第四百一話【その『右』は〝本心〟か?(その1)】
「さて、その『右翼』だが、諸君は『右翼』にどのような〝感情〟を持っているだろうか?」と仏暁。そして問いかけるような〝間〟を置いている。
(かんじょう?)と心の内でそのことばを反芻するかたな(刀)。
「——きっと『怖い』『近づきたくない』といった〝感情〟を持っている事だろう。この私とて例外ではない」仏曉は言った。
(『極右』と名乗ってる人がそれ言いますか?)とかたな(刀)。しかしその一方で仏暁の言った事は一般人にとっては確かにその通りでもあった。
「——しかしそういった感情にも根拠はある。先ほど取り上げたばかりの『TYOSGQ便事件』がそれだ。この事件は『長期政権与党の有力政治家・副総裁が大企業から5億円の闇献金を貰いました』で全ての説明が終わる事件ではない。この事件をきっかけにまったく別件の〝過去の問題〟が露見した」
「——この事件、『右翼』が絡んでいた。しかも『右翼』を名乗る『暴力団』であった」
「——順を追って説明すると1980年代半ば過ぎの頃、長期政権与党内最大派閥の中で確執が起こった。『金権政治』の象徴とも言える派閥にして『親中国派』と目されていた派閥だ。当該派閥のトップが病で倒れた事をきっかけに、派閥のトップを『替えよう』という者達が現れ、一方派閥のトップはそれをよしとせず、かくて派閥内抗争が起こった。結局この政争は『替える派』が優勢で、1987年、派閥からの大量脱退者を出す形で新たな派閥トップが決まった」
「——この騒動に一切〝思想性〟は見いだせない。単なる権力闘争だ」
「——そしてこの1987年は究極の権力闘争の年であった。『長期政権与党のトップである〝総裁〟を誰にするか』、という闘争だ。それはイコール『次の内閣総理大臣を誰にするか』という意味を持つ闘いであった。ところがこの次期首相選びに〝暴力団が影響を及ぼしていた〟とすれば事は穏やかではない」
「——『右翼』を名乗る暴力団から標的として定められたのは先ほど触れたばかりの『最大派閥の新たなトップ』となった政治家で、最大派閥のトップ故に次期首相候補の一番手と目されていた」
「——『右翼』を名乗る暴力団は、後に『誉め殺し』という流行語を生んだ街宣手法を、この政治家に対して執拗に繰り返した。分かりやすく言うとそれは〝皮肉攻撃〟となるだろうか、脅迫罪で警察に逮捕されないような工夫であると考えられる。だがことばの中身がどうあれ『街宣』という行為は必然大音量を伴うというのは変わらない。これを延々やられた側は相当に迷惑だった事だろう」
「——真の問題はここからだ。件の副総裁は『最大派閥の新たなトップ』から『右翼』の街宣活動をどうにかするよう問題解決を求められた。しかし件の副総裁は警察に相談する事は無かった。『右翼』を温和しくさせるため、TYOSGQ便という物流会社の社長に〝仲介役〟を依頼した。そしてこの社長はいったいどういうコネクションなのか、有力暴力団に『右翼の街宣活動をやめさせてほしい』と頼み込んだ。それが功を奏したか『右翼』の街宣活動はやんだ」
「——だが当然の如く代償はあった。この汚れ仕事を引き受けた物流会社の社長は暴力団から〝金策〟を求められ続け、バブル崩壊も手伝って会社に大損害を与える事になる。それ故事件が発覚した訳だが、どういうわけか自らが汚れ役となり世話をしてあげた件の副総裁にまでお金をあげていたというのは謎だ。『普通逆じゃないか?』と率直に思った。この社長は会社のカネを気前よくおよそ誉められない連中にバラ撒いてばかりで、これらの行動にいったい何の利があったのか? だからこそ理解不能なのだ」
「——さて諸君、ここまでのちょっとばかりの政治ウンチク話しは少し長い前フリだ。本論はここからだ。なぜ暴力団は『右翼』を名乗りたがるのだろうな? 『左翼』を名乗ってもいいと思うのだが、暴力団が『左翼団体』を造って『左翼』の名の下に事件を起こしたという話しは聞いた事が無い」
「——日本ではどういうわけか『左翼』がインテリぶっているが、共産主義は暴力革命を否定していない。〝暴力〟というつながりで『暴力団』が『左翼』と名乗っても実は違和感は無いのだ。この点むしろインテリの方が『左翼』に向いていない。なにせ高尚ぶる理屈屋は暴力は不得手そうだからな」
(……)ただ今内心でもかたな(刀)絶句中。
「——また『TYOSGQ便事件』が露見したすぐ次の年の1993年には『右翼』絡みの別の事件が起こっている。『右翼団体主催者』がASH新聞東京本社役員応接室で同社社長と会見中に拳銃自殺するという事件が起こったのだ。『拳銃』だぞ『拳銃』。『拳銃』と言えば『暴力団』じゃないか! 誰からどうやって手に入れたんだ⁉」
「——1991年にソビエト連邦が崩壊し、『左翼』の凋落ぶりが誰の目にも明らかになった直後と言っていいくらいの1992年、1993年というタイミングで『右翼』と『暴力団』は同じイメージとなって大衆の記憶に焼き付いた。即ち『怖い』『近づきたくない』という感情を持たれる存在になった」
「——これらの事件から唯一ハッキリと理解できる事があるとするなら『日本では〝右翼〟と名乗ってはダメだ』という事である。日本の『右翼』は他者を脅しはするが大衆の支持を得ようとすることばを喋らない。むしろ大衆から怖がられ敬遠され『近づきたくない』と思われるような事ばかりをしてきている。これは『左翼・左派・リベラル勢力』から見たら実にイージーな敵だ。もはやその存在自体が『左翼・左派・リベラル勢力』の利益になっている。その証拠がこの日本に於ける言論空間の勢力図である。1991年に『左翼』の総本山ソビエト連邦が崩壊してもなお『左翼・左派・リベラル勢力』はここ日本に於いて勢力を維持し続けたのだ。そのためこの日本という国が外国人どもからどれほど理不尽な目に遭ってきた事か! 大衆の支持を得られないどころか敬遠され『左』の利益になる『右』に、日本社会に於いてどんな存在意義があるというのだろう!」
(言いたい放題に聞こえてことばを選んでいる…よね——。日本の『右』は偽装、って、)とかたな(刀)は思っていた。
「——これと同じ事が『右派』についてもまた言えるのだ」仏暁のテーマが『右翼』から『右派』へと移っていく。
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