。いわゆる団塊ジュニア世代は1970年から1975年生まれとされている。つまり結婚適齢期である30歳前後の人間が最も多くいた時代が2004年だった。そんな時代に雇用される者の不安定化を図る仕組みを造ってしまったらどうなるか? 結婚できない者、いや、もっとハッキリ言うなら結婚できない男が続出し、当然ながら子どもは生まれない。この程度の将来の予測すら立てられない無能どもがこの国の政治を動かし支配していたのである!」
「——その証拠に『改革』という名の『改悪』はまだ止まらなかった。『改革』とさえ言っておけば支持されるという異常な時代はまだまだ続いていく。2007年、またも『労働者派遣法』が改正され『製造業務』の派遣受け入れ期間が最長3年に延長される。これは別にプロ野球選手などの〝3年契約〟とは訳が違う。3年契約なら働けなくてもお金は3年分確保できるが、非正規雇用は途中で『もう来なくていい』と言われても3年分の賃金は受け取れない。待遇などこれまで通りだ。1年ごとの更新手続きをしなくてよくなった分、さらに雇う側に都合の良い制度となっただけの事だ」
「——そうして運命の2008年がやって来た。いわゆる『リーマンショック』だ。その影響で非正規雇用の社員の首が次々切られる事態となり、今さらながらに初めてこれが『改革』という名の『改悪』である事が広く誰の目にもハッキリとした。しかしこの一連の『改悪』で雇用側、即ち会社側は容易にこの危機を乗り切れたのである。その代わりしわ寄せは弱者に来た。当時20代から30代を多く含む非正規雇用の社員達は次々首を切られた。そして生活保護受給者の数は2008年を境にうなぎ登りになり、どうひいき目に見ても『改革』の結果却って公金の支出が増大する事態になってしまったのだ」
「——この時『左翼・左派・リベラル勢力』な日本人マスコミは『年越し派遣村』なることばを多用し流行語にし政権を攻撃したのだが、そもそもコイツらは『毎年靖國参拝首相』の改革を否定するどころか推進側の立場に立っていた奴らじゃないか」
「——そして工場労働者の非正規雇用の社員切り、大量派遣切りは『物作り大国・日本』の終焉をも意味していた。政治家やマスコミの奴ら上級国民どもは製品に刻印された『MADE IN JAPAN』のブランドをまったく理解していなかった。最後の段階、ブランド化する過程を担ってきた者達を経営の邪魔者くらいにしか思っていなかった。かくしてこの後長期政権与党の政治家どもは『観光立国・日本』などと言い出すようになった。それくらいしか思いつかないからだ。日本も『ギリシャ』のような国へと一直線で向かっていけというわけだ。そんな国で国民のために用意された専らの仕事はサービス業ばかりとなった。ところがこの業種は人により向き不向きが間違いなくあり、大量の社会不適合者を生み出す元凶ともなった」
「——結局のところ『改革』という名の『改悪』政策は日本人の心に日常的不安を植え付ける政策でしかなかった。『不安』という感情の意味、不安という感情は伝染病のように広がっていくという政治的洞察力すらこの長期政権与党の政治家は持ち合わせてはいなかった。2世、3世、あるいは4世の世襲議員どもが要職を占めているようならそれも道理と言うべきか」
「——かくして大衆は、たとえ己が派遣社員でなくても誰もが〝今後の自分の身分〟に不安を抱くようになっていく。現に『40歳定年制』などという主張が大企業経営者の口から飛び出し、大衆の中の不安は益々増大しつつある。もはや大企業の正社員でさえその地位は危うい。受験世代、本当に勉強ができる者の受験大学は大学名ではなく学部名で選ばれるようになった。そう、『医学部』だ。『お前ら、東大へ行け!』はもう古くなりつつある。今や『お前ら、医学部へ行け!』が将来の安定を得るための真のパスポートだ。ただ、医師というのは非常に重要な仕事だが、『医学部』だけに異常に人気が集中するというのはこれは政情不安な発展途上国に暮らす子どもたちの願望パターンそのものだ。これが今の日本なのである。『不安』という感情に支配された国で暮らす人間がとってしまう行動なのである。これに気づかないのはこうした社会を『改革』によって造り上げた政治家を始めとする上級国民のみだ。まだ『改革!』と言っておけば正しく見えると思っている。では『寛政の改革』だとか『天保の改革』とやらは成功したのかね? この程度の教養すら持ち合わせていない『改革バカ』な奴らに人の上に立てるほどの能力があるのか?」
「——この現代日本が嫌でも向き合わされる人口問題は『改革』という名の『改悪』政策の延長線上にある。私は後々の後悔の事を考え『やらないよりはマシだろう』と、今さらながらの『少子化対策』に消極的ながら賛意を示したが、『少子化対策』が本当に功を奏すであろう最後のチャンスは『改革』という名の『改悪』に狂奔していた2000年代、この時だったのだ! その機会をむざむざ潰し、潰すどころか逆に『少子化促進政策』をしたのが『毎年靖國参拝首相』率いる長期政権与党なのだ。〝その時代に社会を支配していた上級国民の利益〟という極超短期の刹那的目的のために国の将来を棒に振ったのだ!」
「——若者を結婚できないように仕向ける政策を行う政治家のどこが愛国者か! 何が右派か! その当時の若者は今や五十歳過ぎだ! こと結婚に関してはもはやどうにもならない歳である! それは日本という国家が手遅れになったというのと同義なのだ。これのどこが日本人のための政策だったのか⁉ こんな事をしでかした奴が靖國参拝で愛国者気取りとはな! あの首相には靖國神社を道具として使った事に怒りと憎しみさえ覚える!」
「——しかしあの〝運命の2008年〟、この時既にその『毎年靖國参拝首相』は首相をとっくに辞めていて、まんまと勝ち逃げられた。しかし長期政権与党の方は逃げ切れなかった。『不安』という感情を社会に拡散させる政策ばかりを繰り返してきた長期政権与党は、この後大衆の報復を受ける事になる。それが政権交代である」
(だけどそれ、あっという間に〝元に戻るという意味での政権交代〟したよね?)とかたな(刀)は昔の社会の授業を思い出し、思う。
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