第三百九十三話【対抗『信教の自由』戦用ー意っ!】

「断定する以上、『敵の反撃は当然ある』と、そう予測しなければならない」仏曉は厳しい表情をして言った。


「——『韓国発祥のカルト宗教』の教祖は、『日本は帝国主義時代に韓国から占領したものをすべて返して罪を償うべきだ』と曰った。韓国を男、日本を女と擬人化した上で『女は男に尽くすべし』即ち『』というのがその教義。ところがその日本が韓国に尽くすどころか宗教法人解散命令請求を行った。この流れでの教団トップの『滅びるしかないだろう』発言だ。こうして日本だけが終末するという『終末思想』が教義である事がいよいよ確定的となった」


「——私は『韓国発祥のカルト宗教』の奴らに言ってやりたいぞ! 美辞麗句で塗り固めた『教義』など口にしようとも無駄である! 『家族』だとか『家庭』だとかいうものに教義の拠り所を求めるな! 時代を見よ! 家族だとか家庭の無い者はもはや決して珍しい存在ではない。そうした人々が救われないような教義など教義とは言わん! 美辞麗句を尽くしてさえも教義たり得ずだ! それで『宗教』などと名乗るな!」


「——とまあこんな調子で奴らの表向きの教義でさえ粉砕する自信が私にはあるのだが、きっと。『なぜ日本が女なのか?』『なぜ韓国が男なのか?』『なぜ日本が韓国に尽くさねばならないのか?』『尽くさないと日本はどうなると教えているのか?』などなど、なぜなら『韓国発祥のカルト宗教』は宗教と名乗っているにも関わらず宗教論争から逃げるからである」


「——しかし逃げながら反撃してくるぞ。『』でな」


(反撃が来るの? 逃げるの? どっち?)と混乱してくるかたな(刀)。


「——日本国憲法を盾として『信教の自由を守れ!』とか言い出すのが『韓国発祥のカルト宗教』の反撃法の関の山。『教義論』を『法律論』にすり替えてくる。日本人に危害を加えながら〝日本国憲法で守ってもらおう〟とは厚かましいにもほどがある!」


(あぁ〜、憲法。『信教の自由を守れ』ね、)と合点のいったかたな(刀)。


「——なにせ反撃は始まる所ではもう始まっている。とある地方市議会で『韓国発祥のカルト宗教との関係を断つ』との決議が採択された。これに対し2022年12月、教団が前面にこそ出て来ないものの〝一信者の一存〟という形で市に対する訴訟が行われている。その中身はもちろん〝決議の取り消し要求〟だ。この名分がモロに『信教の自由を守れ!』なのだ。『信教の自由を守れ!』キャンペーンはとっくに始まっている」


「——これに日本の『左翼・左派・リベラル勢力』が半ば加担し、『信教の自由の観点から問題がある』などとしたり顔で『韓国発祥のカルト宗教』から宗教法人の資格を奪う事に、〝バランス感覚の持ち主気取り〟で反意を示すところまでは言わば〝お約束〟。『左翼・左派・リベラル勢力』は取り敢えず『人権!』と言っておけば勝てると思っている」


「——しかしだ、『韓国発祥のカルト宗教』が手本としたキリスト教の教祖イエス・キリストが『権利を護れ! 人権守れ! 信教の自由を守れ!』などと言いながら布教したかね? 結局彼は現代の感覚で言うところの人権侵害の果てにこの世を去ったが、彼の教えは宗教化され人間が存在する限り不滅となった。これに比べ『韓国発祥のカルト宗教』はどうか? 宗教団体を名乗りながら法律論を振り回すようではもはや宗教とも言えない。紛い物はどこまで行ってもしょせん紛い物なのである」


(これは『信教の自由』を持ち出されたら分が悪くなるってことなのかな?)と仏暁の内心を読み解こうとするかたな(刀)。


「——『韓国発祥のカルト宗教』が日本国憲法を主張し始めた時点でそれが奴らの〝墓穴〟となる。墓の穴を自ら掘ったなら、後は自分の意志で中に入ってもらうだけだな」とかたな(刀)の猜疑心とは真逆に、やけに余裕ありげな表情をしてみせる仏暁。


「——『信教の自由』の『信教』は、『信ずることを教える』と書く。つまり教義だ。絶対に教義の話しからは逃げられないし逃がさない」


(この強引さ、ぜったい徳川家康だよこのヒト)

 『信教の自由』で怯むようなタマじゃない事を改めて実感するかたな(刀)。


「——当然ながら『信教の自由』には、それを振り回せば、なんでもかんでも自由が認められる、などという意味は無い。『オウム真理教』という名を未だ記憶している者も多い事だろう。かの毒ガス教団だ。『』に信教の自由など適用されない。さすがの『左翼・左派・リベラル勢力』も公然と毒ガス教団の側に立てる者は希だろう」


 『シヴァ神にポアされて良かったね』。『オウム真理教』の教祖が地下鉄サリン事件の直後に実行犯達に曰ったことばである。ここに集うは高齢者ばかり。覚えている者も多かった。だが中に何を言っているのか置いてけぼりを食っている者もいて、かたな(刀)や野々原といった若い衆は完全に置いてけぼりを食っていた。むしろなぜ三十路そこそこの仏暁が知っているのか、といったところ。しかし仏暁、話しが横へ逸れて行きかねないのを嫌ってか、一切の補足説明もつけずまっしぐらに演説を続けていく。


「——我々は『韓国発祥のカルト宗教』の教義を問題としているのだ。改めて触れておくが私は『韓尊日卑』こそが『韓国発祥のカルト宗教』の真の教義であると見切っている。恐るべき事にこの『韓国発祥のカルト宗教』はおそらく世界で唯一、民族差別を宗教化した存在なのだと。つまりは人権侵害だよ。敵が『信教の自由』という法律論で来るならば当然〝目には目を歯には歯を〟で法律論返しになる。敵としては『韓尊日卑』という教義を否定したいだろう。さすればどうなる? 反論する事だろう。こうした『反論』によって法律論に話しをすり替えても宗教論へと話しを戻せるのだ」


(そうか、『韓尊日卑』という新しい四字熟語は『信教の自由』に対抗するために用意したのか、)とかたな(刀)は舌を巻く。敵の出方を『法律論』と読んで〝日本人差別の人権侵害〟という法的対抗軸を用意した仏曉であった。


「——これに『韓国発祥のカルト宗教』が宗論的に反論するためには『韓国人も日本人も幸福になる教えである』といった証明が必要である。むろん『教え』と『現実』があまりに乖離していたなら宗教団体自らが教義を破っている事になる。そして言わずもがなの事を敢えて言うが、宗教団体が『自らが布教する教え』について口を閉ざすようではもはや『宗教』とは言えない。宗教でない存在は『信教の自由を守れ!』などと要求する資格がそもそも無い」


(ひえっ! ここまで容赦無いのが極右か!)と声にこそ出さないが驚愕するかたな(刀)。確かに『お前達など宗教ではない!』と言ってしまえば『信教の自由を守れ!』という戦術を、そもそも封じる事ができる。これは究極の戦術と言えた。


「——実は実に良い仕事をしてくれている」


(え? いかにも『信教の自由を守れ!』と言ってしまいそうなマスコミだけど、)


「——2022年10月2日、日本の公共放送が特集番組内に於いて『韓国発祥のカルト宗教』の教祖の『御言葉選集』なる書籍の一節を引用し報道した事は既に触れた」


「——この『御言葉選集』なる書籍を掘り下げ取材し報道したのがASH新聞なのである」


「まさかそんな事が」とざわめく場内。


「——2023年4月27日付けの同紙に拠ればこの『御言葉選集』なる書籍は教祖が韓国で信者を前に語った説法を片っ端から収めていった全615巻にも及ぶ大著で、韓国語で書かれている」


「——ASH新聞の報道によって『韓国発祥のカルト宗教』はこの教祖様の御言葉を蔑ろにしている事が分かった」


「——と言うのも日本の同教団広報は『御言葉選集』について、『教祖が韓国で語った説教をまとめた内容で信者が拝読するが、信者の行動指針として特別に使われることはない』と曰っているのだ。『教祖様のおことばが信者の行動指針に使われない』とはこれ如何に? もはやそれは教祖を教祖とも思っていないという事ではないか。つまりは冒涜ぼうとくだ。仮にイスラム教で教祖をそのように扱ったら血の雨が降るのは確実だ。そんな信者ばかりの宗教などどうやって成り立たせるというのか?」


「——おかしな事はまだある。『韓国発祥のカルト宗教』はこの教祖様の御言葉を使わないどころか。〝教祖様のおことば〟を収めた全615巻にも及ぶこれらの大著が絶版になっている、という。これもASH新聞の報道によって分かった」


「——ただ、どういうわけかネット上にはこの大著の全文が載っている。つまり読める状態になっていると、」


「——これについて同教団は『原本を不法にコピーして掲載している』と無関係を主張し、『著作権侵害だ』と、無断掲載されたかのような事を口走っている」


「——仮にその〝無断掲載〟が真実だったとして、ならなぜ本家本元が公式掲載しようとしないのか? なぜ〝教祖様のおことば〟を教団自ら広めようとしないのか? 『イエス』のことばはありがたい言葉としてキリスト教徒達は崇めているというのにな。『アダム』や『エバ』が登場するくらい『韓国発祥のカルト宗教』はキリスト教を手本にしているのに教祖のことばはありがたくないのかね?」とチクリチクリ刺していく仏暁。


「——いったいなぜ隠す? これはどう考えても〝自分達の都合が悪くなるから〟としか考えられない。日本人に聞かれるとマズい事を言っているから、ことさらに小さく見せたり隠そうとしたりするのだ。その一旦が公共放送で紹介された『御言葉選集』の中の極一部、『日本は帝国主義時代に韓国から占領したものをすべて返して罪を償うべきだ』ではないのか」


「——〝隠す〟についてはまだある。教義どころか宗教団体名すら隠すのも『韓国発祥のカルト宗教』の特徴だ。この自称宗教は。諸君、知っているかね? この『韓国発祥のカルト宗教』の〝新たなる信者獲得の手口〟を。それは先ほども触れた毒ガス教団『オウム真理教』と同じ手口なのだ。新たなる信者獲得のため『オウム真理教』は自らの宗教名を名乗り教義を説く事などしない。『ヨガサークルです。ヨガに興味はありませんか?』と言ってターゲットに近づいてくるのだ」


「——これと信者勧誘の手口が同じなのが『韓国発祥のカルト宗教』だ。新たな信者獲得のために大学のサークルを装う。具体的には『国際交流のサークルです』であるとか、『SDGsを研究するサークルです』とかだ。そうしてターゲットを騙して集まりに参加させ、仲良くなり人間関係を造った後で『実は、』と初めて宗教名を明かすのだ。既にそうした日本人元信者の証言は揃っている。宗教名も名乗れないような連中には『信教の自由』という高尚な価値観を使ってやる必要は無い。『宗教だ』と名乗れないのだから宗教ではないのだろう、と判断してどこが悪い?」


「——日本社会に『宗教2世』なる語彙が定着している感がある。しかし、いかに当人の置かれた境遇が酷似していようと他の宗教と十把一絡げにまとめてしまうのは『韓国発祥のカルト宗教』を有利に導く策略でしかない」


「——最初から宗教名を名乗っている宗教と、最初のうちは宗教名を名乗らない自称宗教とを同じに扱うのはおかしい」


「——最初から宗教名を名乗っている宗教については『宗教2世』なる語彙を当てはめるのは適切だが、『韓国発祥のカルト宗教』や『オウム真理教』のように勧誘時に名を名乗らない奴らを宗教と認める必要は無い。その手の2世については、ズバリ『』でいい。なぜ宗教名を名乗れないのか? それは当該宗教団体自らが、から名乗れないのだ。名乗れない奴らは最初から宗教ではないのである」


 かくして仏曉は『信教の自由』を『韓国発祥のカルト宗教にとって逆にとなる仕掛け』として造り替えたのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る