第三百八十七話【カルト宗教の定義(仏暁の定義編)6 『ハルマゲドン』、その後の影響・日本人編】

「アメリカ人連中の第二次大戦観、前々からこれには腑に落ちない所があると思っていた」と仏暁は切り出す。


「——本物の戦争に『正邪』という価値観を持ち込むのは何処の国の人間でもやるものだが、それは専らに行うものだ。いわゆる『戦意高揚』というやつだ。だからアメリカ人政治家がアメリカ国民に向けて『リメンバー・パールハーバー!』と言うのは理解の範疇内だ。ところがアメリカ人ときたら戦争が既に終わっていても外国人に対しても、アメリカ人とまったく同じ『正邪観』を持つよう要求してくる。『異端は認めない』、こうした意志を露わにする。実にと言うほかない。『神』の数が〝唯一〟である以上、『正しい価値観』として出てくる数字も〝唯一〟になるのは必然だ」


「——その『正しい価値観』では、『アメリカは神の代理人の側』で、日本は『神に敵対する人間グループの側』に立たされている」


「——というような事を言っていると『宗教を持ち出し戦争など語るな! 妄想もたいがいにしろ!』などと、ことばの矢が飛んでくる事だろう。主に『親米派』から。だが、こういう考えに行き着いた根拠というものはある。それが『日本国憲法・第9条』である」


「——アメリカ人に勝手に造られてしまった通称〝平和憲法〟。その中身については日本人なら誰でも知っている。普通に読んで軍事力の保有を禁ずる憲法だ。故に法的に自衛隊は未だに軍隊未満の状況に置かれ続けている。ところが同じように連合国に対する敗戦国で共に占領を受けたのにドイツには憲法9条に該当する憲法など無い。これはなぜだ?」


「——『ドイツは2つに分割され互いに敵となったから日本とは事情が違う』? いいや、日本の方がもっと細かく分割されている。少なくとも4つだ。台湾島、そして朝鮮半島が2分割された上で日本から離れ純粋に別の国となった。朝鮮半島の北半分は明らかに敵だし南半分も竹島侵略国であるから敵だ。要するに韓国だ。無辜の日本人漁民が大韓民国という国家によって殺害されている。アメリカの造った憲法9条によって軍隊が解散させられなければ竹島侵略は防げたのだ。つまり〝互いに敵となった〟云々は日本も同じだということだ。むろん台湾島や朝鮮半島は第二次大戦どころかの日本の国土で、ナチスドイツのオーストリア併合とは訳が違うのにバラバラにされた」


「——『ドイツは東西冷戦の最前線だったから日本とは事情が違う』? いいや、という事情は日本もまた変わらない。むしろドイツというか西ドイツの方は『ソ連サイドの東欧諸国』がある分、ソ連本国とは距離が離れている。また冷戦よりも早く朝鮮戦争が始まっている。ソ連は当時のソ連製最新兵器を北朝鮮に供与する事で一枚噛んでいる。最前線はむしろ日本の近くだった。その後朝鮮戦争休戦後もソ連は北朝鮮に影響力を行使し続けた。冷戦状態になってからもソ連の核ミサイルはこちらの方にも向いていたし、自衛隊の部隊配置はソ連の北海道侵攻に備える配置だった。最前線を言うなら東の方だって最前線だったのだ」


「——置かれた状況に大差無いのだからドイツにだって『憲法9条』に該当する憲法があったって不思議は無い筈だ。ましてあの憲法は第二次大戦終結直後のつかの間の平和の僅かの時間で造られた。むしろ第二次大戦後、最初に発火したのが朝鮮戦争である事を考えるに、戦後の空気がのほほんとしていた時間はヨーロッパの方が長い筈だ。しかしドイツにはそんな〝平和憲法〟は無い」


「——この事実が全てだ。私はこの〝差〟の理由を『ドイツ人はキリスト教徒だが日本人は異教徒だから』とした。アメリカ人の行う『正しい価値観』を押しつけてくる行為はだからである。しかし『親米派』はおそらく、〝平和憲法〟を巡るこの日独の差について、私の想定した以上の回答は口にはできまい。むろん〝疑問系の反応〟に価値は無い」


「——このように『ヨハネの黙示録』『終末思想』『ハルマゲドン』等々、様々表現があるが、こうした価値観はキリスト教信者達に『勝った戦いは正しい戦い』『我々には神が味方している』『生き残るのは我々』と〝絶対正義は我に有り〟と思い込ませ、その結果同じ宗教を信じない人々に害を与えてきたのである」


「——となれば『キリスト教はカルト宗教だ』という結論になりそうなものだが、私はそれを採らない。十字軍の頃と違って今のローマ教皇は異教徒相手でも過激な事は口にせず、〝異なる宗教間の融和〟を唱えるようになったからな。今の時代に『ヨハネの黙示録』などを積極的に説けば世界を分断に導くと、そう考えているのだろう。末端信者はどうだか知らないが」


「——だが『カルト宗教』のトップは違う。末端信者に向けてはむしろ『終末思想』を積極的に吹聴し、説き、『神の助力を得て敵は滅び我々は生き残る』と公然と言い放つのだ」


「——『カルト宗教』とはなにか? それは終末思想を積極的に説き、信者に〝自分達だけは助かる。自分達以外は滅亡する〟と信じ込ませ、そのためのする宗教である。そしてその手のが客観的に見てどれほど反社会的行為であろうと構わないという価値観を持つ。このに合致するのがカルト宗教である。即ちこれが〝カルト宗教の定義〟だ」と、紆余曲折を経てここで初めてその〝定義〟を仏暁は明示してみせた。

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