第四百話【『30年政治改革』】

「私がたった今なにげに口にした『無能』。このキーワードはかなり使える」と、仏暁。


(いや、ドギツくてぜんぜん〝なにげ〟には聞こえなかったから)とかたな(刀)。


「——韓国と対決し勝とうと思うなら韓国側につく者どもをまず『日本人にとって信用のならない者ども』として葬り去る必要がある、と私は言った。韓国側につく者ども、その中に間違いなく長期政権与党がいる。しかしヤツらに『〝親韓〟だから攻撃された』とひと言で断ぜられないよう、そこは工夫を凝らす必要がある。と言うのも、こと韓国絡みとなると長期政権与党の政府と『左翼・左派・リベラル勢力』な日本人マスコミは結託するからだ」


「——故に『無能』というキーワードが〝攻撃の正当化〟の鍵となる。『長期政権与党は政権を担うに値しない無能政党である』と言ってやるのだ」


「——しかしそのためにはまず『無能』の定義を明らかにしなければならない。字面じづら通りに『能力が無い』と言ってみても抽象的に過ぎる。そこは具体事例が必要だ」


「——しかしその〝具体事例〟のチョイスがまた問題となる。繰り返しになるがここで『韓国』を絡めて〝無能〟と言うのは攻撃手段として上手くない。そうした手段だと長期政権与党側の味方になる有力なる者が必ず現れてしまう。言わずと知れた『左翼・左派・リベラル勢力』な日本人マスコミだ。『韓国』というのは紛れもなく外国であるから、これは〝外交の問題〟になる。日本と外国が摩擦を起こした際に〝必ず外国側の片棒担ぎをやる日本人は出てくる〟という予測くらい立てられなければそれこそ『無能』というものだろう。そこで一考が必要となる。外交とついになっているのは内政だ。ここは『〝内政の問題〟無能』と言ってやるのが効果的だろう」


「——ところで、与党を『無能だ』と言うからには連中のやっている『政策』に明らかな瑕疵かしがなければならない。が、しかしこれが個々人の立場によっては『瑕疵かしに見えない』という事は普通に起こり得る」


「——例えば内政問題のド定番が『消費税増税』という政策についての問題だ。この政策を実現し消費税増税した直後にもう次に何%にするかという話しすら出てくるのはこれまで何度もあった。これは『消費税増税論者』というのが少なからず存在するからだ。財務省だけではない。マスコミの中にもいる。時にアメリカ人という名の外国人の中にまでこうした者が出てくる。この連中は『日本の財政の健全化のため、消費税増税は必要不可欠だ』という考えに固執していて、長期政権与党が不況下に消費税を増税し日本人の消費行動を冷え込ませて不況状態を持続させ、またもっと悪い状態を造り出してさえも〝政策の瑕疵かし〟とは決して認めないのである」


「——だからこそ、なにを持って『無能』とすれば、長期政権与党の味方につこうと思っている奴らに事ができるのか、その選択が決定的に勝敗を分けるのである」


「——答えを言おう。それは『』だ。政治家どもは『政治改革』ということばを実によく使う。これさえ口にしておけば〝真面目に政治に取り組んでいるように見える〟と、そう言わんばかりだ」


「——だがこんな事を言っていると『〝政治改革〟、けっこうな事じゃないか。〝政治改革〟をすると無能扱いにされるのはおかしい!』という声の矢が、どこからか飛んできそうだ。だが一歩引いて考えるなら『政治改革』のきっかけは常になのだ。その不始末の処理のために国会の会期が浪費されるのはあまりにふざけた話しとは思わないかね? その分すべき事をする時間が削られるのだぞ。それとも日本には他に社会問題は無いとでも言うのか⁉」


「——『国会の会期の浪費』とはとどのつまり〝時間〟だ。私は〝時間〟を問題としているのだ! この場にいる諸君の年齢層なら私の口から聞かずとも先刻承知だろうが、いったいいつから『政治改革』をしているのかね? 『政治改革』などと大仰おおぎょうに言ってみても何をするかといったら『政治資金規正法』という法律をマトモに造るだけなのだ。そんなものは国会の一会期で済む仕事だ。なのにもうかれこれ30年以上の時間をかけてまだ『政治改革』が終わる気配が無い!」


「——『改革』『改革』『改革』『改革』と政治家どもが繰り返し同じ事を喋り続けて30余年、この上『まだ改革が必要』と曰うのが長期政権与党の政治家達だ。これだけ時間をかけてまだ仕事が完遂できないとなれば〝無能〟という結論を出すしかないではないか!」


 自然発生的に拍手が涌いた。

(〝外国叩き〟しなくても拍手って起こるんだ)と軽い驚きを覚えるかたな(刀)。


「——しかし『政治家どもは30年以上昔からずっと〝政治改革〟と言い続けてきた』と言われても若い人はピンとは来ないのかもしれない。実は私も、あまり若くもないがピンとは来ていなかった。が、調べてみて呆れた次第となった。そこで極めて不毛だが、ざっと『政治改革の歴史』に触れておく必要があると考えた」


(あっ、もしかしてわたしか野々原君の反応を見られたせい?)


「——『政治改革』という造語が政界やマスコミ界の流行語になったのは大まかに言って1980年代後半から1990年代始めにかけてであった、」そう言いながら例によって手元のファイルを繰っていく仏暁。


「——まず、バブル時代の初期の1986年、新進の人材採用支援企業『RCRT社』が、不動産を業務とする子会社の『未公開株』を政治家達に配っていた。事が露見したのは1988年のバブルまっただ中。未公開株は市場で公開された途端にいい値がつく。即売却すればなかなかの額の現金となるし、時代も時代だからそのまま持っていても株価はどんどん上がり株の価値も増してゆく。この問題が『政治改革ブーム』の火付け役となったと見て間違いない。これがいわゆる『RCRT事件』だ。ただこの事件、〝広く薄く〟配ったというのが特徴で、もちろんその中に『長期政権与党の有力政治家達』が含まれていたのはお約束だが、『野党議員・経済界・マスコミ企業の有力者』にさえ未公開株はバラ撒かれていたというカオスな問題でもあった。一般的にイメージされる〝政権にだけ打撃が来る政治スキャンダル〟とは一概に言い切れない事件であったのだ」


「——しかしそれでも長期政権与党にダメージは来た。事件発覚時の内閣は総辞職の運命を辿った。これでも事態は収拾せず1989年参院選で当該政党結党以来、初の〝参院単独過半数割れ〟となってしまった。この事件をきっかけに『政治改革』され『公職選挙法』が改正となったとの事だ」


「——しかしこれで『政治改革』は終わりにはならなかった。1992年、ほどなく次の事件が明るみに出たからである。長期政権与党の或る有力議員が『TYOSGQ便』という物流会社から5億円の闇献金を受領していた事件である。いわゆる『TYOSGQ便事件』というやつだ。ちなみにこの〝長期政権与党の或る有力議員〟というのが既に触れた『〝韓国発祥のカルト宗教の教祖〟を超法規的措置で日本国内に入国させるよう法務省に働きかけたあの副総裁』なのである」


「——その結果、長期政権与党の副総裁は『政治資金規正法』違反で略式起訴され罰金処分となったが、その罰金額は20万円だったという。ちなみにこの副総裁は世論の猛反発もあり、結局〝衆議院議員辞職〟に追い込まれる事になるのだが、これは法的処分ではない。自然『政治資金規正法という法律はおかしい』、という流れになり、いよいよ『政治改革』は政治家達が解決すべき〝いの一番の政策課題〟となり、マスコミの常套句となり、政治家が選挙時に叫ぶ常套句ともなり、ブーム化した」


「——そしてあれから30余年、ずいぶん長い刻が経った、」


「——なのにまだ『政治改革』が済んでいないのだという」



 仏暁、ここで間をとった。

「——30余年も前から『政治改革』していて、この上まだ『政治改革』しなければならないのなら最速の手段がある」


 もはや『韓国』の話しなどどこかへ飛んでいるが、場内固唾を飲んでいる。


「——長期政権与党とはまったく別の日本政府がやるしかない」

 一転ざわめく場内。

(政権交代? って、どこと?)思うかたな(刀)。しかしすぐに仏暁が次のことばを継いでいる。

「——ここで諸君には今から一時いっとき、〝閑話休題〟をお許し願いたい」

 あっけにとられる者、口からことばが漏れ出る者、反応は様々。ジェットコースターのような演説となっている。

「——私は元々『〝学校教育現場で起こる諸問題の解決法〟について語る講演活動』しか、してこなかった。語る範囲は極めて限られていた。『思想絡みの言論』などというのは門外漢もいいところだった。この領域に私を引きずり込んだのはムッシュ遠山だがその時訊かれた事は極短かった。『思想での〝勝てる言論〟も可能かね?』と」


(『閑話休題』どころじゃない、こっちが〝本線〟だ、)と感知したかたな(刀)。


「——私は『それなら〝右〟でしょう』と即答し、ムッシュ遠山も『そうか、やはり〝右〟か』と応じました。『左翼』や『左派』や『リベラル』ではダメだろうと、そういう直感だけはあった。こうした〝左連中〟が大衆に好かれているとは到底思えなかった。思えなかった理由も実に簡単なもので〝〟だ。人は上から目線で一方的な価値観を押しつけてくる者に反感を覚えるものだからだ」


(嘘、『思想』ってこんなカンジで決めちゃうの?)


「——ただ、そう訊かれた日、私は『右』についてド素人もいいところで、まったく何も解ってはいなかった。そして後日改めて調べてみると〝呆れた〟次第となった。だから思想的立ち位置は『極右』しか残っていないと判断したわけだ。『極右』などと聞くと『右翼』よりもさらに悪いと、そんなイメージしかないのにな」


(ならなぜそういう極端な方向性へ?)


「——だから〝呆れた〟理由を明示しておく必要があると考えた。それが〝閑話休題〟する理由だ」仏暁はそう口にしたのであった。

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