第三百九十七話【『無能政党』と言ってやればいい!】

「しかしちょっと待って欲しい、」と仏暁。


(あらら、なにこの梯子はしご外しは、)とかたな(刀)。


「——〝怒り〟という感情は大事だ。怒りという感情を表に出さない者がイジメの標的になるという現実もある。だが〝いきなりナイフで刺す〟だとかそんな怒り方をすればバカを見る。何事もそうだが、後先考えずに怒りを爆発させると己の身に〝損〟となって戻ってくるものだ。王手はいきなりはかけられない。そこは〝〟という器用な怒り方が求められる」


(ド直球が来ると思ったら、変化球で来るね)とかたな(刀)は『極右』を自称する割には一筋縄ではいかない仏暁節を実感する。


「——例えばあまりに〝韓国憎し〟で凝り固まっていると、〝私の喋った事〟にも『手ぬるい!』と腹が立ってくるといった事も起こり得る。この状態を『煽られる』という」


 仏暁に『韓国について一席ぶってくれ』とリクエストした雨土は腕組みをしたまま表情も変えずにこの話しを聞いている。


「——具体的にはこういう事だ。的中していると思うか、はたまた外れていると思うかは各人に拠るとしか言い様がないが、私は、『韓国発祥のカルト宗教』への日本人の〝憎しみ・怒り〟が、じき韓国そのものへと向かうことの無いよう、『日本政府・長期政権与党の方へ向かうような情報』を韓国政府が情報公開したのだ、と分析した。『そういう分析をしておきながら長期政権与党の政府を攻撃していたらお前こそ韓国政府のマリオネットではないか!』といった怒り方は、理屈として成立してしまう」


「——しかしだ、日本の長期政権与党の政府が我々日本民族のためにならないと、本気で考えているのだからそこはしょうがない。情報公開をした韓国政府の〝裏の意図〟と同じになろうと、我々は『の会員』ではない。、普通の日本人はまずを長期政権与党の政治家達はのだ」


「——だがそれを明らかにするに当たって、ここからが思案のしどころになる。日本政府はこれまで『左翼・左派・リベラル勢力』な日本人マスコミから散々攻撃されてきた。それに腹を立てた『右側陣営』が政府側、厳密には彼らが支持したい政治家個人の側に立ち〝政府擁護〟を行ってきた。その最も具体的で分かりやすい人物、それが奈良で暗殺された元首相である。またこの人物以前にも〝靖國神社に毎年どこかの時期で参拝していた首相〟がいたが、この人物もまた『右側陣営』の擁護の対象であった。これが長年に渡る『日本の言論構造』というものである」


 『日本の言論構造』と、思想を極めてシステマティックに俯瞰してみせた仏曉。


「——これは『左翼・左派・リベラル勢力』からしたら、実に便利な言論構造であった。『右側陣営が政府の政治家を応援してしまう』、この言論構造をもって『日本が右傾化している』という事にできた。外国人マスコミにご注進する際にもさぞや便利な状態だったろう。日本政府を簡単に〝右側に偏っている〟事にできたのだから」


「——ところがだ、私は『極右』を自認している。私の意志では近い将来日本政府はその極右からの一定規模以上の攻撃を受ける。そうした場合それは必然これまでの日本の長年に渡る〝言論構造〟の破壊となる」


「——すると実に奇妙な事が起こる。『左サイド』から散々攻撃されてきた長期政権与党の政府が、今度は『右サイド』からの攻撃も受けるとなると、これは『』という事になりはしまいか?」


(あっ、確かにそうなる、)とかたな(刀)。


「——私はこの日本の思想社会をぶち抜くために敢えて〝良心顔〟など捨てて『極右』を名乗ると決めたわけだが、ほとんどの人間は〝良心顔〟を捨てたがらない。極端なものを敬遠しその真ん中辺り、いわゆるを選びたがるものだ。これは『あまり欲しいとは思わないが必要に迫られ買わざるを得ない買い物』によく似ている。選挙の際の投票した先の政党を、心底応援している投票者などほぼいない事を例えた」


「——『必要に迫られ買わざるを得ない値段の異なるいくつかの物』が目の前にあったとしよう。厳密にダメ押しすると『好きだから買う物』ではないタイプの買い物だ。ほとんどの人間は〝一番高い物〟と〝一番安い物〟は敬遠し、その真ん中辺りの値段の物を選択する。これは〝政治〟についてもまるで変わりない」


「——『左』にしろ『右』にしろ極端な主張を支持する者が議会で過半数を超える事は無い。それどころかそもそも人が集まってこない。例えば日本の政治空間で、『右側』に比べ遙かに優勢な『左側』でも、『共産主義』の看板を掲げる政党の衰亡はこの現代、誰の目にも明らかだ。『極左』は嫌われるし『極右』は怖いと思われる。かくして選挙で選ばれるのは『中道・中庸』というオチになる。すると我々が極右を名乗り『長期政権与党』を攻撃するという行為が彼らを『中道・中庸』の政治勢力に見せてしまい、我々の意に反し、連中が利益を得てしまう事も起こり得る。結果的にそうなってしまったら本末転倒である」


「——と言うのも『政治は極端なものより中道・中庸がいい』といった手の〝反論〟のされ方が確実に予想されるからだ。そこでここは〝海外出羽の守〟だ。欧米と違い極端なものを排除する傾向がより強い。もちろんこれは日本を誉めてはいない。『中道・中庸』などと言っても〝そういうポジションにいるという事になっている政治家〟というだけの話しで、『中道・中庸』ばかりに権力が集中すると結局彼らも人間なので、自らのお好みのまま大衆軽視で好き放題をやり始めるのだ」


「——もちろん、〝政府を『中道・中庸』に見せるため敢えて狙ってこれをやる〟という策略は、理屈としては成り立つ。なにせ『日本が右傾化している!』という単純なフレーズにのが日本の言論空間なのである。長期政権与党の日本政府が『中道・中庸』に見えてしまうようになれば『日本が右傾化している』と言って政府の政策を縛るという言論戦術は無効化されてしまう。これを『右側陣営』がという策略、『左翼・左派・リベラル勢力』から『極右がそういう事を企んでいる!』ということにされる可能性がある」


(ずいぶんと細かいな、)とかたな(刀)。『極右は単純で大ざっぱ』ではなかったというのがけっこう意外だった。


「——しかし何が悲しくて我々が『長期政権与党』を『中道・中庸』にしてやって、却って議席数を増やしてやらなければならないのか!」


「——そこで連中が『中道・中庸』として利益を得る事の無いよう、〝封じの手段〟をあらかじめ考えおく必要がある。もうそのための手段の一端は既に散々諸君に披露してきた」


「——それが『韓国攻撃』だ」


「——日本政府は韓国宥和ゆうわ、一方我々は韓国に容赦はしない。つまり『左翼・左派・リベラル勢力』な日本人マスコミは我々と日本政府とを、のだ」


「——しかし、ただ韓国を叩けばいいというものではない。韓国に対する直接攻撃一辺倒では我々に損をもたらす。『』、これが〝〟という器用な怒り方の実践なのだ。つまり『韓国人にいいように操られ日本人に危害を加える無能政党、そんなものが日本で長期政権を築いている!』と言ってやる事だ」


(罵詈雑言にすら意味があったというの?)とかたな(刀)。


「——すると面白い事になる。『左翼・左派・リベラル勢力』な日本人マスコミは〝思想的立ち位置〟に困り始めるのだ」

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