第三百八十五話【カルト宗教の定義(仏暁の定義編)4 『ハルマゲドン』、その後の影響・ユダヤ人編】

「『ヨハネの黙示録』と題うたれ、俗に『ハルマゲドン』と言った方が通りのいい『終末思想』は、結論から言って後々の、そして現代のキリスト教信者達にさえと断言していい」仏暁はいきなり結論から来た。それも強い調子で。


「——私は最初に『終末思想はバカにはできない』旨話しをした。しかしそれはあくまで『終末思想』の話しであって『終末思想』ではない」


「——では『科学的終末思想』と『宗教的終末思想』はどこが違うのか?」


「——『宗教的終末思想』の一番やっかいなところは『終末する』ところにあるのではない。『宗教的終末思想』は実は『』であるところが一番やっかいなのだ。だから


(え? 『終末思想』って終末しないの?)と仏暁の言った通りに反芻して思ってしまったかたな(刀)。


「——諸君、思いだしてみて欲しい。『を得て〝神に忠実な代理人グループ〟が戦勝し、〝神に敵対する人間グループ〟は滅び、恒久平和が成る』、というのが『ヨハネの黙示録』の構造で、もちろん超常現象的な力の主は『神』である」


「——『神の意志により、終末しない人間グループがいる』事になっている以上、全てが絶滅するわけではない。〝生き残る人間達〟がいる。『正しい教えを抱く人間が生き残る』というストーリー仕立てになっている以上、『ハルマゲドン』は世界の終わりを意味しない。『キリスト教』の信者は無意識レベルで〝自分達は生き残る側だ〟と思っている」


(あっ、そうか、そういうこと、)


「——普通、イジメを受けていた者が強くなり、もうイジメられる事が無くなったなら、そこで『メデタシメデタシ』となりそうなものだ。しかし、『個人レベル』と『集団レベル』では話しは全く違ってくる。キリスト教徒が圧倒的多数派となり、『強くなったからもう私達には必要無い』と、新約聖書の中の『ヨハネの黙示録』が削除される筈も無い。当然そのまま残り続ける。それが宗教の教典というものだ。そして強者集団の集合無意識がこの『ヨハネの黙示録』の影響下にあり続けると、その集団はトンデモな性格を持つようになる」


「——まず最初の犠牲者はユダヤ教の信者、ユダヤ人達であった。後にキリスト教の教祖となったイエス・キリストとユダヤ教の間には宗教活動を巡っての軋轢があった。そうした結果イエス・キリストは十字架にかけられ処刑される。この事件に端を発するキリスト教徒達の遺恨が動機となった。『生き残る人間達=キリスト教徒』である以上、ユダヤ教徒であるユダヤ人達は『神に敵対する人間グループ』と認定されるしかない。キリスト教徒達が社会の圧倒的多数を占めるようになった時、ユダヤ人達はキリスト教社会に於いて迫害される側になった。その行き着いた先がナチスドイツによるユダヤ人ホロコーストである」


「——要するに多数派による少数派への攻撃、『集団レベル』ではイジメが始まるのだ。『ヨハネの黙示録』はイジメを正当化できる根拠になってしまった」


「——どういうわけかこのナチスドイツと日本をイコールで結ぶ『思想』がある。『日独伊三国同盟』がその根拠になっているようだが、これは単なる軍事同盟でしかない。国民のほとんどがキリスト教徒ではない日本人にはユダヤ人を迫害する動機が無い。むしろキリスト教徒達から見ればユダヤ人も日本人もであり、共に『神に敵対する人間グループ』なのだ」


「——『ナチスと一緒になってユダヤ人を迫害したのが日本』という価値観を信奉する中心勢力はアメリカ人である。特にユダヤ系アメリカ人である。そんな彼らに贈ってやることばは『そんなにキリスト教徒が恐ろしいか』である。とっくにこの世に存在しないナチス党や、脅されればすぐに謝る日本人相手にしかイキがれないのかと、率直にそう思う。バックにアメリカという国家をつけて夜郎自大になる様は醜悪だ。これは一見関係無い話しをしているようにしか聞こえないかもしれないが、『ヨハネの黙示録の犠牲者はユダヤ人だけではない』、と言っている。『アメリカ合衆国の戦争観』について『ヨハネの黙示録』の悪しき影響が見てとれる」

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